1 ルイ視点
2〜3ヵ月後に投稿予定でしたが、書いちゃいました!
資格取るため勉強中の身です。ゆっくり投稿していきたいと思います(*^-°)v
前世版の「私が愛した婚約者」もよろしくお願いします。
ティナ、君を愛している。
ずっとそばにいてほしい。
私は君なしでは生きていけないほど、君が好きだよ。
私は愛しい婚約者を抱き寄せた。
ティナは頬を赤く染め、恥じらいながらも、私に身を寄せてくれた。
真っ赤に染まった、愛らしい顔を見たくなり、名を呼ぶ。ティナの反応がなく顔を覗き込むと、ティナは「……その、恥ずかしくて…今はランス様を見れませんわ」と呟き、私の胸に顔を埋めてしまった。
心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃だった。
私の婚約者は可愛すぎる。
口づけたい衝動にかられ、ティナの頬に掌を添え、上を向かせた。か細くも、柔らかい腰にもう一方の腕を回し、顔を近づける。
ティナはキスされることに気づいたのか、赤く染まっていた頬を更に赤く染めた。それは、熟れた林檎のようで、可愛らしく、思わず笑みが溢れた。
そんな私の様子を見ていたティナは「揶揄うのはおよしになって」と頬を膨らませ、拗ねたような声を漏らした。
――揶揄ったわけではないが、ティナが可愛すぎるから。
そう心の中で呟きながら、ティナの唇に触れるだけの口づけを落としたのだった。
――ああ、なんて幸せなのだろう。
唇を離し、閉じていた目を開け、ティナを見つめる。いや、ティナを見つめたはずだった。
目を開けると、私の腕の中にいるはずのティナはどこにもいなく、伯爵令嬢が私の腕の中にいる。
驚きのあまり目を見開くと、彼女はニタリと歪んだ笑みを浮かべた。
私はいつからか、彼女との幸せだけを考えるようになった。いつしか、愛しかった婚約者を疎ましく感じるようになり、彼女の望みを叶えることにした。
靄がかかっていたかのように重かった身体が、軽くなった頃、私は愛しい婚約者を自分の手で殺めたことに気づく。
己の愚かさに嘆き、愛しい人を殺めたことに絶望した。ティナの後を追うべく、私は自分の胸にナイフを突き立てた。
――これは私の過去の、前世の記憶である。
前世の記憶を思い出したのは、幼馴染である侯爵子息・ヴィンセントの双子の妹ヴィオレットと初めて出会った時であった。
ルイ・アルファード、御年11歳。
ヴィンセントと出会って2年後のことである。アルフォード公爵家の嫡男として、厳しくも大切に育てられてきた。そのためか、昔から子どもとは思えないほど、落ち着き、大人びた子どもだった気がする。要するに、可愛げがない。
私の父と、幼馴染の父上であらせられるルミニーク侯爵当主殿は浅からぬ親交を持つ仲であった。そんな両家は、私が生まれた後も互いの館を頻繁に行き来していたそうだ。そのため、ヴィンセントと出会ったのは必然だった。彼は、初対面から距離が近く、私とは違って陽気な性格をしている。私は相手と距離を取りつつ、愛想を振り撒く子どもだった(全く可愛げがない)。そのため、最初から距離の近いヴィンセントと接するのには戸惑いを覚えたが、陽気な彼の性格に当てられたのか、いつの間にか親しい間柄になっていた。
美しく保たれた侯爵家の庭で、私は彼女と出会った。
ヴィンセントに双子の妹がいることは知っていたが、妹は病弱らしく、部屋から出ることが少ないそうで、会ったことがなかった。体調が良い日は、庭を散歩することがあるらしい。ヴィンセントに「妹の体調が良い日に挨拶をさせてほしい」と何度か頼んだことがあるが、彼には何かと理由をつけられていた。頻繁に侯爵家を訪れていたにも関わらず、2年間も妹に会ったことがなかったのは、最早ヴィンセントが意図的に接触を避けたとしか思えない。
――ヴィンセントは重度のシスコンだからな。
会うと毎回、妹の話をしてくるのだ。
「僕の天使が可愛すぎて辛い!!」
これが彼の口癖である。そして、妹のことになると人が変わったかのように、腹黒になる。
クリーム色の髪、夕日に染まったかのような橙色の瞳をもつ彼は、左目尻に黒子があり、甘いルックスをしている。年齢問わず、多くの令嬢に好かれそうな男であるが、妹しか視界に入らないようである。
彼の周囲を取り巻く令嬢たちが肩を落として諦めてしまっているのは……数年後の話になる。
そんな彼が愛してやまない妹を見たのは、侍女に身体を支えてもらいながら庭を散歩しているところだった。彼と同じ髪色、瞳をもつ可愛らしい少女だった。隣にいたヴィンセントが舌打ちをした。甘いルックスをした彼から舌打ちが聞こえたのは驚いたが、それどころではない。彼女を見た途端、時が止まったかのように身体が動かなくなった。
「……ティナ?」
無意識に呟いていた。
ティナ?
誰だ?私が愛称で呼ぶ令嬢はいない。
侍女と楽しそうに話していた彼女が、こちらに気づいたのか、目が合う。
その瞬間、頭部に鋭い痛みを感じた。痛みと同時に、誰かの記憶が流れ込む。私はあまりの痛さに意識を手放したのだった。
意識が回復した頃、気づくと私は侯爵家の客室で横になっていたようだった。貧血だったらしい。
流れ込んだ記憶は、前世の私のものだったことを思い出した。彼女の髪色、瞳の色も何もかもが違う。しかし、私はヴィオレット嬢がクリスティーナの生まれ変わりだということが分かった。
私は歓喜した。愛するクリスティーナは、私と共に生まれ変わったのだと。
今度こそ、彼女と生を共に過ごすことができる。
喜んだのは束の間。
はっとした。
私はティナに何をした?
私は愛するティナを裏切り傷つけた。
最後に殺した――。
これは自分の犯した罪に耐えきれなくて、彼女の後を追うように、死に救いを求めた罰なのでは?赦されるはずがない。私には彼女を幸せにする権利も、彼女に言い寄る資格はなかったのだ。
私の意識が回復したことを知ったヴィンセントが、客室に駆け込んできた。私はヴィンセントに詫びを入れた後、侯爵家を後にした。
馬車に揺られる間、気分が晴れることはなかった。
ご覧頂きありがとうございました!