其の一
空調の効いた講義室に、滔々と語る声が響き渡る。
視界上にAR表示されるのは、雲上の車へと乗り込む十二単の女性と、それを見上げる翁や武士の姿を描いたワンシーンだ。
「つまり―――」
講義を半ば聞き流しながら、関重明日人は『かぐや姫の昇天』の隣に表示したニュースサイトの記事を眺めていた。
(『陰陽洲』が大規模アップデートか)
VRMMORPG『陰陽洲』。
大ヒットというワケではないが、数少ない和風VRMMORPGとして、サービス開始から二年後の今も、一定の同時接続数を維持している国産ゲームタイトルだ。
贔屓目に見れば中の上くらいの人気。
そんな微妙な位置のタイトルが予定する大規模アップデートの内容を確認し、明日人は半眼になった。
呆れたように見つめるのは、新要素を紹介する一枚のスクリーンショット。
―――火縄銃型の式神を操り、鬼にオールレンジ攻撃を行う陰陽師の姿。
彼の記憶が正しければ、『陰陽洲』は平安時代をモチーフとしていたハズだ。
もっとも、戦国時代の甲冑が装備品としてあったり、平安時代初期と後期の人物が同時に活動していたりと、元から闇鍋状態だったので、銃の実装も今更なのかも知れない。
とはいえ、その新要素を紹介するスクリーンショットに、なぜ陰陽師。
「……相変わらずみたいだな」
一年前―――大学受験を機に引退した時と変わらず、やりたい放題な運営の姿勢に、明日人は懐かしさを覚える。
(大規模アップデートは、十月下旬か)
ニュースサイトを閉じて、明日人は小さく笑った。
かつて育てたキャラクターは、引退の際にアカウントごと削除済みだ。
始めるとしたら、完全に一からになるが―――
(前期試験が無事終わってから、だな)
夏休みの予定、決定である。
◆◇◆◇◆
『本ゲームは、全感覚没入及び主観時間加速機能対応型VRゲームです。
個人の体質によっては、健康上の悪影響が生じる可能性があります。
また、十五歳未満の方のプレイを推奨していません』
お決まりの警告を読み飛ばし、ゲームを開始する。
ログインの後、最初に行うのは、『陰陽洲』における現身の作成だ。
先ずは外見設定。
プリセットをベースにおおよその外見を設定し、そこから修正を加えていく。
修正は各要素をスライダーで調整する類のものではなく、プレイヤーの思考を読み取ったAIによる調整だ。
十五分後、黒髪黒瞳、中肉中背の青年の姿が完成した。
髷をゆったりはしていないので、何となく現代人っぽい。というか―――
「一応、イケメンにしたはずなのに、何かモブっぽいが……まあ、こんなものか」
次いで、【心】【技】【体】の決定。
この項目は各種能力値の大元になると同時に、特技の実装枠を決定するものだ。
割り振れる数値は、合計八点。
「二、三、三でいいか」
続いて、初期取得【特技】の選択。
【心】【技】【体】のそれぞれに割り振った数値の数だけ、対応する特技を取得・実装する。
「とりあえず、各種能力値強化系と【霊視】は必須。武器戦闘用の特技もいる。
……あれ? 【疾風足】がこの段階で取れるのか」
初期取得特技の一覧に見つけた名前に、セキは目を丸くした。
取得の条件が結構面倒だったのを覚えているので、この段階で取得できるのならと、迷うことなく選択する。
【心】【技】【体】の数値と取得・実装した【特技】の補正を受けて各種能力値が算出される。特に問題を感じなかったので確定。
さらに、初期装備を選択し―――
『貴方の名前を入力してください』
「セキ」
最後の問いに、明日人は一年前と同じ名前を入力した。
◆ステータスについて
名前:セキ
心:2 技:3 体:3
体力:1075
気力:900
力:43 速:43 耐:43
意:36 識:30 霊:24
巧:30 知:30
特技
心:【堅志】【霊視】
技:【武器習熟/太刀(初伝)】【軽業(初伝)】【疾風足】
体:【大力】【迅速】【頑強】




