再び銀座香苑の応接室に
圭のまぶたが熱い。
「貴方・・・」
圭の耳に、楓の声が聞こえた。
圭が、ゆっくりめ目をあけると、楓が圭を見つめている。
楓の瞳から涙があふれている。
圭は、その身体を柔らかいものに包まれる。
「もう大丈夫よ」
圭は、楓に、抱きかかえられている。
楓
「戻ってきたの・・・」
圭が、まわりを見回すと・・・銀座香苑の応接室に戻っている。
窓の外には、銀座のビルが見えている。
「楓・・・あれが前世なのか・・・」
圭は、楓の身体を、強く抱きしめた。
「うれしい・・・貴方・・・やっと・・・伝えることが出来た・・・」
楓は圭に、むしゃぶりついて泣いている。
楓が、涙声で話ししだす。
「こっちの時代に来てから・・・」
「初めは同じところで暮らしていたの」
「熊野と春日の御神霊のお導きね」
「大学の教授とその家族ということで、この時代に入り込んだの」
「さすが、御神霊の御力ね・・・誰も違和感を覚えることはないの」
「もっとも・・・周りを全て熊野衆と春日の血筋で固められてあったけど」
楓は、強く圭を抱く。
「貴方、相変わらず身体弱くて・・・」
「私に心配ばかりかけて・・・」
「貴方のお父様、そう、帝はさすがにというか当然だけど学問の世界ですぐに成功され・・・久我山というところにお屋敷をお建てになり、貴方と・・・そしてお母様とお暮らしになったの」
「私達は・・・比丘尼もかなり気楽な生活になって・・・好きなお香の仕事を初めて、お父様も帝を警護するように大学の仕事をなさったの・・・」
「さすがに熊野比丘尼の力はすごいの・・・あっという間にお香のお店は成功し・・・そうね、熊野の山の全ての動植物を知り抜いているし・・・人の心を感じ取るというか・・・」
扉をたたく音がする。
香苑の奥様が入ってきた。
「楓・・・あまり言い過ぎないの・・・」
奥様が軽く楓をにらむ。
「さ・・・お食事お持ちしましたよ・・・お待たせしてごめんなさい・・・」
「わ・・・うれしい・・・お腹減っていたんだ」
楓の声が明るい。
香苑の奥様が笑う。
「楓・・・はしたないこというと嫌われますよ」
「え?・・・嫌わないで・・・」
楓は、また圭にしがみつく。
「まったく・・・」
香苑の奥様は、あきれたような、そして温かい瞳で圭と楓を見る。
食事は意外にもフランス料理だった。
榊原教授も同席する。
様々な料理が出てくる。
桜チップで燻した温かいサーモン
春キャベツと帆立貝の詰め物
地鶏卵のポーチ
新葱とベーコンの赤ワインソースがけ
桜鯛のオーヴン蒸し
ビーフフィレ肉のロースト
桜とシャンパーニュのゼリー、ヨーグルトのパンナコッタ、苺のシャーベット
最後に珈琲と桜マカロン。
「驚かれましたか?」
香苑の奥様がくすっと笑う。
「実はこの世界に飛ぶ日は、貴方と楓の婚礼の日・・・少し早いけれど・・・その準備をしてありました」
「もちろん今日のメニューそのものではありませんが、桜を使ったお料理でした」
香苑の奥様の顔がやさしい。
圭は、素直に美味しいと思った。
「まさかフレンチとは、と思いました」
「しかし、美味しい」
楓は、料理を口いっぱいに頬張りながら圭に身体を寄せる。
「よかった・・・うれしい」
圭は、食事をしていて、本当に幸せを感じる。
会話は、いつのまにか現代の大学の話や、今後の就職の話など 現実的な話になっている。
「皇子は・・・今後どうなされたい・・・」
榊原教授から尋ねられた。
圭
「はい・・・できれば学問の世界で・・・」
榊原教授はうれしそうな顔。
「かしこまりました・・・全力でお支えいたします」
「帝や母君もお喜びでしょう・・」
香苑の奥様が、少し涙ぐむ。
「その前に・・・」
楓が圭の手を握った。
楓が香苑の奥様と榊原教授と教授に目配せをしている。
「わかりました・・・それでは2人きりにね」
香苑の奥様がまた、くすっと笑う。
銀座香苑の応接室での食事も終わり、楓と圭は、2人きりになった。




