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涙は風の中  作者: 舞夢
再び現世に 涙は風の中に消えていった。
27/28

再び銀座香苑の応接室に

圭のまぶたが熱い。


「貴方・・・」

圭の耳に、楓の声が聞こえた。

圭が、ゆっくりめ目をあけると、楓が圭を見つめている。

楓の瞳から涙があふれている。


圭は、その身体を柔らかいものに包まれる。


「もう大丈夫よ」

圭は、楓に、抱きかかえられている。


「戻ってきたの・・・」


圭が、まわりを見回すと・・・銀座香苑の応接室に戻っている。

窓の外には、銀座のビルが見えている。


「楓・・・あれが前世なのか・・・」

圭は、楓の身体を、強く抱きしめた。


「うれしい・・・貴方・・・やっと・・・伝えることが出来た・・・」

楓は圭に、むしゃぶりついて泣いている。


楓が、涙声で話ししだす。

「こっちの時代に来てから・・・」

「初めは同じところで暮らしていたの」

「熊野と春日の御神霊のお導きね」

「大学の教授とその家族ということで、この時代に入り込んだの」

「さすが、御神霊の御力ね・・・誰も違和感を覚えることはないの」

「もっとも・・・周りを全て熊野衆と春日の血筋で固められてあったけど」


楓は、強く圭を抱く。

「貴方、相変わらず身体弱くて・・・」

「私に心配ばかりかけて・・・」


「貴方のお父様、そう、帝はさすがにというか当然だけど学問の世界ですぐに成功され・・・久我山というところにお屋敷をお建てになり、貴方と・・・そしてお母様とお暮らしになったの」

「私達は・・・比丘尼もかなり気楽な生活になって・・・好きなお香の仕事を初めて、お父様も帝を警護するように大学の仕事をなさったの・・・」


「さすがに熊野比丘尼の力はすごいの・・・あっという間にお香のお店は成功し・・・そうね、熊野の山の全ての動植物を知り抜いているし・・・人の心を感じ取るというか・・・」



扉をたたく音がする。

香苑の奥様が入ってきた。

「楓・・・あまり言い過ぎないの・・・」

奥様が軽く楓をにらむ。

「さ・・・お食事お持ちしましたよ・・・お待たせしてごめんなさい・・・」


「わ・・・うれしい・・・お腹減っていたんだ」

楓の声が明るい。


香苑の奥様が笑う。

「楓・・・はしたないこというと嫌われますよ」


「え?・・・嫌わないで・・・」

楓は、また圭にしがみつく。


「まったく・・・」

香苑の奥様は、あきれたような、そして温かい瞳で圭と楓を見る。


食事は意外にもフランス料理だった。

榊原教授も同席する。


様々な料理が出てくる。

桜チップで燻した温かいサーモン

春キャベツと帆立貝の詰め物

地鶏卵のポーチ 

新葱とベーコンの赤ワインソースがけ

桜鯛のオーヴン蒸し 

ビーフフィレ肉のロースト 

桜とシャンパーニュのゼリー、ヨーグルトのパンナコッタ、苺のシャーベット 

最後に珈琲と桜マカロン。


「驚かれましたか?」

香苑の奥様がくすっと笑う。


「実はこの世界に飛ぶ日は、貴方と楓の婚礼の日・・・少し早いけれど・・・その準備をしてありました」

「もちろん今日のメニューそのものではありませんが、桜を使ったお料理でした」

香苑の奥様の顔がやさしい。


圭は、素直に美味しいと思った。

「まさかフレンチとは、と思いました」

「しかし、美味しい」


楓は、料理を口いっぱいに頬張りながら圭に身体を寄せる。

「よかった・・・うれしい」



圭は、食事をしていて、本当に幸せを感じる。

会話は、いつのまにか現代の大学の話や、今後の就職の話など 現実的な話になっている。


「皇子は・・・今後どうなされたい・・・」

榊原教授から尋ねられた。


「はい・・・できれば学問の世界で・・・」

榊原教授はうれしそうな顔。

「かしこまりました・・・全力でお支えいたします」


「帝や母君もお喜びでしょう・・」

香苑の奥様が、少し涙ぐむ。


「その前に・・・」

楓が圭の手を握った。

楓が香苑の奥様と榊原教授と教授に目配せをしている。


「わかりました・・・それでは2人きりにね」

香苑の奥様がまた、くすっと笑う。


銀座香苑の応接室での食事も終わり、楓と圭は、2人きりになった。


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