后は帝を毒殺、熊野比丘尼の秘法
社の扉が、突然、たたかれた。
熊野比丘尼の顔が途端に険しくなった。
「ついに・・・本当に何か・・・あったようね・・・」
扉を開けて、一人の僧侶が入ってきた。
「比丘尼様・・・実は・・・」
熊野比丘尼は、低い声。
「はい・・・やはり、先の帝の身の上に何かあったのですね・・・」
熊野比丘尼は瞳を閉じ、何かぶつぶつと呪文のようなものを唱えだす。
しばらくして
「・・・なんという・・・」
熊野比丘尼の両頬に涙が伝わった。
「何かあったの?」
母が不安そうに熊野比丘尼を見つめる。
僧侶が額を地につけ、震える声で
「后が・・・毒を・・・先の帝に・・・」
「皇子の行方を捜すばかりの帝に腹を立て・・・」
「帝のお命は・・・」
母の声も震えている。
比丘尼は、哀しそうに首を横に振る。
「何とかしてあげて・・・」
楓が、泣きながら比丘尼の胸に飛び込んだ。
熊野比丘尼の声が震えた。
「今・・・先の帝の魂は・・・恨みの思いで宙をさまよっておられます」
「・・・呼び寄せましょう・・そして・・・」
「そしてっ?」
楓が叫んだ。
熊野比丘尼
「この時代から・・・別の時代に・・・」
楓
「どうして・・・別の時代に?」
熊野比丘尼が苦しい声。
「このままでは・・・先の帝は、成仏も出来ず、怨みにより祟りをこの国にもたらすことをする」
「それは・・・先の帝も本来は、望まぬこと」
熊野比丘尼は社の祭壇の前に座り、不可思議な呪文を唱えだした。
いつのまにか、比丘尼の周りには数多くの僧侶や山伏が集まり、耳も割れんばかりの呪文が鳴り響いている。
突然、祭壇に置かれた大きな鏡に、青白い光が飛び込んだ。
社の中の呪文の声は、一層激しさを増していく。
その次に、突然、鏡に今度は赤黒い光が飛び込んだ。
「ああっ」
熊野比丘尼は、前に突っ伏して倒れた。
そして、肩で息をしている。
熊野比丘尼
「先の帝の魂は・・・別の時代に・・・送りました」
「后は・・・熊野の御神霊と・・春日の御神霊のお怒りで・・・」
「突然、御殿に上がりこんだ御神獣にのどを噛み切られ・・・」
「お付きの舎人はその瞬間は金縛りになっておりました」
熊野比丘尼の顔は、げっそりとやつれている。
「楓・・・こちらに・・・」
楓
「うん・・・わかってる。」
「貴方、お母さんの手を握って・・・」
楓の指示のもとに圭と母、熊野比丘尼、楓が手をつないだ。
4人はひとつの輪のような形になった。
熊野比丘尼、楓、母が、また先ほどの呪文とは違う呪文を唱えだす。
突然圭の耳に、とても激しい雷のような音。
そして、まばゆい金色の光につつまれ、圭は、意識を失ってしまった。




