圭の回復と婚儀の準備
「大丈夫・・・この人は私が助ける・・・」
幼い娘の声がした。
圭は、その娘は楓と、すぐにわかった。
圭が、必死に声の方向を見ると、やはり楓。
楓は、たくさんの薬草のようなものを抱えている。
楓が、母に話している。
「夫婦だから・・苦しいときに助けるのは当たり前なの」
「楓ちゃん・・・ありがとう・・・」
母は、楓を抱きしめている。
「とにかく、まず手当てよ・・・この薬草を煎じて」
楓が山伏達に指示を出している。
「はっ・・・楓様・・・」
山伏達が、威儀を正し、楓に平伏する。
母が楓に尋ねた
「楓ちゃん・・・貴方のお母様・・・比丘尼は・・・」
楓が答えた。
「うん、わかっている。今はこっちに向かっている」
「先の帝の警護が必要だから・・・まず、熊野衆を先の帝の館の周りにつける手立てをしていたの」
圭の耳に、熊野比丘尼の声が聞えてきた。
「熊野は死人の国なのです」
「人は、その命を終えると、必ず枕元に立てられた一本の樒を持って熊野詣でをします」
「そのため、生きている人が熊野詣でをすると・・・途中で、死んだ親族や知人に会うとのこと」
「私は熊野比丘尼・・・巫女とも伝えられていますが・・・熊野に古くから住む、特に私の家系の女性だけが、熊野の道で知り合う死人の嘆きや苦しみ、また喜びを引き受けてきました」
「そしてその思いを伝える力を・・・熊野の御神霊より授かっているのです」
その言葉と同時に、圭の意識は、深く沈んでいく。
目が覚めると、圭は古い社の中で、まだ寝ている。
身体のあちこちが、まだ痛む。
楓は付きっ切りで圭の看病をする。
「熊野は薬草の倉庫なの・・貴方には元気になってもらいたくて」
「うん、それが私の幸せ」
「もっと野菜とか、たくさん食べなさい」
「全く世話の焼ける人」
「お菓子持ってきたの・・・知り合いの修験さんから、唐の国とかいうところのお菓子の作り方教わったの」
いろんなことを言って、ずっと付き添っている。
夜は、圭と楓とは毎日、ひとつの布団で抱き合って眠る。
「夫婦だから当たり前でしょ」
「子供だろうと夫婦は夫婦なんだから」
圭は、熊野比丘尼や母と同じ社で暮らすことは無かった。
時折、熊野比丘尼や母が、圭の具合を身に来るけれど、必ず楓が応対をする。
圭の体調が、かなり回復したころ、熊野比丘尼と母が、いつもとは異なった、きらびやかな衣装で社に訪ねてきた。
社の周囲に宴席を設けるるのか、山伏たちが動いている。
様々な料理も運ばれているようだ。
「楓ちゃん・・、本当にありがとう」
母が楓の頭をなでている。
「まあ・・子供同士だけど・・・本当に夫婦みたいね。」
熊野比丘尼が笑っている。
楓は、胸を張る。
「本当に夫婦です」。
「どんな世でも、必ず巡り合って添い遂げるの」
「巡り合ったら、死ぬ時も一緒なの」
「今日はそのことを、神様にきちんと誓い、報告する日なの」
楓は、母である熊野比丘尼の眼をまっすぐに見つめている。
熊野比丘尼は、深く頷いた。
「うん・・・楓わかっています」
熊野比丘尼も落ち着いた様子で楓に応えている。
「楓ちゃん・・・この子お願いしますね・・・」
母も、うれしそうな顔をしている。




