圭は過去世に?奈良春日大社で、不思議に出会う。
空は抜けるように青く、冬の日ではあるけれど、さほど寒さを感じない。
往来は人通りが多く、また諸々の店も相当にぎわっている。
しかし、人々の服装がどこかおかしい。
かなり古代の人の服装。
後ろを振り返ると、五重の塔が立っている。
「そう・・・奈良の興福寺よ・・・」
圭の耳に、楓の声が聞える。
圭は、本当によくわからない。
「どうして・・・奈良に・・・」
「あの周りに歩いている人達の服装は・・・」
「うん・・・ついてきて・・・」
楓の声に誘われて、圭は、森のようなところに入っていく。
あちらこちらに、鹿が寝そべったり、のんびり歩いたりしている。
圭は、歩いていくにつれて、心が洗われ、また暖かなものに包まれるような感覚。
そして、朱塗りの柱が見えてきた。
圭は楓に尋ねた。
「もしかして・・・春日大社?」
楓が答えた。
「そうよ・・・やっと戻ってきたの・・・」
「戻ってきた?」
圭は、またしても意味がよくわからない。
いくつかの門を通り歩いていくと本殿が見えてきた。
「え?・・・」
圭は、また驚いた。
本殿の前で、大勢の神職のような人が、その額を地につけている。
不思議な雅楽のような音楽も聞えてくる。
楓の声が、また聞こえた。
「大丈夫、みんな、貴方を待っていたの・・・」
圭は、待っていたと言われても、ますます意味がわからない。
驚いて立ちすくんでいると、本殿の扉が開いた。
「良く来たな・・・待ったぞ・・・」
圭の耳に、聞きなれた声がする。
「あ・・・」
圭は、目を丸くした。
声の主は、父親の顔をしている。
いや、父親そのものだ。
しかし、かなり古代の高貴な公家のような服装をしている。
圭の頭の中は混乱するばかり。
しかも、父親の横には、榊原教授、白柳教授も同じような服装をして、かしこまっている。
「この時代は・・・今から1300年以上前・・・奈良時代といわれているの・・・」
楓の声が聞えた。
圭は愕然となった。
これは夢なのか、タイムスリップなのか、戸惑ってしまう。
「本殿の前に」
楓の手の感触が強くなった。
すると、圭の身体全体が熱くなった。
そのまま、本殿の前に進むと、白い頭巾をかぶった女性が一人、立っている。
その女性の後には、大きな鏡が見える。
「こちらへ・・・」
「楓に連れられて・・・ここまで・・・」
「ようこそ、お戻りなされた・・・」
とても落ち着いたしっとりとした年輩の女性の声だ。
「あのお方は・・・熊野の御神霊の・・・そして熊野比丘尼の純粋な血脈を継いでいるお方、過去のことも先のことも、その不思議な力で見せ伝えることが出来る」
父親が、圭の耳元でささやいた。
圭「え?・・・」
振り返ると誰もいない。
この神殿の鏡の前にいるのは、熊野比丘尼という女性と圭だけになっている。




