圭は楓に手を握られ、過去の自分を見る。
榊原教授が、ゆっくりとした重々しい口調で話しだした。
「未だ、この状況がよく飲み込めておられないと思われますが・・・」
圭「はい」
榊原教授は、意外なことを言う。
「楓の手をしっかりと握ってください」
圭「え?」
榊原教授
「大丈夫です・・・そして目を閉じてください」
圭
「はい」
言われるがまま、楓の手を握りなおし、目を閉じた。
楓の手は、圭は、何故か懐かしい温かみがあると感じた。
今までの悩み、苦しみが消え去るような不思議な安堵感も感じる。
応接室に漂う藤の香りの中・・・いつの間にか圭の意識は、遠のいていく。
圭は、身体が空に浮かんでいる感覚がある。
下を見ると、病院が見える。
かなり大きな病院だ。
どこか想い出がある。
身体は、だんだん病院のほうに降りていく。
「こっちよ・・」
楓の声に、引き寄せられて、圭の身体は病院の廊下を進んでいく。
しかし、どうしても廊下に足を下ろすことができない。
「入って・・・ここよ」
圭と楓が、ドアを通り抜けるように、病室に入ると数人の大人が見える。
ベッドには、子供が寝かされている。
「あ・・・」
そして、圭は驚いた。
若い頃の、父と母が、ベッドのそばに立っている。
そうすると・・・寝かされているのは圭自身なのか・・・
そういえば、圭には、小さな頃に病気で入院した記憶がある。
「ごめんなさい・・・貴方・・・この子急に熱が上がってしまって・・・先生に聞いたら、今夜あたりが峠ということなの・・・」
母が父に謝っている。
「そうか・・お前も身体の具合があまりよくないのに・・・」
「もうだめかもしれないな・・・私も付いていてあげればよかったのだが・・・」
父の顔は、心配というか哀しそうにも思える。
「お願いだから・・・こんな時ぐらい・・・付いていてあげて・・・」
母が父に、泣きついている。
「私たちが学校のほうは手伝いますから・・・今日ぐらいは・・・」
サークルの榊原教授と、白柳教授がいる、榊原教授が必死に父に頼み込んでいる。
父「そうか・・・榊原さん、白柳さん、本当に申し訳ない・・・」
「いえいえ、貴方も、奥様も・・・同じ仲間ではないですか・・・そして貴方と奥さんの血を引くこの子はどうしても、育て上げたい・・・我々としても・・・」
白柳教授が話していると病室のドアが開いた。
「あ・・・」
圭は、また驚いた。
銀座香苑の婦人が入ってきた。
小さな娘を連れている。
婦人「ごめんなさい・・・貴方、楓がさっきから病院、病院ってずっと泣きやまないの・・・」
「しかし・・・こんな時に迷惑になる・・・」
榊原教授は、少し困ったような顔をする。
「迷惑なんかじゃない!」
突然、小さなころの楓が叫んだ。
楓は、小走りにベッドに寝ている子供の頃の圭に近づき、手を握り締めた。
「死なないで・・・貴方・・・楓を一人にしないで・・・」
「この人は、必ず私が治します・・・」
楓は子供の頃の圭の手を握り締めながら泣いている。
横たわる瀕死の圭の閉じたまぶたに、楓の涙が落ちていく。
「楓・・・」
「楓ちゃん・・・」
その楓に、病室にいる、教授や香苑の奥様、父や母から声がかけられている。
圭は、突然、手をぎゅっと強く握られ、目を覚ました。
「驚いた?」
目の前にいるのは、現代の楓。
いつのまにか、この応接室には2人だけになっている。
楓は、恥ずかしそうに頬を赤らめている。
とても、美しく可愛らしい。
楓が、小さな声でぽつんとつぶやいた。
「熊野の血なの・・・」
「熊野の血って・・・」
圭は、全く意味がわからない。
楓は再び圭の手を握った。
圭は、再び強い眠気におそわれ、意識を失ってしまう。




