圭の追想(13)綾乃の恋愛講座
綾乃の話は続く。
「夫が亡くなって・・・実家に帰って・・・何年かして・・・大学のサークル仲間から、貴方のお母さんが亡くなったこと、お葬式の連絡が届いたの・・・」
「お葬式で貴方、まだ小さかったけど・・必死に泣かないって我慢をしているのわかった」
「口をずっと、への字に結んで・・・お父さんが手をつなごうとしてもつなごうともしない・・・」
「もともとお母さん似で、可愛らしい顔だけど・・・その結んだ口元とか・・・すごくいじらしくて・・・思いっきり泣かせてあげたいなって、式の最中ずっと思っていた」
「当時・・・貴方たちは大学教員の宿舎に住んでいたから、宿舎に住んでる若い教員仲間も多く出席していたの・・・そう、貴方の今の教授もいたのよ・・・」
圭は、初めて聞く話ばかり。
「そうなんだ・・・全然覚えてないや・・・」
綾乃は、また話し続ける。
「うん・・・貴方も病気がちだったって聞いたから・・・あまり貴方自身とは付き合いが無かったのかもね」
「お葬式が済んで・・・貴方のお父さんのことと貴方のこと・・・サークルのみんなが、すごく心配して・・・」
「お父さんには、時期を見て再婚なんて人もいたけど、それは絶対しないだろうって人も多くて・・・」
「とにかく、その時に一番心配なのは貴方のことだったの」
「いろんな話が堂々巡りになって・・・それでも決着つけないと帰れない・・・」
「貴方のお父さんが・・・そこでぽつりって言ったの」
「綾乃さん・・・少しの間でいいから・・・家を手伝ってくれないか・・・この子の面倒だけでも・・・」
「はい・・・手伝わせてください・・・」
「私、その時これが私の定めって感じてしまったの・・・」
「貴方のお父さんの心には、女としては入り込めないけど・・・少しでも・・・そばにいたかったの・・・だって、好きだったもの・・・」
綾乃は、またわっと泣き出した。
綾乃の涙が激しくなった。
「私の実家は静岡でも昔からの古い地域で・・・なかなか出戻りなんて・・・白い目で見られて・・・」
「そういうこと、貴方のお父さんも心配してくれたのかな・・・」
「私も本当に実家に居づらかったし・・・お言葉に甘えるような気持ちで、この家に来て・・・ずっと居ついちゃったの」
「坊ちゃんは、お母さん似で本当に可愛らしくて・・・」
「でも・・・最初はツンツンしていて意地張っていて・・・本当に悩んだのよ・・・」
綾乃は、軽く圭をにらむ・・でも笑っている。
「盲腸の手術のあとは、仲良しになったね・・・坊ちゃまと食事していると、幸せだったもの」
「坊ちゃまは・・・何か不思議に周りを、ふんわりさせる魅力があるの」
圭は、首を傾げる。
「そうかなあ・・・自分ではよくわからないけど。」
綾乃は、涙を拭いて真顔に戻った。
「うん、坊ちゃまの大学のサークルの女性方・・春奈さんもそうだけど、本当にいじらしいほど真面目に働いていた」
「みんな、貴方のこと大切に思っているのよ」
「でもね・・・坊ちゃま、これだけは真剣に聞いてね・・・大事なことだから」
圭
「うん・・・」
綾乃
「人に好かれるということと」
圭
「うん」
綾乃
「人を好きになるというのは、違うの」
圭は、少し笑った。
「それは そうだろうけど・・・」
綾乃は、真顔。
「真面目に聞きなさい。」
圭も真顔になるしかない。
「・・・・うん」
綾乃
「坊ちゃま自身が心の底から、本当に愛せる人はきっと現れる」
「それは、坊ちゃまとその人が付き合った期間とかまるで関係ない・・・一瞬で決まることもある」
圭
「そんなものなのかなあ・・・」
綾乃
「大丈夫、お母さんもお父さんも見守るし・・・何より・・・」
圭は、綾乃の言う意味がわからない。
「何よりって?」
「うん・・・今は言えない・・・」
綾乃は、微笑んでいる。
その夜は、綾乃は長年暮らした自分の部屋で眠った。




