圭の追想(12)綾乃と父の過去
「坊ちゃまにはまだ難しいでしょうけど・・・」
綾乃は、少し難しい顔をしている。。
「男女の仲って・・・どうにもならない定めってあるの」
圭
「うん・・・」
綾乃
「私はね・・・」
綾乃は涙ぐんだ。
「本当は・・・だんな様のこと、好きだったの」
「前の夫に先立たれて・・・本当に途方にくれていた時、夫の借金のことから何から何まで助けてもらって・・・」
圭は、驚いた。
「え?ずっと前から父さんのこと、知っていたんだ・・・」
綾乃
「うん、黙っていたけど・・・貴方のお父さんとは、大学のサークルで一緒だった」
「父さんのほうが2年先輩だけどね」
「お父さんはサークルの中で、男女を問わず人気があって、私もあこがれていた」
「面倒見がいいし、いかつい顔だけど、ほんとうはすごく優しくって紳士なの」
「サークルの女子学生はみんなお父さんのこと好きで、誰が射止めるかなんて、そんな話も多かったな・・・」
綾乃は、少し照れたような顔。
「私もかなり狙っていたけれど・・・アプローチもいろいろしたけど・・・まあ貴方のお父さん鈍感で気がつかないの・・・そういう女心には・・・」
圭
「そうなんですか・・・」
そう答えるしかない。
綾乃
「そんなことしていたら次の年になって、新入生で貴方のお母さんが入ってきて・・・」
圭はまた、驚いた。
「同じサークルだったんだ」
綾乃
「まあ、聞いてないでしょうね・・・だんな様が貴方に言いそうもないし・・・私も黙っていたけど・・・」
圭
「どうし 黙っていたの?」
綾乃
「それが女心っていうの・・・後でまた教えてあげる」
「貴方のお母さんって、悔しいけど、すごく可愛いし、頭もきれて、思いやりもある・・・ほんとに悔しいけど・・・あっという間に貴方のお父さんと・・・」
圭は、ようやく、少しわかってきた。
「そうだったんだ・・・」
綾乃
「私も貴方のお父さんへの思いは、消えては無かったけど」
「貴方のお母さんには、とても太刀打ちできないって・・・その時はあきらめるしかないって・・・大学卒業と同時に実家のある静岡に帰って、何年かして地元の人と結婚したの」
「結婚生活は、まあ幸せだったけど・・・夫が今でいうワーカホリック、働きすぎみたいなところがあって・・・朝早く製茶の関係で運転していて・・・崖から・・・」
綾乃は、苦しそうな顔になった。
「だいたい製茶工場って時期になると、ほとんど24時間労働が3か月ぐらい続いて・・・家には帰ってこないし・・・たまに帰っても顔色悪いし・・・」
途切れ途切れに話している。
「夫の葬式の時、貴方のお父さんやサークルのメンバーが来てくれて、本当に心強かった・・・嫁ぎ先のご両親に・・・毎日いろいろ嫌みを言われていて・・・」
「結局・・・子供が出来なかったこととかあって・・・夫の家を出て・・・実家に帰ったけど・・・夫の残した借金もあって・・・」
「葬儀の席で、小声で夫の母が口にしただけなのに・・・貴方のお父さん聞いていたのね・・・」
「私の知らない間に、お金を工面してくれて・・・」
「死んだ夫の母にも、しっかりと話をしてくれて・・・」
「どんなに感謝しても、しきれないの・・・」
綾乃の話は、途切れ途切れ 続いていく。




