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携帯の中のメリーさん

『私メリーさん、今あなたの後ろにいるの』

というフレーズは多くの人が知っているだろう。いわゆる「メリーさんの電話」というやつだ。事の顛末はまちまちで、話によっては主人公側が死んだり、何かしらの精神疾患を煩ったり、逆にメリーさんが酷い目に遭ってるパターンもある。


かくいう私、綾川真理子も高校1年生の頃にその電話を受け取ったことがある。しかも携帯でだ。

高校入学祝いで買ってもらった携帯電話。中学時代、私の周りはみんな買っていて私一人だけ親の言いつけで買ってもらえなかった携帯。ピンク色のガラパゴス携帯にかわいいキーホルダーを買ってすぐに付けて、入学したら友達とメアド交換しまくって…。

そんな私の華やか携帯ライフは、たった一ヶ月で幕を下ろした。


『私メリーさん、今羽田空港の第二ターミナル2階にいるの』


5月5日の16時、それは唐突に掛かってきた、妙にいる場所が明確な電話。電話はすぐに切れたが、数分後に電話が掛かってきた。


『私メリーさん、今京急に乗…あ、もう電車来たわ』


メリーさん以外とマナーいいな。もしかするとメリーさんは悪いことをした人間に…いや、私何か悪いことした?そんな疑問を抱えながら、そもそもこれが本当のメリーさんなのかと言う疑問や恐怖心を抱えさせない電話が30分後くらいにまた掛かってきた。


『私メリーさん、今商店街に…あ、チンピラがおばあちゃんいじめてるから祟ってくるわ』


メリーさん本当になんで私のところに来ようとしてるの?私チンピラがするような悪いことしてないよ?メリーさんに対する疑問が怒りに変わりつつあった。なんで私のところに来ようとしてるのか疑問で疑問で仕方がない。解消できない疑問に腹が立つ。イライラを募らせる私はメリーさんが背後に回り次第振り向いて殴ってから理由を問いただすことを心に決めた。疑問を解消しなくては死ぬにも死ねない。


『私メリーさん、今あなたの』


数分後に掛かってきた電話に出た瞬間、素早く背後を振り向いた。けれどメリーさんと思われる姿はなかった。その理由は冷静に考えれば恐ろしく、そしてキモいものだった。


『携帯の中にいるの』


そう言われ携帯を耳から離すと、待ち受け画面には真っ白な顔と赤い涙の女が見えた瞬間恐ろしい件名から電話が掛かってきたので待ち受けの女を気にするよりも先に出た。


『綾川さん、数学の宿題を忘れていると先生から聞きました』


「え!?私出しまし…あ、ごめんなさい!明後日の予習した部分を間違えて出したみたいです。今家にプリントがありました…」


『そうですか、熱心でよろしい。とりあえず、明日までにお願いできます?』


「あ、はい!すいません」


担任からの電話だった。何事かと思ったがなんとかなる問題だったようだ。息をつき、ベッドに座る私だが、待ち受けのそれのことを思い出すと同時に、先ほどまでの状況を思い返しての新たな疑問を抱いた。


「…私の耳にキスした?」


『…え、してないけど…』


「したよね?」


『いや、してないって…』


「いや思いっきりしたよね!?」


『液晶越しだからしてないってーーーのぉ!!!!』


その後も徹底的に問い詰めたが、このメリーさんはこの携帯に私が触ったことで発生する謎の電磁波に引かれてしまった、お墓などを失ったより所のない怨霊たちの塊らしい。しかも電磁波がものすごく強力らしく、この携帯からは出られない模様。かわいそうだとは思うけど私にそんな責務を押しつけるなと…。

かくして、私の華やか携帯ライフは白と赤のキモい待ち受けと化したことで幕を閉じた。


で、あれから3年。高校の卒業式。


『もしもし私メリーさん。真理ちゃんハンカチは持った?』


「はい持ちました」


『ティッシュは?』


「持ちましたって」


『泣いた時用のハンカチは』


「そんなにハンカチいらないっての!てかもういい加減このやりとりやめようよ!」


『だってえ、私の中のお母様方の怨霊がですねぇ…』


メリーさんとは今でも一緒に暮らしている。この3年間、高い待ち受けフィルターをガンガン買ってひたすら友達にこのキモい待ち受けを見られるのを死守したものだ。このフィルター購入費用さえなければもうちょっといろいろできたのに…。

ただ、メリーさんは以前よりも顔がきれいになった。どうやら怨霊の何人かが私との高校生活を通す内に思い残したことをやり遂げられたらしく、結果成仏したらしい。この待ち受けともおさらばできる日は近いのだろうか。それはそれで寂しいと思い始める自分がなんか嫌だった。私だって普通の携帯の待ち受けにしたかったのに…。


『てか今日は早く起きたね。登校時間まであと20分あるけどどうするの?』


「ちょっと早めに出て友達といろいろ思いで作り」


『それは良いアイデア、それじゃあ早く準備を』


「もうしました。どんだけ心配性なの…」


こんなやりとりをして3年。あと何年このやりとりを繰り返すのか、いや、繰り返すことができるのか…?愛着というのは良いものか悪いものかわからない。ただ、メリーさんのいる日常は、結構楽しかった気がする。


「それじゃあ、行ってきます!」


私の高校生活はそれなりによかったと思う。でも、ピンクとかわいいキーホルダーと、白と赤の携帯ライフはどうだったのだろう。


それは、このメリーさんの怨霊が全ていなくなる時に、わかるのかもしれない。

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