大体の日常
今、僕は戦場にいる。お茶の間のテレビで、新聞の見出しで、ネットニュースやツブヤイターで観るものとは段違いだ。あれらの写真が全く意味がないと言いたいわけじゃないけど、あんなのじゃ伝わらない物がある。
実際にいるとわかるのは、当たり前の事だけど、飛んでくるナニカの破片や焦げたニオイ、誰かの絶叫に何よりも僕と戦場が関わらざるを得ない状況であると伝えてくる空気だ。いつもの普通に生活している時とは全く異なる僕に重くのしかかるようなこの空気が僕の、そしてこの場に居合わせた人達全員の理性を狂わせ普段は見せない剥き出しの自分を露わにさせる
不意に僕の服が引っ張られた。周りの状況を確認する為ガレキに身を隠しながら辺りに這わせていた視線を下に向ける。小さい手で僕の服をしっかり掴み離さない女の子が目に入る、まだ幼い身体からは考えにくい力で僕の服をしっかり掴み僕のお腹に乗るように抱きついている。
「コワイよ、にぃ」
「......大丈夫、大丈夫だよ。リリィ」
辺りに響いている爆発音と何かが崩れるような音にかき消されウンと小さく返事が聞こえたかどうかはっきりしない。月並みな、安直な言葉しかかけてやることが出来ずリリィの背中をゆっくりと優しく叩いてやる。これしか出来ない僕は僕が許せない。せめてリリィがだけでも逃がさなければこれ以上危険に晒すわけには、怖い思いをさせるわけにはいかない。
しばらく辺りを見渡していたが何も起こる気配がない。動くなら今だろう。
「リリィ、良く聞いて。今からここを離れる、大事なのは何があっても静かでいること。僕にしっかり捕まっていれば大丈夫だから」
不安なのかリリィの震えが僕に伝わってくる。今だって泣きたいはずだ、それを抑えて必死に我慢して耐えている。これ以上をまだ幼いこの子に要求するのは酷なのは分かっている、それでもここから生きて出るにはあと少し耐えてもらわないといけない。リリィを、今にも泣きそうで唇をかんで目に力をいれて耐えている顔のリリィを強く抱きしめて優しく撫でる。垂れていたかのリリィの猫耳が少しマシになってきた、今のうちに行くとしよう。
隠れていた場所からゆっくりと顔をだし再度周りを確認してから、しゃがんだ状態で歩き出す。一歩一歩足を出す場所を考えながら音を出さない事を優先して歩みを進める。姿を隠す事は優先しないでただひたすらにこの戦場の出口へ進む。胸に抱きついたリリィはまだ大丈夫だ、これなら出れる。
ここは広い。今までの戦場に比べて格段に広い、事前にそういう知識があっても何処までも続くような錯覚を覚える。出口は見えている、そう遠くは無い。ただただ足を前に出す行為を繰り返すして、何も難しいことは無いと自分に言い聞かせて深く考えず歩いて行く。順調だこれなら問題なくいける
カランと音がした。背後から。乾いたガラスの音が響いて広がって行く、この場においてその音は物音というには余りにも大きく綺麗すぎた。思わず動きを止めてしまった。心臓が鼓動が僕の一部でないかのように踊りだす、ダメだこんなんじゃダメなんだ。せっかくリリィが恐怖を抑えてくれているのに僕が怖がってどうするんだ。この場で反響していた音が収まった、辺りを素早く見渡して深呼吸する。リリィまだ耐えている、頭を撫でたのはリリィを落ち着かせるためか僕自身を鼓舞するためか。
歩みをまた始めようと一歩出したところで気が付いた。僕の足音がさっきよりも大きい、緊張から力んだのかとも思ったがそれにしても大きすぎる。そこで僕は僕がいかに愚かなのか思い知らされた。遠くで鳴り響いていたあの大きな音が一切していない。あれだけの音が止んだということが示すのは一つしかない。
あいつらが来る‼︎
「リリィ、扉から出て寝室に行ったらベッドでねんねするんだよ」
「おほん、よんでくれる?」
「今日は無理だけど...」
「ふぇ...」
まずい、ぐずり出したぞ。とにかくこの場から遠ざけないと何か何かないか、そうだ。
「一人で寝れたら新しいぬいぐるみがリリィの所にきてくれるかもしれないよ」
安直すぎるか?
いや、すごい目が輝いている。効果はてきめんだ。さすがはぬいぐるみ先輩だこの年代の女の子に愛されているだけある。とはいえ、ぬいぐるみ一つでこんなに言うこと聞いちゃうのはどうなんだろう。大丈夫か心配になってきた。
「じゃあ、できるね。ちゃんと寝るんだよ」
「うん」
今までの泣きそうな顔は何処へやら。この後寝れるのか心配になる程全身で喜びを表現しながらリリィは部屋を出て行った。これで一番の不安要素であったリリィはこの大広間から出て行った。これで心おきなく仕事に集中できる...あまり気が進まないけれどしたくないとも思っちゃうけどしなきゃいけないんだ。
先ほどから走って近づいてくる人たちの方を向く
「管理人さーん、一緒に飲みましょー!これ火がでるんじゃないかってぐらいキツくておいしー」
そう言いながらカーペットから家具から全てを燃やしていく褐色肌の女性が一人。あっ待って、待って。あーそこは今日綺麗にしたばっかなのに...
「今日こそ管理人の初めてをもらうぞ、安心しろ私の医学の知識をフル活用して人間が耐えられる限界の快楽を与えてみせる」
白衣しか着ていないと言うチラり何処ろかこっちが気をつけないとモロに見えてしまう女医が一人。白衣はせめて前を止めてお願いだから。
「オレの方が強い」
「いやオレの方が強い」
「「けっとーだっ!」」
奥で相変わらず喧嘩している姉妹が1組。今日も壁が壊れていく...あっ待って、待って。その柱はマズイから崩れちゃうから
「今日もみんな元気がいいな」
「元気すぎると思いますが...あっ、そうだ。これ今日作ったんですよ。今度試しに使ってみて下さい」
こんな状況でも落ち着いてウォッカを煽っているみんなの姉御が一人。今日も何か作ってみたらしいメカニックの女性技師が一人。ちょっとはこの状況を気にしてもいいんじゃないかな‼︎
この大広間で起きている飲み会を僕は止めなければならない。なぜならこれも僕の仕事の内だから。だから僕は立ち向かう。
「こら、スーザンさん。寮を燃やさないで‼︎ガブリエルさんは服を脱がそうとしないで‼︎コリンズちゃんとモニカちゃんっは喧嘩しないで‼︎ベルタ姉さんとノーナさんはもっとこの状況に関心を持って‼︎」
この飲み会が一段と騒がしい訳じゃない毎回似た状態になって僕がそれを止める。大変だけどやりがいはある仕事だ、僕はイツキ、櫻林 樹、ここの管理人を勤めている。僕の寮は大体いつもこんなもん。
初めまして木製コルクと申します、この作品が初投稿です。
生暖かい目で見ていただければ幸いです。
よろしくお願いします。




