18.
オスカはスピカに大きな袋に入ったたくさんの服を渡すと、一旦親戚の家へと帰っていった。とりあえずはスピカに会えたことを知らせに行くらしい。スピカも暇なら一緒に来るといい、と言われたが首を横に振って、スピカも一旦は部屋に帰らないといけない、と告げた。スピカはそれ以上なにかを聞かれたらどうしようかと思ったが、オスカは「そっか」と言うとあっさりと返事してくれた。トトがスピカを寺院から出さないようにしているなんてオスカが知ったら、きっともの凄く怒るだろう。もしかしたらトトに殴りかかるかもしれない、と一瞬思い至ったが、それはありえないことだった。
スピカはオスカに「尼僧さんに、オスカも入っていいか聞いておくね」と言った。住んでいると言っても、ここはスピカの家ではない。スピカの部屋がある所ら辺は、尼僧でも、限られた者たちしか入ってはいけないことになっているのだという。
スピカは門のところまでオスカと一緒に歩いたが、門からは一歩も足を踏み出さなかった。二人いる男の門番は、真っ直ぐに立ちながらも注意深くスピカに目を向けている。多分、ここから走り出してもすぐに捕まってしまうだろう。それに、リュシカニアを困らせたくはなかった。
スピカは、門の内側から、階段を下りていくオスカの後姿をじっと眺めた。
また後から来ると分かっているのに、どうしても寂しい気分になってしまう。そのなかには、郷愁の想いも少しあった。
部屋に帰っている途中の廊下で、スピカは自分の部屋の前に立っているトトを見つけた。珍しく周りには誰もいない。いつもは数人の無口で無表情な尼僧がそろそろとトトのあとに続いているのに、今は一人のようだ。
トトは廊下を歩いてくるスピカに気づき、顔を向けると優しく微笑んだ。
近くまできて、ちちちっという高い鳴き声がして、ようやくトトが右手にパドルの鳥かごを提げているのにスピカは気づいた。不思議そうにトトとパドルを眺めていると、トトは苦笑した。
「預かってたんだよ。弱らないように」
トトの部屋は特別暖かいのだろうか。
スピカは不思議な面持ちのまま、ぼんやりとお礼の言葉を言うと、トトからパドルの鳥かごを受け取った。
鳥かごを受け取っても、トトはじっとしていたので、スピカはなんとなく気まずい思いになり、少し俯いた。
部屋に入れるべきか。前だったら迷わず入れていただろうけど、最近はトトと二人になると嫌な思いばかりする。
「……なんだか、どろどろだね」
トトに言われて、スピカは自分の姿がどうなっているのか気づき、一瞬眉を顰めた。長靴も、タイツも、ワンピースの下の方も、乾ききっていない泥がこびりついていた。オスカが持っていた袋にも、点々と泥がついていたが、これはオスカが撥ねさせた泥だろう。
それにしても、酷い姿だ。リュシカニアが見たら顔を顰めるかもしれない。
「……着替えてくる」
スピカは肩を落としてそう言うと、自室の扉を開けようと大きな袋を床に一度置いた。トトは、あまり表情のない顔でそれを眺めていたが、肩を落としたスピカは気づかなかった。
「――スピカ」
「うん?」
「もしかして、オスカと会った?」
スピカが「え」と声を出してトトの方を見ると、トトはじっとスピカの大きな袋を見ていた。どこか遠くを見るような、不思議な目線で。
スピカは一瞬後、目をぱちくりさせた。
「……どうして、知ってるの?」
もしかしたら、部屋の露台からスピカとオスカが会っているのを見たのかもしれない。スピカの部屋の隣にあるトトの部屋からも、中庭の巡礼者の列が一望できる筈だ。そう思いながらも、やはり不思議だった。見えると言っても、顔まではちゃんと見えるわけではない。
「露台から、見えたんだよ」
トトは優しく笑いながら穏やかにそう言った。その声色に何も間違いなどないような気がしてスピカは頷いた。「そっか」と呟くと半開きになっていた部屋の扉をもう一度開けようと、手を伸ばす。スピカの身長よりも随分高さのある扉は、結構重い。おばあちゃんとの小さな家に住んでいた時みたいに軽々とは開かなかった。
手を伸ばしたところで、後ろからトトがすっと扉を開けてくれた。ついでにスピカの服が入った大きな袋も持ってくれているらしい。スピカは部屋の中に入るとトトに道を譲って「ありがとう」と言った。
「どこに置く?」
長椅子の上に、と言いかけて袋も汚れていたことを思い出したスピカは、大きな衣装棚の前に直接置いてもらうようにトトに言った。その間にもスピカはパドルの鳥かごを掃きだし窓の近くにある鳥かご掛けに掛けて、帽子を脱いでマフラーをとり、外套を脱ぐと泥で汚れていないかを確認してから壁に掛けた。それから自身の首から下を見下ろして、小さくため息をついた。どろどろでまだらな色になっている長靴を脱ぐと、近くに置いてあった、硝子玉やきらきらした飾りで大きな雪の結晶の模様を描いている部屋用の靴に履き替えた。ぺたぺたしていて一気に楽になる。タイツもぽつぽつと膝の辺りだけ泥が跳ねていたので、スピカはタイツだけを脱いだ。あとはワンピースだ。
「トト、着替えてもいい?」
そう聞くと、トトはいつの間にかスピカからは寝台を挟んで暖炉の方に移動していたらしい。暖炉に火を点すような音とにおいがしてきて、「うん」と声だけが聞こえてきた。
スピカはそれを聞くなりばっと頭の上から服を脱いだ。中には薄手の服も着ていたが、それは無事だったらしい。スピカはぺたぺたとトトが運んでくれた袋の所まで行くと、麻の紐を解いて袋を開け、一番上にあった服を薄手の服の上からそのまま着た。それはテアタがスピカに何度も着せた、鮮やかな青色のワンピースだった。形が少し変わっている以外は、模様もなく飾り気がない。それを着てテアタを思い出したスピカは一瞬止まったが、すぐに足元が肌寒いような気がして、棚の小さな引き出しから綺麗に畳まれたタイツを出して履く。荷物は全て、いつでも帰れるようにと鞄に入れたままだったが、リュシカニアはスピカが怠けていると勘違いしたらしい。ある朝寝惚けてあまりものを考えられない状態のスピカに、荷物を片付けさせていた。
スピカがそろそろと暖炉の方へ歩いていくと、トトは暖炉の近くに置かれていた大きめの、一人がけようの椅子にゆったり座っていた。暖炉には、まだ小さいが火が点っている。放って置いたら消えそうな感じがするが、トトがいるといつもそうならないことをスピカは知っていた。
スピカはトトが座っている椅子の近くにある、もう一つの大きな一人がけようの椅子に深く腰掛けると、足を小さくぶらぶらさせた。スピカが腰をちゃんと後ろにくっつけて座ると、足が届かないくらい、この椅子は大きい。少なくともスピカにとっては。トトの長い足はちゃんと床についていた。
「オスカは、どうだった?」
ぽつりと聞かれて、スピカはぼんやりと眺めていた暖炉の火からトトへと視線を移した。トトの瞳は、揺らめく暖炉の火の光を反射していて、ますます深さが分からない。
「別にいつもどおり……普通だったよ」
いつもどおり、と言っても、スピカはオスカに会ったのは、随分久しぶりのような気がしていた。村を出てからもう半年は経ったような気さえする。先日知り合ったばかりのセスティリアスと最後に会ったのも随分前のような気がした。寺院での時間はいつもゆっくりのようで早い。
トトはめずらしく「ふうん」と気のない返事をしたので、スピカはソファから身を乗り出してななめ横に座るトトの表情を伺おうとしたが、トトはスピカがそうするとスピカに向かって柔らかく笑った。
「……オスカに会いたい?」
スピカは何を考えているか分からないトトに尋ねてみた。九年前から一度も二人が喋っているところを見たことがない。オスカは極端にトトを避けていたし、トトはオスカだけではなく、殆ど村の人と会っていない。
「それが、別にそうでもないんだ」
トトは表情を変えずにそう言った。
スピカは別に落胆するでもなくただ平坦に「そう」と返した。ただ不思議な思いをするだけで、スピカが落胆することはないのだ。スピカは二人が仲良かったのを知っていて、知らないのだから。けれど、少し寂しい気もした。
「ねえ、トト」
「ん?」
「街に出たいよ……」
「そうだね。雪も積もってるし」
ト トは柔和な笑みを浮かべたまま肩を竦ませた。
「トトと一緒に出るなら、いい?」
スピカはそう聞きながらも、なんだか変な質問のような気がして小さく眉を顰めた。
本当はそれよりも村に帰りたいのだけれど、リュシカニアやイーノス、まだ少ししか会っていないけれどセスティリアスとも、それに厨房のおじさんたちとも離れるのは寂しくなっていた。
けれど村には帰りたい。帰らないといけない。
「いいよ」
トトがあっさり言ったので、スピカは目を円くさせた。
トトは苦笑すると、付け加えた。
「せっかくの雪だしね」
「ほんとう!?」
「こんなことで、嘘つかないよ」
トトがくすくす笑いながら言ったので、スピカも小さく笑った。トトは知らないだろうけど、オスカと同じことを言っている。
「……でも、普通の日でもスピカひとりで、街に出てもいいようにしてね」
スピカはそう言って門番たちの目線を思い出した。鋭い目線は、獲物を絶対逃がさないような雰囲気をいつも漂わせている。
「そういえばスピカ、今日の朝少し変だったみたいだけど、大丈夫?」
トトはスピカの言うことを無視して尋ねたが、見事にスピカは新しく出された話題に気をとられた。え? と声を出し体を強張らせる。
「イーノスから、外で遊んでいる途中からスピカが急に大人しくなってたって聞いたよ」
イーノス。
スピカはそれを聞いて口をきゅっと結んだ。トトから顔を逸らして暖炉の方へと向ける。暖炉の火はいつの間にか大きくなって赤々と燃えていた。冷たい空気で冷えた体も、少し熱いくらいにぽかぽかとしてくる。
「……ちょっと、疲れただけだよ」
スピカは、トトのいる方の右頬を手で擦るようにしながら、できるだけなんでもないことのように呟いた。
深呼吸をするように息を吸い込むと、鼻をつんっとつくソファの皮のにおいがした。
「どうかした? スピカ」
スピカの異変に気づいたトトは、不思議そうに首を傾げた。スピカはそれでもトトに顔を向けることができない。ごまかすようにまだ冷えたままの右手を押し当てた頬からは、温かな熱が伝わってくる。むずむずと動く唇をなんとか落ち着かせようとスピカは頬と一緒に口元も押さえた。
「なんでもない……」
スピカが力なく、くぐもった声でそう言うと、トトは手を伸ばしてスピカのおでこに触れてきたので、スピカは体をびくりと震わせた。トトは気にした様子もなくじっと触れたまま止まっている。温かいスピカのおでことは違って、トトの手は相変わらず少しひんやりと冷たい。ふいに懐かしい思いが湧いてくる。
「……熱あるんじゃないかな?」
そう言ってスピカの顔を覗き込んだトトは、少し顔を歪めた。困ったような顔が村にいた時のトトを思い出させて、スピカは小さな笑顔を浮かべた。それを見たトトは少し驚いた風にじっとスピカを見ている。
「大丈夫だよ。ちょっと、眠いだけ」
「暖かいところに入ってきたからかな……でも、暖かくして早く寝るんだよ」
「うん」
本当に心配していることが分かる声に、スピカは少し嬉しくなって、笑顔のままで頷いた。トトは苦笑すると、ソファに掛かっていた赤い肩掛けをスピカの肩に掛けて、体に巻いてやった。もふもふと暖かくて、本当に眠くなってくる。スピカは体を捩じらすと、隣のソファに戻ったトトを見た。トトはまた柔和な笑みに戻っていた。金色の髪が、暖炉の火で少し赤く染まっている。
外の方に目を向けると、空はまた白く染まっていて、ぼんやりとした明かりは弱弱しい。オスカはまた日が暮れる前にやってくると言っていたから、気をつけないといけない。リュシカはどこにいるのだろう。
そんなことを思って、ふとした拍子にちらつくイーノスのことを思い出さないようにした。
二人が言葉少なにぼんやりと座っているとリュシカニアが部屋にやってきて、トトは自分の部屋に戻って行った。リュシカニアはその間、慇懃なお辞儀をしていて一度も顔を上げはしなかった。けれど、頭を上げたリュシカニアの顔を見て、スピカは小さく眉を顰めた。
「リュシカ、もしかして……」
「なに? ……また、私お邪魔しちゃったみたいね」
リュシカニアが微妙な表情で、まだ片付いていない卓上を眺めながらそう呟いたので、スピカは言葉を飲み込んだ。トトに出されたお皿の上の料理は、殆ど手をつけられることもないまま、すっかり冷えてしまっている。スピカがそれに目をやると同時に部屋の扉がノックされて、三人の尼僧がお辞儀をしてから黙って部屋の中に入ってきた。そしてそのまま殆ど音も立てず、スピカに目をやることもなくあっと言う間に食事の後片付けをすると、また入ってきた時と同じ風に扉の前でお辞儀してさっさと出て行ってしまった。スピカはここに来てからその様子を何度も見ている筈なのに、何度でもぽかんと見つめてしまう。スピカの部屋にたまにやってくる尼僧たちは、リュシカニア以外は必要以上にスピカに喋りかけないし、見てくることもない。だからスピカはいつもリュシカニアに会うとほっとする。そのリュシカニアも少ない時間しかスピカの傍にはいないけれど。
リュシカニアは、スピカが欲しかったお姉さんみたいだ。
「ねえリュシカ。もしかして、わざと?」
スピカは静かな尼僧たちが出て行ってから、呟くような声でそう聞くとリュシカニアを見上げた。
リュシカニアの透き通るような睫は、暖炉の灯りを反射してきらきら光っている。リュシカニアはその睫を伏せてにっこり笑うと「なにが?」と聞いてきた。
「ううん……やっぱりなんでもない」
スピカはそう言うと靴を脱いで椅子の上で膝を抱えた。いつもならリュシカニアが行儀の悪さに眉を顰めていたかもしれないが、幸いリュシカニアは気に留めていないらしい。
スピカはリュシカニアがスピカのそばで立ったままじっとしていることに気づき、先ほどまでトトが座っていた席を勧めたが、彼女は微笑んで小さく首を振るだけだった。
「また、直ぐに行かなくちゃ駄目なの……ところでスピカ、もう大丈夫?」
「なにが?」
「風邪を引いたんじゃないかって、イーノス様が心配してらしたわよ」
「な、なんで?」
スピカは思わずどもってしまい、ばつが悪そうに口をきゅっと結んだ。
肩掛けの中で両手をぎゅっと握ると、足と胸の間に挟んで力いっぱい体を丸くし、顔を膝にあてた。
「最初は元気いっぱいに遊んでたのに、途中から魂が抜けたんじゃないかって程大人しくなって、それに少し顔を赤かったって…あら、やだ。本当によく見たらちょっと赤いわ。大丈夫?」
そう言ってリュシカニアは、トトがしたようにスピカのおでこに温かい手を当ててきた。
「……イーノスは、お仕事?」
スピカは頬を膝に擦りつけながら小さな声で聞いた。リュシカニアは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「ええ、イーノス様は寺院にずっといるわけじゃないから……他にもいっぱいお仕事があるのよ」
リュシカニアは本当にスピカが風邪を引いて、熱を出していると思っているのかもしれない。優しい声には労わるような響きがある。
スピカも自分で熱があるのかも、と思っていた。顔が凄く熱っている。
「また、遊んでくれるかな?」
スピカがそう聞くとリュシカニアは少し驚いた顔をしたが、嬉しそうに顔を綻ばせた。椅子に座るスピカの前にしゃがみ込んで、顔を覗き込むと一人納得したように頷いて、スピカのおでこを撫でると言った。
「きっとね。だけど、スピカがその熱を冷ましてからよ」
リュシカニアは最後には少し曇った顔でそう言うと、スピカの顔を両手で挟んだ。スピカが頷くと、リュシカニアが確認するようにスピカの歳をまた聞いてきたので、スピカは小さく首を傾げながら「十四さい」と答えた。
すると、リュシカニアは益々表情を暗くして、だけど無理に微笑んだ。
時計搭から鐘の音が鳴り響き、スピカが慌てて階段を駆け下りると、オスカは巡礼者の列から外れた中庭の端の壁に腕を組んで寄りかかっていた。オスカのへの字に結ばれた口の形が不機嫌さをあらわしていて、スピカは声を掛けるのを躊躇い、走っていた足を止めて恐る恐る歩き出した。それに気づいていたらしいオスカは、閉じていた筈の目を不機嫌そうにスピカに向けて睨んできた。
「……遅い」
「ごめん……」
スピカは素直に謝ると薄い紙に包まれた、温かいパンをオスカに差し出した。真っ白なパンの中には、甘いチーズが入っている。厨房のおじさんが作った、焼きたてのパンだ。食いしん坊のオスカは、これで機嫌を直してくれるはず。
オスカは眉を顰めながらもそれを受け取るとそれに齧り付き、じっとその様子を見つめていたスピカの頭を軽く叩いた。
それでようやくほっとしたスピカは、自分も温かいパンに噛み付いた。
「それにしてもお前、その格好なんだ? 今日は祭りでもあるのか?」
オスカは怪訝そうにスピカの姿を上から下まで眺めると、最後の一口を口の中に放り込んだ。スピカはパンに齧り付きながら小さく首を横に振った。
「こうしないと、街に出れないの……危ないから、ひとりで出ちゃ駄目って言われてるんだけど……」
スピカはそう言いながら顔の横にある、いつもとは違う色の自分の髪の毛を横目で眺めた。この間トトが変装をした時に、何気なく染め粉の場所を尼僧に聞いていたのだ。
薄い茶色の髪の色は、洗えば直ぐに取れるという。服とかにもその色が付いてしまうのが難点だけれど、真っ黒な服を着てきたから大丈夫だろう。
「村の人間が見たら、卒倒するぞ……」
呆れたように言うオスカだって村の人間だ。スピカは悪戯っぽくにやりと笑ってオスカを見上げた。オスカも呆れた顔から、好奇心を含ませた楽しそうな顔でにやにや笑っている。
幼い頃に二人でした数々の悪戯の功績を思い出し、二人ともわくわくしていた。
「フードを被れば完璧でしょ?」
あの目ざとい門番達にはもしかしたら見つかるかもしれないという不安もあるが、フードを被って帰っていく巡礼者に混ざって出ていけば大丈夫だろう。尼僧たちだって、きっと気づきはしない。もしかしたら、リュシカニア以外の尼僧たちは、スピカの顔だって覚えていないかもしれないのだから。
二人は笑いを押し殺し、俯きながら巡礼者たちと共に門をくぐり、最後の階段を降りると駆け出した。
「――ちょろいな!」
オスカは大きな声で笑いながら、まるで自分の手柄みたいにそう言った。