プロローグ
もしも、ゴブリンスレーヤーが、俺の小説世界にいたならどうなるか?
夏休み特別企画として、短期連載(全8回予定)開始します。
今回はプロローグなので、少し短めです。
とかく、この世は理不尽だ。
ごく一部の、恵まれた者たち以外にとっては、我慢と苦痛に満ち満ちた世界だ。
だからこそ、ささやかな幸福と満足を、生ある者は求め続けるのかもしれない。
『生者は、おらぬか・・・』
雨と体液と錆びた鉄と泥の匂いが充満する中に、生命の息吹は感じられない。
それでもなお、警戒を緩めることなく、ホビットと呼ばれる一族の末席に属する者は、周囲を見渡す。
街道を行く人族の商隊がゴブリンに襲われ、全滅した。
事件とも呼べない、珍しくもない事例の一つだが、通常と異なっているのは、襲ったゴブリンどももまた、一匹たりとも生き延びてはいなかったこと。
その要因たる、短剣と呼ぶには長く、長剣と呼ぶには短い双振りの剣は、どちらも赤黒い、ぬらぬらとした汚れに覆われていた。
天上から降り注ぐ雨以外に、動くものはないと判断したその者は、ほんの数刻前まで馬車の幌だったはずの物で、剣の汚れを拭い取る。
サッと刃に指を滑らせると、わずかに頷く仕草をした。
どうやら、刃こぼれはないらしい。
念のため、何度か軽く剣を振って水気を切り、鞘に収めると、改めて死体を一つ一つ検分してゆく。
ゴブリンは、息をしているかどうかの確認のみ、人族については、それに加えて持ち物を確認する。
命を失った者に財産は不要であるし、どこかの街や村にいるであろう、関係者に連絡してやる義理はない。
人手があれば、埋葬の手間を厭うことはないが、何しろこちらの手は二本しかないし、対象は一人や二人ではなく、天候もすこぶる悪い。
(仇をとったことで、容赦願おうか。)
片手を顔の前に立て、鎮魂の呪いを口ずさむこと数回の後、
(女子の身で、かような場所に?)
異種族の死体とは言え、女体をまさぐることは自粛したその者の耳に、微かに届く声があった。
「うむ?」
予感を覚え、思い切って、その女の服の裾を捲り上げたのと、赤ん坊の泣き声が耳を打ったのは、ほぼ同時だった。
首がすわるどころか、母胎の外に放り出されて間もないと思われるその赤子を、存外の繊細さで抱き上げると、躊躇なく懐に滑り込ませる。
(このような状況で生を受けるとは、余程の強運か、あるいは凶運か・・・)
はじめてその者の顔に浮かんだ表情は、果たして笑みであったか、悲しみであったか、あるいは・・・
次回予告
ゴブリンに襲われている村を見つけたゴブリンスレーヤー。
しかし、その村に住んでいたのは・・・




