05. 真琴、浮上する
男子高校生の儚い夢を打ち砕かれた真琴は、前世で読んだ事がある異世界転生モノのラノベを現実逃避の様に思い出していた。
ラノベ主人公は皆、使い勝手の良いチート能力を持ってモテ三昧の日々を過ごし、あまつさえ苦労もせずにハーレムなんてものまで手に入れていたではないかと、それがさも現実の出来事の様に思い始めていた。
「真琴、そろそろ、こちらに戻って来たらどうじゃな? 何処に行っておるのか皆目見当もつかんがの、フォッフォッフォフォ」
虹色チビティラノザウルスという微妙な姿の真琴に声を掛ける宇宙神ゼノバゼロスだったが、いまだ果てのない煩悩世界にもぐっている真琴が浮上するまでしばし苦笑気味に待つ気長な宇宙神だった。
「ゼノバゼロス様、呼びました?」
「そうじゃの、茶を三度おかわりするするくらいは呼んで待ったかの、フォッフォッフォフォ」
「……それは、失礼いたしました。鏡の中の自分の姿に奈落の底まで引きずり込まれた気分でした。」
「ふむ、真琴の変身能力、メタモルフォーゼは本人の特徴を無視しての変化は無理と見たの」
「げっ!ゼノバゼロス様、マジですか? やっぱりダメダメ能力。。。シクシク」
「まぁ、そうそう嘆くこともあるまいて。真琴のスキルには魔法創生能力もあるじゃろ? それで新たに変身魔法でも創生してみるのもよいかもの。」
「はぁ、魔法創生ですか。何だか精神的に疲れたのでチャレンジは後日で……あっ、でもティラノは嫌なので変身解除~~~」
「フォッフォッフォフォ、愛らしいペット姿にもどったの」
「……『虹色チビペンギンスライムもどき』これが異世界転生した俺のデフォ。。。シクシク」
「さて、真琴よ。そちは今までの前世が些か変わっておるのだが自覚はあるかの?」
「むむむ、ゼノバゼロス様、なんて失礼な、変わってませんよ、至って普通ですよ。」
「おお、変な意味じゃないぞ?先に話したじゃろが、そちは何度も転生を繰り返しておると。忘れたかの?フォッフォッフォフォ」
「ああ~そう言えば聞いたような?気がする?」
「フォフォ、まあよいわ。そちの前世の地球という世界でも輪廻転生はあるのじゃが、そちは一つの星での転生に留まらずワシが今まで創った世界を転々と転生しておるのじゃよ。まぁ、その理由も気が付いたが。初めからワシの部下にあたる神々の世界の理から外れた存在が真琴、そちじゃの。」
何だかとんでもないことを聞かせられている気がするのは気のせいかな。難しいことは考えないように(端から理解できないともいう)してるからね。
「ゼノバゼロス様、基本的なところで、どうして俺はここに転生したんでしょうね?」
「そうじゃの、本来はまだ転生するには早かったというのが本当じゃな。そこの隅にある箱が見えるかな?あれは星屑の欠片や新たに神を創生した時の不要な魂の欠片なのじゃが、次の星を創生するための力を注いだ器をうっかり箱に入れたようじゃ。そこで発生したモノがそちの魂を入れる器になった神生物じゃな。先に器が出来たせいで、そちの魂が器に呼ばれたということじゃろ。原因はワシじゃな、すまんかったの。」
ありゃ、宇宙神様のうっかりでここに転生しちゃったのか俺は、転生を繰り返しているみたいだけどその記憶も無いしな、あるのは日本の記憶17年分くらいだし、まぁいいや。
「ゼノバゼロス様、大丈夫、ノープロブレムですよ。ペット称号は微妙ですけどね。それより変身スキルはダメダメでしたけど、他のスキルはどんなもんでしょうか?」
日本の男子高校生にはあるまじき疎さを誇る真琴である、ゲームはおろか、ラノベもモテハーレムと分かった時点で嫉妬で読むのを止める程だったのである。妄想無しの筋金入りのリアル煩悩少年なのだ。スキルだチートだと言われても理解出来ない真琴であった。