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約束

「もう時間がありません。

私と七不思議の一つである聖なる泉の湧き出る地へ参りましょう。」



拍の額に汗を滲ませた切実な表情が、その必要性と重要性を如実(にょじつ)に物語っている。


「七不思議?

聖なる泉の湧き出る地って『拍子水(ひょうしみず)』のこと?」


「こちらではそのように呼ばれているのですか。

なるほど……

言い得て妙ですね。」


「でも、もう遅いし、夜になっちゃうよ。

まだ一度も行ったことないから、行ってみたい気もするけど……」




**回想**



===姫菜!七不思議なんて見に行くほどのもんじゃないからな。===

===千は、ほんと心配性だね。わかったよ。===



******



「う〜ん………。」



「千……ですね…。」


斜め下に視線を向ける拍。

拍は、やはり千ことを知っている。

根拠は、なくても私には分かる。


「約束なの。

だから、私は、いけない!。

ごめんね……。」


「理由は、聞いてくださらないのですか?」


「理由を聞いても私の答えは変わらないから。

約束は、守らなくちゃ。」


「約束だからではなく……、

千だからなのではないのですか。」



拍からの零れ落ちた(つぶや)きが冬の乾いた大地に

無残にも吸い込まれ、

拍の表情は、冬の物悲しい静けさを宿し、

長い睫毛が瞳の光を遮っている。



「姫奈さまにとって……

千君はどういう存在なのですか。」


「ん?

幼馴染だけど。」


私は、質問の意図がわからず、呆けた声を上げる。


「それだけですか?」


「…ん?

……友達?」


拍は、小さく前傾姿勢となり何かを()えるように、小刻みに震えている。

そして軽く体を反らせ、二つの(てのひら)で顔を覆いコロコロと笑った。


ひとしきり笑い終え、滲んだ涙を手の甲で拭っている。

私は、呆気にとられていただろう。



は〜ぁあと独り言ちして、

おそらく今、千がシメられているだろう校舎の指導室あたりをまだ涙の滲んだ眼で見上げている。



「わかりました。

私は、あなたが戻って来てくれるのを待つこととしましょう。

…何度でも……」




*******




私は、泣いている。

喪失か、亡失か、滅失か、流失か、消散か、失意か、後悔か、悔恨か、懺悔か、無念か、厭世か、憎悪か、驚愕か、恐怖か、畏怖か、戦慄か…………

わからない。

何が私のブラウスを濡らしているのかも

わからない。

今、私は、泣いている。

大樹に身体を縛られて

泣いている。






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