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齟齬

「拍は、外国出身だから難しいかもしれないけど、

女の子に対して安易にデートとか使わないほうがいいと思うよ!

外国では、どういうニュアンスで使われているかはわからないけど、

姫島…いや日本では、異性間のセンシティブな表現だから。

っていうより、デートって意味ちゃんと理解してる?」



放課後、昇降口を降りてすぐ左手にあるテニスコートの向かいの少し大きな木の下で

私は、例の転校生を問い質していた。


私は、人生で初めてデートの誘いを受けた。


帰国子女の転校生の不容易な語彙の選択ミスによって

私は、千やクラスの女子に袋叩きにされかけたのだ。


「逢引のことですよね。よく理解しています。」


「合挽き?

確かに今の私の現状は、

千を筆頭に全校女子連合軍にひき肉にされる寸前という感じだけど……。

それも全部、拍のせいでしょ!!」



白魚のような手を口元に寄せクスりと無邪気に可笑しそうに笑う拍。

どうも彼の微笑みを前にすると戦意を削がれてしまう。

もしかしたら私は、カッコいい人間に無意識下の苦手意識があるのがもしれない。

千も学年問わず女子には人気があるらしいけど……。

クラスでは、三馬鹿トリオの内の一人という確固とした地位を確立しているから唯一の長所である男前が埋没し、

かつ私の中では、幼馴染というバイアスがかかっているからなのかな……。

その例外にあるようだ。


「とにかく! 

デートっていうのは、あ、愛し合っている二人が時間を共有する大切なものなの!

だからデートっていう言葉は、本当に心に決めた人にしか使っちゃダメ!」


「その認識で概ねあってますよ。」



……え??

言葉の概念と意識の統合をはかったつもりだったんだけど、

更に混迷を深めてしまったかも……。

日本語って難しい。


「いいましたよね。私と一緒になってくださいと。

ずっとこんな日が来るのを心待ちにしておりました。」


「…………は!!!!!!?」




・・・・私の声だった…………。


「ふ、ふぇ!? 

あれ、聞き違いじゃなかったの!?

きゅ、きゅ、きゅ、きゅ、急にそんなこと言われても困るんですけど!!」


「そうですね。

姫奈さまは、私のことを覚えていらっしゃらないようですし、

その反応もごもっともかと思います。」


どういうこと!?

拍に関する記憶は、私の中にはないのに……。

だけど、憂愁の色の滲んだ拍の落とした視線をみて、

私は、胸が苦しくなる。


私の不安が拍に伝わったのかもしれない。

拍は、いつもの華麗な微笑みを私に向け、

私だけに向け……


「その話は、また追々。

ただ、一つだけ知っていてください。

私があなたを想っていることを。」



茜射す昇降口を背景に

拍は、私を真剣な眼差しで見つめている。


私は、所在無くただ彼を見つめることしかできなかった。

テニス部のラリーの音が徐々に早くなるのを感じながら。




「それにしても幸運でした。

口では姫奈さまを誘っておきながら、

おそらく私の願いは、叶わないだろうと思っていたので。」


「どうして?」


「千君が私の姫奈さまへの接触を死んでも許してはくれないだろうと。」



実は、私も拍の誘いを断ろうとしていた。

バカ3人との帰宅が私の慣習となっているというのもある。

しかし暗黙の了解となっているにもかかわらず今日は、

千からの鬼気迫る勧誘というか脅迫があったのがその大きな要因だ。

だから何で怒ってんの!?



どういう心境の変化だろう。

拍君が転校してきてから千の様子が明らかにおかしい。

私を避けていたはずが一変、

拍君を気にしながら私の周りをウロウロするようになった。

盗塁を警戒する時の千のように。


やっぱり私の幼馴染は、重度の情緒不安定なのではないだろうか。

おそらく千にそれを直接伝えたら絶対怒るだろうし、否定するだろうが。

情緒不安定患者は得てしてそういうものらしい。

よし!! 今度、千ん家の郵便ポストに良い精神科の電話番号のリストを書いて入れておこう!









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