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日常の終焉

「婚礼?

……今、私告白された?」



ないないない。

帰国子女で初対面の金髪碧眼美少年に特筆した長所もないこの私が。


転校生登場などという閉鎖的な離島にあるまじき非日常が

私の聴覚に美化補正機能搭載の特殊な鼓膜を植え付けたとしか考えられない。

これが彼氏いない歴=自己年齢がもたらした弊害というやつか……。


だけど通り過ぎざま私に対して何か言っていたことは、

その視線と口の動きから間違いないだろう。


少し気まずいけど、

千に確認してみよう。



「千。今、手水君なんて言って…た……」

「ぁあ!!!」


ぉ、怒っとる〜……。

殺意と害意と悪意を惜しみなく抽出してできた目だった〜……。

私は、何もしてないのに……。



当然のことながら休憩時間は、男女問わず手水君の机を囲み質疑応答が執り行われていた。

男子は某有名牛丼チェーン店のように

立ち代わり、入れ替わり驚くべき回転率を巡らせ、

女子は、冬季を象徴するセーター裏に滞留した膨大な静電気のように囲い込み、回り込み驚くべき包囲網を巡らせた。


そんな三角波に対しても手水君は、

一切嫌な顔をすることはなく誰に対しても紳士的に王子様のような笑顔で対応していた。


これがノーブレス・オブリージュというやつか。

どっかの誰かも見習ってほしいものだ。


そんなことを思いながら手水君からどっかの誰かに目を移す……



むっちゃ睨まれた……。



「姫さま。」


「比売姫菜さま?」



「……え! 私!?」


「はい。あなたですよ。姫さま。」


机に突っ伏したまま慌てて顔を振り向けた私の横に

中腰で優しく私の顔を覗き込み微笑んでいる手水君がいた。


先入観抜きで本当に王子様のような麗しい容姿に

私の頬は、沸騰しそうになる。


「な、なにかな? 手水君。」


「拍とお呼びください。

手水君なんて他人みたいで少し寂しいです。」


他人ですよね……初対面の……。


「それじゃあ…拍君。

私になにかようかな?」


「拍です。

そちらの方が親しく聴こえます。」


少し困ったように眉をハの字にした憂いを帯びた微笑を向けられては拒めるばずもない。



「は、拍。」


「はい。姫さま。」


雲間から降り注ぐ零れ日のような満面の笑顔が眩しすぎる……。


「じゃあ、私は、姫菜でいいよ。」


「承知しました。

姫菜さま。」


あれ……!?


「どうかされましたか?

姫菜さま。」


……おや……!?


「…姫菜……」


「はい。姫菜さま!」


…ムム!?!? 

……様!?!?


私は、額に汗を滲ませ、

疑惑の念を拍に向けてみる。



首をコクりと傾け、

無邪気な微笑みで返されてしまう。



更に私は、ジーと拍を見つめ、遺憾の意を表明してみせる。


拍は、更に無垢を随伴させて微笑み返す。




悠久ともいえる無言の疑念と清廉の

竜王戦のような睨めっこは続き…………




私の顔面の沸点の到達とともに

長い冷戦は終結した……。




誰か!彼のベルリンの壁を破壊してよ!!



「…で……なんのようかな?」


「はい。もしよろしければ本日の放課後、

私とデートしていただけませんか。」


・・・・・・


「…………は!!!!!!?」


この叫喚が誰のものだったのかは、

わからない。

ただ、私のブレーカーが盛大な音をたてて、

落ちていくのだけは、わかった。



なんだろうこの感覚……。

クラスの女子の殺意と害意と悪意を含有した視線が私の後頭部に突き刺さっているような気がする……。


みんな……いつの間にその禁断の抽出方法、千に習ったの??



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