勇者からメイドになりました!
親愛なるマリーベル
久し振りマリーベル。 元気にしてる? 孤児院の皆も元気に過ごしてる?
私は日々元気に過ごしています。
あの魔王討伐の旅から早十年経ちました……。
あの日から連絡も一切せず行方をくらましてごめんなさい。でも……あの時はああするしかなかった。マリーベルや孤児院の皆には申し訳ないと思っているけど────まだ、しばらくはそっちに帰れそうにないの。
本当に、ごめんなさい。
せめて、マリーベルには話そうと思う。嘘ではないわ、約束する。
そういえば先月、カーネルサンダース国国王ノートン陛下の即位百五十年の祭典があったと聞きました。ハイヒューマンであるノートン陛下が善政を行っていること。元国民である私も中々誇らしいわね。
魔王を倒してからというもの、世界各地で起こっていた異常気象も収まって本当に良かった。
これで、孤児院の皆が飢えることも、今にも崩れそうなボロ………少し古い家が崩壊する心配も、きっっっとしなくて大丈夫だろうし。
私の仲間達も、あれから自由気ままにやっているようだし。本当に良かった! 本当に、本当に良かった!!
私を含めた皆女の子だったけど、全員が全員、旅どころかまともに狩りも狩った獲物を捌く仕方も知らなかったから私本ッッッ当に苦労したの!!
マリーベルに料理洗濯掃除裁縫狩猟値切りの極意から節約生活の方法を一緒にやらされた時は、いくら主婦になった時の備え、旦那様を確実に逃がさない為の下準備と言われても遊びたい盛りだった私には心底迷惑に思ってた。でも、今では心の奥の奥から感謝しているの!!
あ れ の お か げ で 魔 王 討 伐 の 旅 を や り 切 れ た !
本 当 に や っ て て 良 か っ た ! じ ゃ な か っ た ら 討 伐 の 旅 を 逃 げ 出 し て た !!
だってだってだって!!
周りの仲間達は皆私と違って良いところのお嬢さんだったから! 周りの人に世話をしてもらう立場の人達ばかりだったから!!
女性騎士のリマが居なかったら私、耐えられなかった………!!
聖女も王女も我が儘ばっかりで!
やれご飯は不味い。やれ地面で寝たくない。やれ虫が気持ち悪いどうにかしろ。やれ戦うなんて怖い。怪我なんてしたくない。同じ服なんて着たくない。着飾りたい。パーティーに行きたい。婚約者欲しい。結婚したい。チヤホヤされたい─────
─────なんで来たんだよあんたら!! 馬鹿なの?
阿呆なの? 死ぬの? むしろ私が殺りたかったわ!!!!
ふざけんなよ!? 私だって好きで討伐の旅に出たわけじゃないんだよ!? ノートン陛下が、孤児院の皆に十分な食料と家の改築をしてくれるって言ったから!! 私達を一生懸命育ててくれた神父様も跪いてお願いしてきたから仕方なく! 本当に仕方なく勇者になったんだよ!? 私が、ノートン陛下と同じハイヒューマンとして生まれたからって……!!
ハイヒューマン……。
重度の魔力多可と濃度で不老長寿となった人間のこと。その人の魔力保有量によって寿命は変わるが大体が二百半ばから三百前後。但し、長命になるためか子供が出来にくくなるという欠点もある。
世界各地でハイヒューマンは私を含めた五人。一人はバトラー国の伯爵令嬢兼女性騎士のリマ・リクター。ピュア国の聖女マリアンヌ。そしてノートン陛下の娘、ヴィクトリア・ヨア・カーネルサンダース王女。
そして私、孤児院出身のアンナ。
この四人に世界各地で起こっている異常気象の元凶である魔王を討伐しろって言われた時は高貴方の血は本当に青色なのか確かめたくなったものよ……。
でも異常気象を止めないと孤児院にいる私の大切な家族達が辛い目にあっちゃうから……。私は泣く泣く勇者になったというのに!!
けどもういいの。
昔こそ色々あったけど、今では仲が険悪だったマリアンヌともヴィクトリアとも同士と呼べるほどの中になったし。リマに関しては私の心の中のお姉さまとなっているし。本当に、何故リマは女性なのかしら? あんなに素敵な人が男性でないなんて……!! 男性だったら全力で口説いていたのに……!!!
コホン。話がそれてしまったわね……えっと、何だったかな? ああ、そうそう。魔王討伐の旅で私達四人が回ったダンジョン!
ヴィクトリアが攻略した『傲慢のダンジョン』マリアンヌが攻略した『色欲のダンジョン』リマが攻略した『憤怒のダンジョン』そして最後に私が攻略した『強欲のダンジョン』!
この四つのダンジョンで手に入れたアイテムをマリーベル宛てに送っておいたから是非使ってね。今の私だとだたの宝の持ち腐れだし……─。
私、今ね。ある貴族のお屋敷でメイドとして働いているの。
あっは、驚いた?
魔王討伐の旅を終えて仲間の皆と離ればなれになったけど、私、殆ど身一つで行く場所も無くて………黄昏いたところを当家の奥方様が拾ってくださったの。最初はあんな事があったから警戒したんだけど、すぐ奥方様に悪意も打算的な考えも無いと判って申し訳ないと思いつつメイドとして雇ってもらったのよ。
………ふぅ。
駄目ね……。何時まで経っても、あの日。何があったから話せなくなっちゃう。マリーベルだけには打ち明けると決めて筆を執った筈なのに────ごめんなさい、マリーベル。意気地なしの私の愚痴モドキばかり書いちゃって。
………あの日、四つあるすべてのダンジョンを無事に攻略しおえて、とうとう魔王のいる魔王城に乗り込んで行ったの…………。
そこで、魔王を守護する三人の魔族が現れた。
竜人族の首領をヴィクトリア、淫魔族の首領をマリアンヌが、魔狼族の首領をリマがそれぞれ対峙してくれて………私は後ろ髪を引かれる思いで魔王の元に赴いた───。
『ようやくお前の元に辿り着いたぞ! 魔王!! 世界各地で起きている異常気象の元凶!! 皆の苦しみ! その身で贖え! 覚悟!!!』
『ふ、良くきた勇者。此処まで無事辿り着いたこと、誉めて遣わす』
玉座にえッッらそうにふんぞり返っている痩身の美丈夫!(腹立つなんであんなに肌白いのよ!!)な絹のように流れる銀髪紅眼の魔王!!
キィーーー!!! 此処に来るまでの魔王直属の配下達も嫌みのように美形!! 美形だったし!! 大切なことだから二度言うわ! び・け・い!!!
私は美形が大きっっっらいなのよ!
『その顔面、二目も見られぬようボコボコにしてくれる………!!!(ボソッ)』
『………聞こえてるぞ、勇者』
残念なものを見るような目で見るな! 魔王!!
美形はそんな顔でも栄えていいですねぇ~~? 何でもかんでもその顔面で物事解決してったんでしょうよ! ケッ!! 人が真面目に仕事しても!! なぁ~ぜぇ~かぁ~顔のいい奴の方が評価されてサボっても怒られなくて給料もにこやかスマイル☆で上げてもらったり少し憂い顔しただけで周りからチヤホヤされたり差し入れ貰ったりご飯奢ってもらったり贈り物沢山貰ったり!! 人がちょっ~~と注意しただけでさも酷いことされたみたい悲壮感漂わせて周りの人に同情してもらって攻撃させたり!! あの後、私、あんまりにも周りの人からの嫌がらせが酷くて仕事辞めて他に行こうとしたらあの屑美形!! わざわざ人の新しい職場の女(よりにもよって女!!)に散々粉振って二股どころか十股掛けやがって!! し・か・も!!! その責任をなぁ~~ぜぇ~~かぁ~~!! 私の所為にして逃げ出しやがってあの糞美形が!!! んでもってそれを真に受けた浮気された女の親兄弟伯父(叔父)伯母(叔母)従兄弟(従姉妹)恋人婚約者旦那共相手に修羅場を演じる羽目になった私の立場と苦痛と風評被害の酷さといったら筆舌し難いわ!! 美形、滅びろ。美形、死滅しろ。美形呪われろ。美形絶滅しろ。美形くたばれ。美形以下略省!!!!
『…………………苦労、したのだな。………勇者』
心を読むな! 魔王!!
憐れるような目で見るな! 世界の天敵め!!!
『いや……あのな? 途中から口に出して言っておったのだが………というより本音が出ているぞ』
『問答無用!! くたばれ!! 魔王!! その忌々しき顔面と共に!!!』
『少しは冷静になれ』
魔族とは言葉巧みに人の心の奥底に侵入して相手を意のままに操る術に長けていると聞いたことがあった。魔族の王ならばその効果はいかほどか。私は意を決して魔王に全力で、ええそれはもう全身全霊を賭けて挑んだわ……。マリーベル、私はね。世界の平穏と私の平凡な日々の為に、死力を尽くした。それなのに………。
私は最後の最後で魔王の前に力尽きたの。魔力はほぼ互角。でも年季の差か、はたまた実力差だったのか。私は、魔王に敗れた。………そう。今世間で言われている勇者と仲間達の話は全部嘘。国が……保身の為に広めた偽りだらけの告知。
私は、私を下した魔王に、せめてもの抵抗として睨み付けて呪詛を吐いた………。
『美形なんて呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ呪われろ美形なんて嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ美形なんて年食えば禿げて腹出て加齢臭出て猫背になって下が緩くなって皆に見向きもされず孤独死してしまえ………ッ!!!』
『そこまでいくと筋金入りだな、勇者』
その呆れ顔を抉るほど殴りつけたい!!
魔王はそんな呪詛を吐くしか出来なくなった無力な私を嘲笑うかのように頭をポンポン撫でやがった美形が触るな近付くな息するなくたばりやがれ。
『安心するが良い勇者。そなたを殺めるつもりはない……』
そうか、それは嬉しいですがまさか同情でもしてるんですか? 魔王? 死んでください。
『そろそろ我が配下達も終わった頃であろうが………彼方はどうなったのやら』
『!!!』
魔王のその言葉に私はハッとした。
美形という呪わしい存在に目を眩ませて仲間達が時間を稼いでくれている中、私は私怨に駆られて魔王に挑んでしまっていた……。私は……なんという最低な人間なんだ!! と。
『……ッ、きっさまぁぁああ!! 私の仲間達に何をした?!』
『安心しろ。そなたの仲間達は皆無事だ』
そんな戯言信じられる訳が………って、だから頭を触るなぁぁあああ!!!
『だからな? 落ち着けと言っておるだろう? 勇者───────我が花嫁』
ピタッ
…………………はぁ???
『机の角に頭打ちつけてボケたかそれとも頭沸いたかもしくは頭の中全部筋肉なのか美形野郎』
『………そなたにとって美形は悪口なのか?』
やれやれと魔王は一通の手紙を私に差し出した。
『読んでみるがよい。今頃、そなたの仲間も知らされている頃だ』
ああぁん?
舐めとんのか魔王。そんな手紙が何だというのだ。………そう思いながらも私は魔王から手紙を受け取り読み始めた。
『○♤■◐◑◁■◐‡ー‥‡!!!!!!?????』
そこには恐るべき秘密が記されていた。
手紙の差出人はなんとノートン陛下と私の育ての親の神父様からだった。
手紙が、残念ながら。ざ・ん・ね・んながら洗脳や脅迫によるもので書かされたもので無いことが一目で分かった。
何故なら手紙には世界の創造主たる御名の元によって誓約された紋様が刻まれていたからだ。
その紋様の元、嘘偽り心を伴わない言葉や文章は記すことも口に出すことも出来ない。魔族の王でさえ介入不可能な絶対不可侵文書なのだ!!!
『なっ、なななななんですってぇぇぇええええ??!!!』
そこに記されていたのは………。
『アンナ。君がこれを読んでいるということは魔王の元に辿り着いたんだね。おめでとう。そして私は君に謝らなくてはならない。私が君に言った魔王が、世界各地で起こっている異常気象の元凶という話。あれは実は嘘なんだ』
な ん で す と ?!
『いや違うな。嘘というよりは魔族の数があまりにも減り過ぎて起こってしまったこと。というのが正しい。知っての通り。魔族とは世界に満ちる魔力が固まり、核となって生まれた種族だ。それ故に、魔族のモノ達は総じて魔力の扱いに長け中でも魔王は群を抜いている。不老長命で強靭な肉体と膨大な魔力。しかし肉体を持つ魔力の固まりである魔族にも一つだけどうしようもない欠点がある。それは、子供が出来にくい上に女性がひっっじょおおおに生まれにくい種族であること。つまり魔族は万年嫁不足に苦心する一族なのだ!!!』
子供が出来にくい上に、嫁不足???
魔族の減少が、それがなんで世界各地で起こる異常気象の原因になるの?
………続き、読むのが怖い。
嫌な予感しかしない…………。
『アンナは何故、魔族の減少が異常気象の原因になるのか疑問に思っているだろう。そもそも魔族は魔力の固まりが核となり生まれた種族ではあるが、それは、実は創造主がそう仕組んだことなのだ。創造主は魔族に世界に満ちる魔力の流れを整えるいわば安全レバーの役割を授けた。大抵の人間は精霊が世界の魔力を制御していると思っているが、正確には精霊は魔力の流れそのものなのだ。精霊が世界中を飛び回ることで魔力が満ち、魔族がいることで世界に流れる魔力が均等になりまた滞ることがないのだ』
だから、何?
『つまり魔族の減少は世界レベルの問題なのである。しっかーーし!! そこで登場するのが君達ハイヒューマンなのだ!!!』
ピクリ
こめかみが少し引きつった。
『ハイヒューマンの女性は魔族女性のように混血児ではなく純粋な魔族を産むことが出来る唯一の多種族女性なのだ!』
ピクピク
『君達が今まで攻略していったダンジョンは嫁を求めている魔族が自身の魔力で創った場所。いわば【嫁さんホイホイ!!!】このダンジョンを攻略出来る=魔力の相性バツグン嫁においで♡ ということだ』
ピクピク、ピクピク
『君達が、魔王を含めた上位魔族のダンジョンを攻略したと知らせを聞いた時。私は感動のあまりむせび泣いたものだ』
ピクピク、ピクピクピクピク!
『君達には世界の命運が懸かっている! 頑張って未来の旦那様と一緒に末永くたくさんの子供達と共に幸せに暮らしてくれ。
追伸
結婚式には是非とも呼んでくれ』
ピクピク…………ビリィ! ビリリィィ!!!
無言で手紙を破り捨てたのは無理はなかったと、私は今でも思います。………気のせいか。何処からか仲間達の『ふざけるな!!』という怒声が聞こえた気がしました………。
『まあ、そういうわけだ。これから宜しく頼んだぞ? 我が妃』
『────ふざけんじゃあねぇぇぇよぉぉおおおお!!!!!』
渾身の一撃を、魔王の顔面にたたき込めたこと。
今でも誇りに思います。
それから私達は協力し合ってあの糞カス美形万年嫁募集男共から逃げ出しました。
魔族の男共は私達を、
『その傲慢さ、調教のしがいがある』
『ヌシの色欲の深さ、色々と楽しめそうだ』
『お前のその強き憤怒、理に適い、尊敬に値する』
『そなたの強欲さは愚直過ぎて見ていて飽きぬ』
誰が誰に言われたか推して知って欲しいと思うわマリーベル。
そしてそんなことを平然とのたまう未来の旦那様方(嘲笑)とやらは言っていたの。逃げるのも無理はないわよね?
そんな訳でマリーベル。
私は、私達はあのクソボケカス美形野郎共が嫁にしようとするのを諦めるまで。それこそ地の果てまで逃げようと思うわ。
ああ、異常気象の件は安心しても大丈夫よ。
一人だけ魔族の求婚を受け入れて結婚した人がいたから…………その人のおかげで世界の異常気象は収まったんだけど。その、私の元仲間は今、旦那と喧嘩して家出中なのよね。なんでも「しつこすぎるのよ。この変態野郎」って吐き捨てて出て行ったそうなの。
この件を聞いて残りの私達は絶対に奴らと結婚しないと決めたわ。やっぱり人間は人間同士の方が良いわよね!!
そんな訳だから、マリーベル。心配だろうけど待っていて欲しいの。マリーベルは普通の人間だから私達ハイヒューマンとは時間の流れが違う。分かっているけど、私は必ず、必ずマリーベルに会いに行くから!!
私の親友。私の大切な家族。私の帰る居場所。
絶対、絶対、ぜっっったい!!! 約束するわ!!
マリーベル、大好きよ!
アンナより。
追伸
ノートン陛下と神父様に
死 に さ ら せ 毎 朝 呪 詛 を 唱 え
て い る ぞ 覚 悟 し ろ 。
と、私が言っていたと伝えて欲しいの。最近だと人形に呪いたい人の名前を書いてトンカチで打ちつけるというおまじないをしようと思っているんだけど………出来れば、二人の血を手に入れてくれない? 人形に書く名前は呪いたい人の血で書くと効果をますらしいから。出来ればでいいから宜しくね♡また手紙書きます。
●○●○●○●○
手紙を読み終えた私はため息を吐いた。
アンナったら、まったく仕方ないんだから………。
でも、まさか魔王討伐にそんな真実があったなんて……。アンナが逃げるのも無理はないわね。
それにしても、神父様まで関わっていたなんて。これじゃあアンナが怒るわよ。ただでさえ、あの馬鹿男の所為で男を観る目が厳しいのに。そのくせ結婚に夢見ちゃってるからそれを台無しにしたノートン陛下と神父様を許さないでしょうね……。
「まったく、神父様も馬鹿なことをして。どうせならベタに落とし物を拾って~~とか。角でぶつかりざまお茶に誘う~~とか。商品を取ろうとしたら手と手が触れちゃった~~とか。ウブな乙女心分かってないのよね」
頭が痛いわ……。
「───でも、それはそうとアンナったらどこでメイドなんてしているのかしら?」
首を傾げるも答えが出るはずがなく、私は再びため息を吐いた……。
「さてと……。ノートン陛下と神父様の血をどうやって手に入れようかしら? まったく、量ぐらいは書きなさいよね!!」
私だって怒っているんだから。
覚悟してくださいませ、ノートン陛下、神父様………?
あら、そうそう。
「魔王様? アンナはどうやらどこぞのお屋敷でメイドをしているみたいよ? 探しにいきますか?」
「そうか、礼を言うぞ」
キャッキャッ笑いながら飛び跳ねている孤児院の子供達の相手をしてくれている魔王様。
………実はアンナが魔王様をぶっ飛ばして逃げ出した時に真っ先に魔王様はアンナの育ったこの孤児院にやってきた。
最初は驚いたけど話を聞いている内に、この人ならアンナを任せて大丈夫と私が勝手に判断(笑)。
でも待てど暮らせもアンナは帰ってこず。孤児院に突撃してきた魔王様は日に日に暗雲を背負うようになり。端から見ていて大変鬱陶し……コホン。大変微笑ましくなり、アンナから連絡があったら知らせる代わりに子供達の相手をしてと頼んだ。そしたらあらまあ。毎日子供達の相手をしに来てくれるようになった。
そんなにアンナの居場所が知りたいのかと聞いたら……、
「アンナの居場所も確かに知りたいが、アンナの育ったここも我にとってはアンナと関われる大切な場所だ。それに………いずれ生まれる子の為に今から慣れておく必要があるだろう。何しろ今の魔族には子が一人も居ないからな………慣られようが、ないのだ」
健気な魔王様に、絆された感はあるわね。
まあ、私が嫁探しの方法にダンジョンは無い! と説教したのが利いたのかしら?
でも………。
「───良かったら、魔王様? 私がアンナ宛てに魔法で送る手紙と一緒にアンナの元に飛びますか? その方が、早いと思いますよ?」
私の提案に、魔王様はぐらついているようだけど。それでも首を降って拒絶した。
「いや、自力で探す。己が花嫁のことだ。我の誠意を見せねばアンナはきっと心開いてくれぬ。そのような結果だけは、我は御免だ」
「ふふ。そう」
一族の繁栄の為だけではなく、きちんとアンナを見ようとしてくれている魔王様。
(逃げ切るのは無理みたいよ? アンナ)
どうやら魔族は一度伴侶と決めた相手に対してとことん執着する性質があるみたいね。それとも魔王様だけなのかしら? ふふ。それはそれで楽しいわね。
そんな魔王様は、少し小さくなりながら私に言うのだ。
「……だが、せめてある程度の地域ぐらいは教えてもらってもよいか?」
しおらしく尋ねる魔王様に思わず吹き出して了承する。
私が怒っているのは貴女もなんだから、文句は言わせないわよ? アンナ。
貴女も覚悟しなさいね?
『お前もか、マリーベルぅぅぅうううう!!!!』
by
アンナからマリーベルへ、親友の裏切りに心を痛めて叫ぶ。の巻き。