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星のてかがみ  作者: たかの かんな
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エピローグ

「えっ……、それでおしまい!? てかがみ座は……ちい星は死んじゃったの!?」


 男の子が甲高い声で叫びました。男の子と話していた女の人は何も言わずに男の子の手を引きます。窓のそばまでやって来ると、女の人は言いました。


「あそこに底が深いスプーンみたいな形の星があるのが見える?」

「うん。おたまみたいだね!」

「そう。その柄から一番遠いところに並んだ縦二つの星の距離をはかってごらん」

「どうやって?」

「手をぎゅっと握って、こぶしを重ねるの。たとえばあそこからあそこまでだと、こぶし三つぶん、とかね」


 女の人は満点の星空を指さしながら男の子に教えます。男の子は時々「わかんなーい!」と言いつつも、しばらくして「僕のこぶしだとこれだけ!」と楽しそうな声を上げました。


「それじゃあ、次は今数えたこぶしを五回ぶん伸ばしてみるの。どう、明るい星は見つかった?」

「見つかったよ!」

「あれがね、空のてっぺんから落っこちそうになったこぐま座のポラリスなのよ」

「えええっ!」

「そして、さっき坊やがポラリスを探すのに使ったおたまみたいな星が、おじいちゃんのおおぐま座のしっぽなの」


 男の子は目をまん丸にしてすごいねえ、すごいねえ、と言いながら、ちょっと首を傾げました。

 女の人は男の子の考え込む様子を見ながら、そうそう、がんばってね、と心の中だけでつぶやきます。男の子はきっと、てかがみ座が今どうしているのか気付くでしょう。

 春の夜空に輝くたくさんの星。おとめ座、やまねこ座、からす座、ふたご座、そしておおぐま座とこぐま座。宝石箱のような夜空を見上げて、女の人は男の子を優しく撫でました。女の人の視線の先には、きらきら輝く七つ星がありました。



***



 ――私たちが生まれるよりずっと昔、春の夜空にはてかがみ座という小さな七つの星が集まっただけの地味な星座がありました。他の星座の美しさを映す手鏡としてしか役に立たない星座でした。


 ある時こぐま座が空から落っこちそうになりました。こぐま座は北極星を持つ大事な星座です。誰もが逃げようとする中でなんとかこぐま座を助けようと、てかがみ座は自分の体を投げ出しました。こぐま座を受け止めたひょうしにてかがみ座は割れ、こぐま座と同じ形にひしゃげてしまいました。


 ただでさえ大した役に立っていなかったというのに鏡ですらなくなってしまっては全くの用なしです。てかがみ座とも呼べなくなります。それでもてかがみ座だった七つ星はこぐま座を、北極星を守れたことを誇りに思いました。


 するとどうでしょう、すっかり変わり果てた姿になってしまったはずの七つ星がまばゆい光を放ち始めたではありませんか。他の星座が鏡に映した美しさの欠片が知らない間にてかがみ座の中に降り積もり、北極星を受け止めたことで一気に星の光となってあふれ出したのです。


 北極星はその後ぶじに空のてっぺんに戻りました。てかがみ座の鏡は一生元には戻りませんでしたがその代わりに、こぐま座の親類であるおおぐま座の長いしっぽとして迎え入れられました。


 かつててかがみ座と呼ばれた地味な七つ星の今の名前は北斗七星。春の夜空を明るく照らし、北極星を見つけるための大事な目印として広く知られています。



(おしまい)

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