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1 【和葉】  彼女と異次元バッグ 

「あれ、お隣さん引っ越したの?」


 和葉かずはが尋ねると母は、冷蔵庫から麦茶を出しながら答えた。最近春が来たばかりでまだ寒いので、和葉は暖かいお茶を入れて椅子に座った。


「ええ、今日になって急だけど引っ越すことになったらしいわよ」


 小さなアパートだったため、大体隣近所は顔見知りである。和葉の住む地方は、玄関の鍵を閉めないくらいには田舎であった。

 隣人のサムリは三年前にここに来た外国人の夫婦の旦那さんだ。奥さんのほうは病弱らしく、頻繁に入院しているためあまり会えていないのだが、サムリとは年の離れた親しい知人であった。

 年齢は五十歳を超えているだろうか。スウェーデンの出身だという彼は、白髪交じりの金の髪で青い瞳、年齢と共に重ねた皺は彼の顔をより知的に見せていた。


「あ、和葉に言ってたわ。仲良くしてくれてありがとう。お礼にって」


 そうして母が差し出したのは、A4サイズのファイルが入るくらいの白い布製の袋で、前面にはスウェーデンの民族文様かなにかだろうか。びっしりと刺繍のようなものが入っている。

 和葉はそれを受け取ると、中を覗き込んだ。何も入っていなかった。


「サムリさんがこの袋をくれたの?」

「そうよ。確か体操服の袋がこの前汚れちゃっていたでしょう? 洗濯しておくから代わりにそれを使ったら?」

「え、うーん、分かった」


 少し不思議な文様だったので、学校に持って行ったら目立ちそうだと思ったが、言ったところで「サムリさんの好意を」と怒られるのが予想できたので素直に和葉は頷いた。

 隣人が何も言わず引っ越したことを残念だとは思ったが、プレゼントを残してくれる気遣いに彼女は喜んだ。


「知ってたら私も何か作ったのに」


 家庭科の成績は2であるがきっと問題はないはずだ。

 彼女が刺繍をしたら確実に指を刺すだろう予想をしただろう母は、「その気持ちだけで十分だと思うわよ。迷惑だから作るんじゃないの」と優しくフォローしておいた。

 不満そうに口をとがらせた後に、和葉は袋を自分の部屋へ持って行った。

 汚れた体操服の袋を洗濯へ出し、明日の体育のためにタンスから体操服を出す。半袖とハーフパンツは制服の下に着ていくので、紺色の長袖ジャージをその袋に入れておいた。

 和葉にとっては、そんな何気ない日常だった。





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