死なない男
私はむせ返りそうな砂埃の中に立っていた。そしてその先に、今回の目標がいることを確認した。
だらしなくよれたツナギのような服を着ていて、身長は一八〇センチくらいの長身。旅をしているようで、大きなザックを背負っていた。歳はまだ二〇代後半と神さまは言っていたが、パッと見でプラス一〇歳くらいは老けて見える、貧相な男だった。
「古賀巧巳、ですね」
いつもの通り、名前を確認した。彼は「ああ、そうだ」と臆することなく認めた。私はさらにいくつか質問しようと思い、口を緩く開けた。しかしなぜか、言葉は喉に絡まり出てこなかった。
私は古賀に対し不思議なものを感じていた。彼が纏う雰囲気が誰かに似ている。その雰囲気を逃すものかと掴み、捕えて、ゆっくりとたぐり寄せる。眉間にしわを作って考える。
――見たことがある、会ったことがあるはず。これは一体誰のだ。
古賀の訝る視線を感じつつもそれを無視して、思い出そうとひたすら記憶の中に私を沈める。そしてひらめいた。
この雰囲気は、私の顔を鏡に映したとき、覗き込んでいる黒い眼が宿している虚しさだ。つまり、私が私自身に感じていたものだった。その感情を彼も抱えている――それを知った瞬間、純粋な興味と混乱が私の中に潜り込んで、中から少しずつ膨張し始めた。
――古賀という人には、いったいどのような過去があるのか。
だけど、知ることが少し怖いとも感じた。
「おい、お前、オレを助けてくれるのか」
すがるような声を出して、古賀が私に近づいてくる。私は戸惑い、目を見開いたまま硬直してその場に立ち尽くしていた。まるで自分を見ているようで、こちらに近づいてくる古賀の距離と比例して恐れが大きくなっていく。何から話し出したらいいのか、唇がわなわなと震え、形にならない声がぽとぽとと落ちていく。
「お前は、オレが今まで見てきた人とは全く違うはずだ。きっと、オレに何かをしてくれるんだろ? オレを、救ってくれるんだろ?」
救ってくれる? そんなわけがない。なぜなら私は――
真っ白になった頭に、思考が一巡してたどり着いた単純な「目的」が姿を現した。
「私は、あなたの命を奪いに来た」
言ったあとで、ハッと口をつぐんだ。確かに私の役割はそうだけど、今したいことはそうじゃない。
私に似ているあなたについて知りたい。私とあなたが抱えている虚しさを埋めてくれる解は、きっと同じなのだから。無意識のうちにそう思っていた。
「命を、奪いに……。そうか、そうなのか」
私の言葉を聞いて、古賀は歓喜に打ち震えていた。膝から崩れ落ちて両手をつき、背負っていた荷物を、常に抱えていた重圧とともに地面に投げ捨てて懇願した。彼は涙を流していた。
「お願いだ、早く、オレの命を――」
私は彼の異様な態度にたじろいだ。殺してくれと願う人は少なからずいるが、彼ほど自身への後ろめたさを断ち切った人は初めてだった。それが余計に私を躊躇わせた。
砂埃が揚々と舞い上がり、茶番劇を見て嘲笑うようにざらざら音を立てている。私の口から素朴な質問が漏れた。
「あなた、どうして……?」
「お前なら、オレをこの世から、葬り去ってくれる。そんな気がする」
嗚咽を漏らしながら、涙を目尻に溜めて私をジッと見つめる。
「オレは、どんなことをしても、死なない体を持った人間なんだ」




