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ともしび  作者: れとろそふと
第二章
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満ちゆく疑念と不吉な影

「神奈ちゃん。新たな可変的な運命を発見したよ」

 何一つ変わらない、いつも通り黄色い雲に埋め尽くされた景色の中に、一滴落とされた黒いインクのように神さまがポツンと浮いている。目的もなく眼下に広がる街並みを眺めていた私は、振り返って神さまを視界の中に捉えた。おずおずと近づいていく。

「今回の標的となる人は、二〇代後半の男性だね。じゃあ、お仕事頑張ってね」

 神さまがとぼけた風に私に告げた。神さまの前でゆるく正座をして、一つ質問した。

「今回の目標は――例えばその人の生い立ちとか、いったいどんな人なんですか」

 神さまはすぐさま、私の期待を裏切る返答をした。

「君がそんなことを訊くなんて珍しいね。いつもは真っ先に下見をするのに」

 神さまの口調には、感情をのせた抑揚というものがあまり感じられない。表情もない。それなのに、今の話から神さまが言わんとしていることがわかってしまった。たぶん、ほくそ笑んでいる。

「わかりました」

 私はぐっと感情をこらえて普段の物言いをしたはずだった。しかし思ったよりも声が大きく早口だったことに、内心、自分自身が驚いた。

 勢いよく立ち上がり大股で足元を踏みつけ、雲の端まで行こうとしたそのとき、神さまが言った。

「一つ、その地域はテロが横行していて治安が悪いから気をつけてね。昔はそんな暴力的な気質じゃなかった土地なんだけどね、これも時代の流れなのかね」

 その言葉に足を止める。――人間と暴力、どちらがいけないのだろう。

 ここでそんなことを考えても仕方がない、と首を横に振った。神さまがいる前でそんな態度を見せるべきではない、とも。

 雲の端から下々を覗き込む。何年か前、小暮という学生の命を吹き消し、仕事を果たした地点からずいぶんと西に面した地域だった。町の様相がまるで違う。

 目を細めてよく凝らし、降り立つのにふさわしい点をじっと捉える。今いる地点と到着地点を結ぶより糸を紡ぎ、私は滑空するように落ちていく。

 落ちている間、私は考えていた。

 ――今日は、嫌な予感がする。

 それでも私にはどうしようもない。ただ仕事をこなせばいいのだ。身じろぎせずに重力に任せて、目標地点へ突き進んだ。


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