満ちゆく疑念と不吉な影
「神奈ちゃん。新たな可変的な運命を発見したよ」
何一つ変わらない、いつも通り黄色い雲に埋め尽くされた景色の中に、一滴落とされた黒いインクのように神さまがポツンと浮いている。目的もなく眼下に広がる街並みを眺めていた私は、振り返って神さまを視界の中に捉えた。おずおずと近づいていく。
「今回の標的となる人は、二〇代後半の男性だね。じゃあ、お仕事頑張ってね」
神さまがとぼけた風に私に告げた。神さまの前でゆるく正座をして、一つ質問した。
「今回の目標は――例えばその人の生い立ちとか、いったいどんな人なんですか」
神さまはすぐさま、私の期待を裏切る返答をした。
「君がそんなことを訊くなんて珍しいね。いつもは真っ先に下見をするのに」
神さまの口調には、感情をのせた抑揚というものがあまり感じられない。表情もない。それなのに、今の話から神さまが言わんとしていることがわかってしまった。たぶん、ほくそ笑んでいる。
「わかりました」
私はぐっと感情をこらえて普段の物言いをしたはずだった。しかし思ったよりも声が大きく早口だったことに、内心、自分自身が驚いた。
勢いよく立ち上がり大股で足元を踏みつけ、雲の端まで行こうとしたそのとき、神さまが言った。
「一つ、その地域はテロが横行していて治安が悪いから気をつけてね。昔はそんな暴力的な気質じゃなかった土地なんだけどね、これも時代の流れなのかね」
その言葉に足を止める。――人間と暴力、どちらがいけないのだろう。
ここでそんなことを考えても仕方がない、と首を横に振った。神さまがいる前でそんな態度を見せるべきではない、とも。
雲の端から下々を覗き込む。何年か前、小暮という学生の命を吹き消し、仕事を果たした地点からずいぶんと西に面した地域だった。町の様相がまるで違う。
目を細めてよく凝らし、降り立つのにふさわしい点をじっと捉える。今いる地点と到着地点を結ぶより糸を紡ぎ、私は滑空するように落ちていく。
落ちている間、私は考えていた。
――今日は、嫌な予感がする。
それでも私にはどうしようもない。ただ仕事をこなせばいいのだ。身じろぎせずに重力に任せて、目標地点へ突き進んだ。




