神奈
「ねぇ、神奈ちゃん。さっきさ、『可変的な運命』を発見したんだ。それで仕事ができたから、やってくれる?」
「はい、わかりました」
ゆるく正座していた私はさらりと答えた。
「神奈ちゃんさぁ、私は一応神さまなんだからね。もう少し敬意を払ってくれてもいいんじゃない? ご期待にそえるよう最大限頑張らせていただきますとか、言ってくれないの?」
「自称神さまが何を言うんですか」
私の前には、サッカーボール大の球体が、黒や青、他にもさまざまな彩色の煙のようなものに包まれて、高さ二メートルくらいの所で浮いている。私に神さまと呼ばせている存在である。私たちを囲む景色は、一面黄色い雲のようなもので覆われている。一般に天国とでも言われそうな、神々しい光に包まれた場所だ。
「神奈ちゃん。今回も下見に行くとかいうの?」
「……」
ぼつりと間が空いた。もし神さまが人間のような身体を持っていれば、おそらく首を振って呆れているか、ため息をついているかのどちらかの動きをとっているだろう。しかし、球体である彼を見ていても、ただ時が止まっているようにしか思えないほどに、大きな変化は見られなかった。
「まぁ、いいんだけどね。君はちゃんと仕事は果たしてくれるし、優秀だよ。でもこの仕事は、ちょっと行ってきて目的を果たすだけでいいんだよ。下見するっていう君の行動は過度な干渉だと私は思う」
「その過度な干渉が、何か悪い影響を及ぼすとでも?」
私は反発した。
「さぁ、いくら私でも、それに関してはわからないよ。何とも言えないね」
私は目をつむり、ふっと息を吐いてからゆっくりと音を立てずに立ち上がった。髪を風になびかせて、敷き詰められた黄色い雲の端っこまで歩いていく。その様子を見て、神さまが言った。
「そうそう。今回の『可変的な運命』を変えるための対象は、その辺りにある町の住人だよ。じゃあ、お仕事よろしくね」
雲の先端から身を乗り出して、一面に広がる街並みを見下ろす。この景色はいつ見ても壮観だった。過去の人間たちの生き様の結晶、現在の人間たちの生き生きとした雰囲気、未来の人間たちの遥かなる希望が形を成したもの、と私は思っている。
左下に山が見えた。今回の目標は、あの山の周辺に住んでいるらしい。ジッと目で捉え続けていると、スウッと体が軽くなっていく。今いる私の位置と、捉えた林道の一点が、細いより糸のようになってつながり、私はその糸を頼りに落ちていく。
目を開けると、私はさっきまで見ていた林道の上に立っていた。
――今回の目標となっている人間を見にいこう。
遠くで学校のチャイムが鳴っている。私は大通りに向かって歩き出した。




