第6話
六月にしては少し肌寒い風が頬を撫でる。
辺りはすでに暗闇と静寂に包まれており、ちょうど人間が睡魔に耐えられなくなる時間帯だ。
見渡せる限りの民家から明かりが消えたことを確認すると同時に、静かに右足を踏み出した。
制服のベルト部分に仕込んでいた銀色に鈍く光るワイヤーが、シュルシュルと擦れた音をだして伸びる。ふわりと重力に逆らい、鉄塔から隣の民家地屋根へと音もなく移動する。そして屋根に左足を軽くつけてからゆっくりと右足を着地させ、ワイヤーをベルトの中に収めた。
その戻っていく様をぼんやりと眺めていると、後方に人影が浮かび上がった。
「…会長」
同じようにワイヤーを経由して隣に降りてきたのは、今回指名した生徒会書記の相崎だ。
蚊のなくような声量で、しかしこの静寂でははっきりと聞こえる澄んだ声音で、相崎は俺に指示を出すように促した。
「これより、生徒会執行部による制裁を始める。相崎は説明した通り動いてもらう。予定の変更はない」
「…了解しました」
会話を軽くかわし、すぐさま予定通りに動き出す。俺も街頭でぼんやりと映し出された街中を全速力で駆け、目標位置を目指した。
今回の任務はいつもと同じ、とある人物に対しての生徒会による制裁である。
制裁というと堅苦しく聞こえるが、簡単にいうと―――――――ただの殺害、だ。
ああ、失礼。ただの掃除、だ。
―――何かおかしいことでも。
目標位置に辿りつくと、数秒遅れて相崎からの通信がかすかな雑音と共に入った。どうやら相崎も所定の位置についたらしい。
間髪いれず、相崎に合図を送る。
目の前には、ひかえめに明かりのついた廃工場。
数年前までは名もない中小企業が所有していたが、経営の悪化により倒産、解体されないままこの場所に残っている。
中からは数人の男の話し声。話している内容はいたってシンプル。そう、なんの飾り付けもない、淡白で単調な言葉の羅列。ヤクをまわせ、だ。
男達の囲む真ん中に段ボールがいくつも積み上げられ、その中に白い手のひらサイズの塊を次々と放り込む男達。
俺は静かに、太腿のベルトに装着した黒い塊を右手で握り、湧き出る高揚感と共に廃工場の中へと駆け込んだ。
こういうことをあまり言わない性分なのだが、いや、言いたくないと言った方が正しいのかもしれない、ベタな悪役の、これこそ飾り気のない単調な台詞。
―――――お楽しみはこれからだ。