第5話
――――ぱさ…
軽い音を立てて、不知火が書類を机に放り投げた。
顔には不満げな色が浮かんでいる。
「黒凪くん。私は今、とても不機嫌だ」
いつもとなんら変わらない口調で不知火が告げる。
俺はそんな不知火を横目で見ながら淡々と、ただひたすらに業務を行っていた。
文面に目を通し、許可を求めるものであれば生徒会の印を押して、承認不承認を行う。
会計から回ってきた書類等もある。それらをすべて今日中に終わらせないといけない。
だから結論から言うと、俺はとても忙しい。誰かとのんきにお喋りなどしてる時間はない。
ましてや不知火の愚痴を聞く筋合いもない。
「何故だか教えてやろうか?それは今回の任務に対するお前の処置が適当ではなかったからだ」
副会長専用の机を人差し指の爪で、規則正しく音を鳴らしている。
時折その音が強くなったり弱くなったりと、不安定になる。
不知火が苛立っている理由はわかっている。
俺が今回の任務で、不知火を《指名》しなかったからだ。
しかしそれは生徒会長権限で俺が決めたことだ。
副会長である不知火に覆せるわけなどない。
不知火自信も分かっているからこそ、その怒りを俺にぶつけている。
だからこいつはめんどくさい。いつも自分の感情に素直に動いて、周りの迷惑など考えもしない。
――――まあそれは俺も同じか。
不知火はいっそう音を強く鳴らし、足で床を強く叩いた。
「何も貴様に決定を覆せといっているわけではない。今回の任務は私が適任だった、といいたいだけだ」
「…うるさいな」
「…私を甘く見るなよ、黒凪くん」
椅子を乱暴に倒して不知火は生徒会室を出て行く。
残されたのは書類をただめくる音と、誰かのため息だった。
――――――全く、これだから外道は。