第4話
「これより生徒会定例会議を始める」
全員が席に着いたのを確認してから、俺はいつも通りの声音で会議の宣言を行う。
毎日の生徒会の恒例行事だ。
生徒会というものはどんな場合であろうと生徒会長の宣言を行ってから行動する、という規則がある。
これは決定事項であり、生徒会規則法に基づく絶対命令である。
ちなみに生徒会規則法は全96条で構成されており、生徒会に入るためにはその全てを頭にたたきこむことが必須条件となっている。――――少し話を戻そうか。
生徒会定例会議はほぼ毎日、この生徒会室で行われている。内容は主に会計、書記、庶務からの報告、重要案の決定、そして生徒や市からの任務依頼の受託等だ。
副会長からも報告を受けることもあるが、だいたいは会長の補佐に徹する場合が多い。
閑話休題。
俺が宣言すると同時に牧原がゆっくり立ち上がり、書類片手に報告内容を読み上げる。
「会計より報告します。当校1F東館予備室Aの改装予算の件ですが、市からの援助金が支給されたため、計30万程の余分が出ました。この資金は生徒会執行部の運営資金として、会計の方で管理中です」
抑揚のない、実に平淡な声で告げる牧原。
一通り言い終わると、手の中の書類の順列を入れ替えながら言葉を続ける。
「それと市から計3件の任務依頼があります。内わけは表2件、と裏、1件ですが、3件とも期限は来週までと通達が来ています」
そういって静かに席に着く。そして目線を俺に合わせ、会長としての宣言を行うように促してきた。
手元には依頼の内容がぎっしりと書かれた紙束が置かれている。それにちらりと目を通しながら、部員にいつもどおりの指示をだした。
「表に副会長、会計を回す。裏は俺と書記で行う。各次報告は明日、以上解散」
実にあっさりとまとめ、会議を終わらす。その声と同時に、牧原は仕事を、相崎は依頼処理の準備を、そして不知火は含み笑いを浮かべながらこちらを向いていた。
不知火の机にしわの寄った書類と仄かに水蒸気で曇ったノートが置いてある状況は、先ほどまで寝ていたことをはっきりと物語っていた。
不知火はたびたび会議中に寝る癖があるらしく、静かな時は大体が居眠りをしている。
それでも話は全て、無意識、に頭に入っているのだから別に注意などはする必要はない。
しかしそれはまぁどうでもいい。
今一番どうにかしないといけないことは、不知火からのうっとおしい視線を取り除くことだ。
視線はねちねちと俺の体に纏わりつき、張り付いてこびりつく。
胃から逆流した酸味のきいた液体が口内にゆっくりと広がった。
俺は、人の笑顔というものに狂いそうなぐらいの嫌悪の感情を覚える。
嘘で形作った、真っ当な幸福という感情を顔にはりつける簡単な行為。
人間が、一番つきやすい、嘘。
不知火はおそらくわざと、俺に対して気味の悪い笑顔を見せてくる。
頭皮を掻き毟りたい衝動が俺の体の中でぐるぐると回った。
これだからこいつ等は嫌いなんだ、ああああ。
最近はコントロールできていると思ったんだが、どうやらまだまだらしいな。
しかしああもう本当にうっとおしいなあああああもうあああ亜ああぁア死ねアァああ唖あぁあああああ、よし、大丈夫、まだ俺は大丈夫。
「首と胴体と分離したくなったか?黒凪くん」
「さて、どうだろうね」
それだけいうと、もう満足したのか視線を俺から外す。
その瞬間こびりついて取れなくなったものがあっけなく剥がれ落ちた音がした。
「それで、任務の振り分けの理由を話してくれないか」
一瞬まじめな顔をして、手元の書類をパラパラと振る。
俺はしばし思案したあと、不知火に事を伝えた。