プロローグ
「あんなブス見た事あるか?」
周りにいる取り巻き達に気持ちを悟られたくなくて、とっさに答えた。
「あんな奴。本当は花嫁になんか迎えたくないな」
違う、初めて会ったときからずっと好きだったんだ。
「あんなのが婚約者なんて、これから絶望的だよ」
違う、こんな事は言いたくないんだ。
内心でそう思っているのに、自分の口からは反対の言葉ばかりが飛び出した。
周りにいる奴等は、その俺の言葉に大げさに相槌を打った。
「そうですよ。王子の言うとおりだ。いくら公爵の娘といっても、あんなに醜くいなんて。未来の王妃に相応しくない」
そう言ったのは、女なら誰でも手を出すという侯爵家の嫡男だ。
「そうですわ~。私、あんな子と友達にもなりたくないもの。まるでブタのようですわ」
そう言ったのは、己こそ家畜のブタにそっくりな伯爵家の令嬢。
取り巻きたちは好き勝手に彼女の悪口を言っている。
何が可笑しいのか、何がそんなに面白いのか、彼らの顔は冷笑でゆがんで見えた。
そんな、彼らに嫌悪を感じているのに
俺も、それに同意するように同じような顔で笑い、頷いている。
彼らと同じように歪んだ冷笑を俺の顔はしていた。
違う、本当はそんな風に思っていない
彼女がいれば何もいらない。
彼女だけが僕の花嫁なんだ。
彼女はけして美しい絶世の美女ではないけれど。
俺にとっては世界で一番美しい娘だ。
でも
心の中で叫んでいるだけでは、もう遅かった。
この時、俺はまだ気付いていなかった。