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第12章 王都決戦Ⅴ

カラン


その音はやけに広場中に響き渡った。広場中を静寂にした。

体の何処も痛みを感じない。デュレックは恐る恐る目を開けた。顔にかざしていた腕を下げ、目の前に視線を向ける。

見覚えのある黒いドレス。その後ろ姿が見えた。ただ、髪はいつも綺麗にまとめられておらず、後ろに降ろされている。

その足下を見ると、ドレスの裾に隠れるようにして見覚えのある黒い仮面がまっ二つに割られて落ちていた。

顔を上げるとウィルの顔は驚愕に目を見開いていた。まるで、幽霊でも見ているかのように信じられないという顔であった。

目の前の女性はウィルの顔を見据えていた。


「お前は……」

「もう、やめなさい。ウィル。国王に解毒剤を飲ませました。計画は失敗です。あなたは完全に包囲されています。大人しく投降なさい」


聞き覚えのある女性にしては低い声。だが、いつもと妙に雰囲気が違った。

その声を合図に、バルコニーに新たな騎士がなだれ込み、敵の騎士達を取り囲んでいった。ジュエルも開放され、助けにきた騎士の後ろに隠れた。

敵から解放されたガースはウィルの後ろに着き、剣を突きつける。


ウィルはヴィヴィから目を離すと、その様子を目だけで冷静に見つめていた。だが、その顔は徐々に皮肉げな笑みとなり、突然、声を出して笑い出した。

デュレックや、その場にいた者は全員、呆然とその様子を見ていた。

ウィルは暫く狂ったように笑っていた。ついに片手で顔を覆い隠し、俯いて笑いをこらえている。しばらく、その状態を続いていたが、徐々に笑いを収め、顔を上げた。


「これは、これは。一本取られた。しかし、生きていたとはな……。あの、少年から話を聞いておかしいとは思っていたが。まさか、本当に魔女になっていたとはね……」


そう言って、ウィルはヴィヴィを見ると、その後ろにいるデュレックをちらりと見た。デュレックが眉を潜めると、ウィルは面白そうににやりと笑った。


「デュレック。その顔はまだ知らないな」

「……何の事だ?」

「まったく気付いていないんだな……。それとも、気付かれないように魔法でもかけたのか?アンジェリーナ?」

「は?」


ウィルは最後のほうはヴィヴィに向かって言った。デュレックは耳を疑った。今、ウィルはヴィヴィの事をアンジェリーナと呼ばなかったか。

デュレックはヴィヴィの背中を見つめた。顔は見えない。ヴィヴィは何もいわず、ウィルを見ていた。


「おや?どうしましたアンジェリーナ?もしかして、ばらされたくなかったのですか?しかし、本当に驚きですよ。10年前、北の森の魔女の話をして、貴方が行きたいというから連れていったのに。森で、わざと貴女と逸れて、あのまま死んだものと思ってましたよ」

「ど、どういう事だ!」


デュレックは思わず声を発していた。目の前のヴィヴィが、アンジェリーナだという事にも混乱していたが、10年前のという単語にデュレックは敏感に反応した。

ウィルはデュレックに目を向けた。


「言葉のとおりですよ。10年前。ちょうど、あなたが取り巻きにアンジェリーナの悪口を言いふらし始めた頃ですかね。北の森の魔女の話をしまして。生きているかもしれないという私の戯言に、この娘は行きたいと言い出したんですよ。

ちょうど、デュレックに嫌がらせの一つでもしようと考えていたので、アンジェリーナがいなくなれば相当なショックだろうと思いました。私が、森に連れて行って、わざと1人にしたんですよ。まあ、本当は後で助けに行く予定でしたが、まったく見つからなかったのでね。本当に迷って死んでしまったのだと思ってましたけど」

「ほ、本当なのか?」

「嘘だと思うなら、そこにいる本人に聞いてみるといい。なあ、アンジェリーナ」

「……」


ヴィヴィは何も答えなかった。デュレックの方を振り向く事もせずに、ただじっと、ウィルの方を見ていた。だが、それがウィルの言った事を肯定していた。

デュレックは呆然と目の前のヴィヴィの姿を見つめた。

今まで、何故気付かなかったのか。

たしかに、見た目も声も大分変わっていた。だが、あれだけ捜し求めていた女性を目の前にして気付かなかった。湖で襲われたあの時、一度だけヴィヴィに名を呼ばれた。たしか、ヴィヴィはデュレックを初め愛称で呼んでいたのだ。

唯一、アンジェリーナだけが使っていた愛称だ。

あの時、気付くべきだったのだ。

デュレックは拳を強く握りしめた。なんともいえない感情が胸の中で渦巻いた。

すると、ウィルがまたおかしそうに笑った。


「まったく、滑稽だなデュレック。散々探していた女が目の前にいるのに気付きもしなかったなんて。本当にお前は劣る男だ。王子としても、男としても。やはり、私が王位についたほうが国のためになると思うぞ?」

「……」


デュレックは何も言えず、唇を噛んで俯いた。言い返そうにも何もいえない。


「さあ、おろかな自分を認めろ。今からでも遅くはない。私に王位を譲ると宣言しろ」

「そんな事はありません」


ヴィヴィの言葉がウィルの言葉を遮った。

デュレックは顔を上げた。

ヴィヴィは真っ直ぐウィルを見ていた。


「デューは、・・・・・・デュレック殿下は立派な人です。確かに、王族としてまだ考えも浅く。短気で頭に血が上りやすく、挑発にはすぐに乗ってしまいます」


その通りであったが、なんとも肯定しがたい言い草であった。デュレックは少し口を引きつらせてヴィヴィを見た。ウィルも少し呆れた目をしている。

そんな事に気付きもせず、ヴィヴィは話を続けた。


「たしかに、次期王位継承者としてはまだ力不足な事は確かです。しかし、王として最も重要なものは持っています」

「……ほう、何を持っているというんだ」


ウィルは呆れた顔のままヴィヴィを見た。ヴィヴィはその目を見つめはっきりと言った。


「親愛の心です」

「親愛だと?」


ウィルは鼻で笑った。


「親愛だと?それが、何だというんだ」

「殿下は他者に対して、傷ついても自ら身をもって助けてられる人です。幼い者、身分が違う者にも偉ぶる事無く接します。助けられたら素直に感謝を示し、助けを請うときも真っ直ぐに言葉に出す。

殿下は人のために動けるお方です。国の頂点に立つものが、人のために動けるものでなくてどうします。そして、何より殿下は家族を愛されておられる。臣下を臣民を愛しておられる」


ヴィヴィはバルコニーに視線を巡らせ、そこにいる人々を見た。デュレックもそちらに目を向ける。

ガース、ジュエル、王妃や妹姫達、大臣達。

目が合うと皆、ヴィヴィの言葉を肯定するように頷いて見せた。

デュレックは心が震えた。情けない自分に、自信を失った自分に、皆の心がしみていく。ふいに、目に涙が溜まりそうになり、ギュッとこらえ拳を握る。

ヴィヴィは再び、ウィルに向かって言った。


「国とは人、人の事を考えない者が、思わない者が、愛せない者が、どうして国王になれましょう。ウィル。先ほど、殿下があなたは王にふさわしくないといいましたが、それは、この親愛の心がないからです。あなたは、デュレック殿下に劣る王になるでしょう」


ヴィヴィはウィルを見つめて断言した。デュレックはヴィヴィの姿を見た。後ろ姿からでもその毅然とした姿が分かった。

ウィルに視線を向ける。そこには何の感情も見えない顔があった。

ウィルはじっとヴィヴィの姿を見ていた。そして、バルコニーへと視線を向ける。最後に、デュレックに目を向けじっとその目を見つめた。

デュレックは視線を逸らさなかった。


「ウィル。お前よりも確かに俺は劣る。王に向いてないかもしれない。だけど、俺を王にと望む人たちが一人でもいるなら。俺は、彼らの望む王になる」


デュレックの言葉に迷いはなかった。その言葉は大きな声ではなかったが、しっかりと広場に響いていた。

ウィルは相変わらず何の感情も無い目でデュレックを見ていた。だが、目を閉じると小さく息を吐き出す。


「この国は腐っている。こんな王子を王にと望む。大臣も、民も。皆、腐っているな。実にくだらない」


そう、小さく呟くと。ウィルは後ろにいるガースを振り返った。


「動かないでください。ウィル・バンドット。国王陛下及び、デュレック殿下の暗殺未遂の容疑で拘束する」


ガースがウィルに剣を突きつける。ウィルは降参と言わんばかりに両手を胸の前で見せた。だが、その顔はとても降参と言っているような顔ではなく、どこか皮肉に笑った。


「逃げはしませんよ。けど、殿下への暴行未遂はここで大勢見ているので言い逃れできませんが、暗殺未遂は否定します」

「何を言っている。現行犯だ」

「私はただ、剣を大きく振るっただけで殺すつもりはなかったのですよ。殺意が無かったら、殺害ミスではない。それに、国王陛下暗殺に関しても否定します。証拠もないでしょう」

「往生際が悪い。証拠なら殿下が持っておられる。殿下」

「あ、ああ」


ガースに促され、デュレックは手に持っていた契約書を見た。だが、その書面を見てデュレックの目は見開かれた。


「何も・・・・・・、書かれてない」


さっきまで淡い光に包まれた契約書には、先ほど読んだ文字が何も書かれていなかった。ただの、真っ白な紙だ。不思議な事に光までもが消えている。

顔を上げると、ウィルが可笑しそうに笑っていた。ガースはギッと睨みつけ、ウィルにさらに剣を突きつけた。


「何かしたのか!」

「私は何もしていませんよ。それは初めから真っ白だったのでは?」


ウィルが此方に視線を向ける。デュレックは動揺した顔のまま、ウィルの目を見て再び、手元の契約書を見た。確かに、先ほどでここには文字が書かれていた。

すると、書面に影が差す。すぐ側でヴィヴィが呟いた。


「魔法で時間がたてば、文字が消えるように細工をしていたんです」


デュレックは顔を上げ、視線を向けた。ヴィヴィはすでに背を向け、ウィルに向かって言った。


「あの少年に細工させましたね」

「さあ、私には何のことやら分かりません」

「本物の契約書はどこです」

「何の契約書ですか?契約書なら、私の政務室にたくさんありますよ。まあ、全て政に関わるものですが」


ウィルはどこまでも否定し続けている。だが、その顔は勝利を確信したように笑っていた。


「さあ、ガース。私を拘束するのでしょう?まあ、罪状は情報詐称と、恐喝、殿下への暴行未遂ですかね」


そう言って、ウィルはガースを振り返って手を差し出した。

契約書という証拠が無い限り、ウィルの罪はデュレックが死んだと言う情報詐称、大臣、王族に対しての恐喝と、暴行未遂だ。

どれも軽い罪とはいえないが、それでも、王族の暗殺、殺害未遂よりも軽い罪になる。刑罰も一生牢獄暮らしだろう、領地の没収などもあるだろうが、地位はそのまま。

刑期中に更正を認められれば、数年で牢から出られる。

後々、捜査すれば証拠も見つかるだろうが、ウィルのことだ恐らくすでにウィルに繋がる証拠は全て消しているだろう。彼の性格を分かっているだけに、可能性の低さを実感する。

デュレックは歯噛みした。

このままでは、何の解決にもならない。

それに、ウィルはどこか自身ありげに楽しそうに鼻で笑った。まるで、今後、助かるのが分かっているようなそんな余裕のある顔だった。

デュレックはその顔に妙な不安を覚える。と、その時だった。


「証拠ならここにあるぞ~?」


突然、入り口から現れた女性の声に、その場にいた人々は一斉に視線を向けた。デュレックもそちらに目を向ける。

そこには、アンリに支えられた国王の姿があった。


「父上!?」

「「陛下!!」」


デュレックが叫ぶと周りにいた大臣や王妃、姫達もいっせいに口に出した。側にいたジュエルはなみだ目になって王に抱きついた。

国王は、ジュエルに優しげに頭を撫でている。

何日ぶりだろうか。王の姿はデュレックが見たときよりもさらにやせ細っていた。だが、その顔は疲労の色こそ見ども、目には生命力が宿っていた。


ふと、国王の隣に見知らぬ女性が立っていた。

デュレックは思わず、その女性に目が釘付けになった。

そこにいたのは、物語や絵画から出てきたのではないかと思うほどの美女だった。悠然と微笑み、手に何か紙を指に挟んでゆらゆらと揺らし、佇んでいた。


だが、目が釘付けになったのはその紙にではなく、美女自身であった。

その、細く長く白い肢体。すらりと細いのに、女性的な魅惑があふれ出ている。顔は拳ほどとも思えるほど小さい。アーモンド形の瞳は美しいエメラルド色。その下には優美に弓なりに微笑む赤い唇。目でもわかる絹のような金色の髪はさらさらと、顔を動きに合わせて流れていく。


デュレックはこんな時だというのに、ポカンと口をあけ暫く見入ってしまった。

不意に、前にいるヴィヴィがゴホンと咳払いをする。

デュレックはびくりと体を動かし気を慌てて居住まいを正した。心なしか、同じように回りにいた大臣や、騎士達もはっと我に帰ったように居住まいを直している。

デュレックはガースもさり気なく我に帰ったのを見逃さなかった。


ただ、1人。ウィルだけは未だその美女を見ていた。ただし、その目は美女の姿にではなく、その手に持っている紙に注がれ、驚愕に見開いていた。

その様子を見てか、美女がにっこりと楽しげに微笑んだ。


「さぞ、驚いているようじゃの~。この契約書に、見覚えがあるのかの~~?」


美女は妙に年寄り臭く、聞いたことのある間延びした話し方をした。最後のほうでちらりと、ウィルのことをうかがっている。ウィルはわなわなと悔しそうに口を震わせていた。


「ど、どうして、それが……」

「もちろん。おぬしの政務室で見つけたのじゃ~。巧妙に隠しておったようだが、残念じゃったの~。この契約書に刻まれた魔力があまりにも強すぎて、すぐに見つけられた。まるで、見つけてくれといわんばかりじゃったよ~?」

「そ、そんな……」


ウィルは唇を噛んで困惑したように美女を睨みつけた。美女はその様子を見て、はんと鼻を鳴らし優美に笑った。


「この契約書にはそなたの名と、アーゲリオンとデュレックの暗殺依頼が書いてあった。もう、言い逃れはできんの~。地位は剥奪され、一生監獄暮らしじゃ。最悪は死刑か?ま、とにもかくにも」


そう言って、美女はゆっくりとウィルに近づいていった。途中、ガースが止めようとするが、美女は気にせずウィルに顔を近づけ耳元に唇を寄せる。面白そうに笑っていた顔が瞬間、真剣なものへと変わった。そこで、小さな声で呟いた。


「あの子に何をそそのかされたのか知らんが、愚かじゃったのう。ウィル・バンドット。そなたは、ただ利用されただけじゃ。あの子はお前を助けたりはせん。諦めよ」


美女はウィルから唇を離し、しばらく哀れみの目で見つめていた。だが、すぐににっと笑い。ガースの方を振り向き、紙を差し出した。


「ほれ、騎士殿。これが本物の契約書じゃよ~」

「あ、ああ」


ガースは少し呆気にとられながら、その美女から少しためらうように契約書を受け取った。中を確認し、デュレックに目線で本物である事を伝える。

それに満足したように美女は微笑んだ。だが、ガースが契約書を受け取って中を確認しているのを見て、子供のように頬を膨らませた。


「何をぐずぐずしとる。文字など消えたりせんよ。早く、ウィルを連行せんのか~?」

「わ、わかっている」


ガースははっとして、ウィルに視線を向けた。


「ウィル・バンドット。国王陛下、及び、王子殿下の暗殺未遂で拘束する」

「……」


ウィルは何の抵抗も示さなかった。ただ、黙って拘束されていく自分の手を見つめている。その目には先ほどの自信はなく、ただただ絶望が浮かんでいた。

ガースが連行しようとした瞬間。一瞬、ウィルはデュレックを見た。そして、すぐに下のほうに視線をむけ倒れているバンドット卿へ視線を向ける。

少し、じっと見つめて何か小さく呟いた。その声は小さすぎて何を言っているのかデュレックの耳には着込めなかった。そして、ウィルはガースに連れられて歩き出した。



ウィルに加担した騎士達も連行され、バルコニーは静寂に包まれた。いつの間にか、広場に集まっていた国民達もしんと静まりかえっている。

と、国王はアンリに何事か呟くと、支えられたままバルコニーの先、広場に見えるあたりに向かって歩き出した。ジュエルが付いてこようとするも国王はやんわりと断った。


「父上」


横を通り過ぎようとした時にデュレックは声を掛ける。

アンリに支えられた国王は、その声にはこたえず、ただ、暖かな視線を送り、力強くも小さく頷いた。

デュレックは何も言えず、ただ見送る。アンリに支えられ、バルコニーの先に着くと、国王はアンリに何事か呟き、手を離した。一瞬、小さくよろめくもすぐに持ち直し、悠然と立った。


瞬間、国王のその姿は、やせて衰えているにも関わらず威厳に溢れ、力強いものに変わった。

突然、バルコニーに現れた国王の姿に、国民は一瞬誰だか分からないようだった。が、次第にそのオーラで国王であると分かったのか。『国王様』『陛下』と呟く声が広場中に広がった。


ざわざわと騒然となる広場を、国王はすっと両手を広げて見せる。すると、広場は先刻のようにしんと静まり返った。

静寂の中、国王は高らかに口を開いた。


「我が国の民達よ。我はこのとおり無事である。バゼック王国はこれからも安泰だ。国に、民に幸あれ!!」


先ほどまで病人だとは信じられないほど、その声は生命力が溢れ、朗々と広場中に響き渡った。

同時に、国民達が割れんばかりの歓声を上げる。

いつの間にか空は晴天へとかわり、国王をたたえるように太陽が輝いていた。


デュレックはその声を真摯な思いで聞いていた。

ふと、隣に誰かが並んだ。

目を向けると、そこにはヴィヴィの姿があった。

デュレックはゆっくりとヴィヴィの顔を見た。

髪は灰色だが美しかった。仮面の下にあった瞳は紫色だった。目じりはキリッとしており、美しさの中に何処か鋭さがある。だが、その顔の造作には昔の面影が確かに残っていた。


「アンジェリーナ」


デュレックは小さく呟いた。ヴィヴィはゆっくりとデュレックに向き、そして、視線を合わせた。その目は少し緊張と戸惑いで揺れていた。


「デュレック……、デュー」


低く美しい声。その声を聞いてデュレックは気がついたらその細い体を抱きしめていた。

初め、驚いて体を硬直させたヴィヴィも次第に力を抜いて、ゆっくりとデュレックの背に手を添えた。

広場中に響き渡る人々の歓声の中、二人はただじっと互いの存在を確かめるように抱き合っていた。

こうして、ひと夏の大事件は幕を閉じた。


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