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第11章 王都決戦Ⅳ

式典は粛々と進んでいた。

バルコニーに立ったバンドット卿とウィルに国民達の視線を全て受けていた。二人の顔は悲しみにつつまれていた。

バンドット卿は広場にあつまる国民全てに目を向けると、口を開いて静かに言った。


「バゼック王国の国民達よ。国王は危篤である、この状況で、唯一の国の宝。デュレック様がお亡くなりになった。国の悲劇である。これほどまでに、悲しきことがあろうか」


バンドット卿は言葉尻が涙で震えていた。顔を手で覆い、俯いて次の言葉を告げれないでいた。それを見て、国民達からもすすり泣く声が聞こえてくる。

しばらくして、バンドット卿は瞳を涙でぬらし顔を上げた。


「しかし、いつまでも嘆いているわけには行かぬ。なによりも、国王陛下は常日頃仰られていた。

『不幸を嘆きつづけるよりも、未来のために進もう』と。この国の未来のために前国王の孫であるウィル・バンドットが次期王位継承者となった。王子が亡くなったばかりだと言うのに、不謹慎だと思う者もいるだろう。私も心苦しい。だが、他国に、この国が磐石であると示すためにも行わなければならん。きっと、王子も納得してくださると私は思う。デュレック殿下の喪が明けぬ内ではあるが、今ここで、王位継承の儀式を行う」


すると、バンドット卿のもとに大臣の一人が盆に載せた紙と羽ペンを運んできた。バゼック王国にだけ生息する植物から作られた特別な用紙。国の重要な書類は全てこの用紙が使用されている。

バンドット卿の前にある式台の上に広げられた用紙には、デュレックの名が記されていた。

バンドットが式台の前から降り、そこにウィルが立った。

国民たちは新たな王位継承者の姿を見ようと、目を凝らして見上げていた。

ウィルが羽ペンを手に持ち、デュレックの名の下に名を書き入れようとした。





「王位継承の式典は中止だ!私は生きている!」


突然の広場とバルコニー中に声が響いた。大臣、王妃と姫達は一斉に声の聞こえた扉の方を振り返り、目を見開いた。バンドット卿とウィルも手を止めて振り返る。


「「デュレック!」」

「「お兄様!」」

「「殿下!!」」


王妃達や姫達が一声にデュレックの名を叫んだ。広場に集まった国民達はその声にどよめきだす。

デュレックはバルコニーにいる人の顔を順にみて足を前に踏み出す。その後ろに、ガースの姿もあった。王妃達の前を通り過ぎる時、デュレックは笑顔を向けた。


「母上達ご心配をおかけ致しました」

「・・・・・・よく戻って参りました」


第1王妃が気丈にデュレックの顔を見て笑顔を浮かべた。その目には明らかな安堵が現れていた。その後も、他の王妃達に声をかけ、そして第6妃の前に来る。


「母上。ジュエルも無事ですので安心してください。今、一緒に来た魔女と共に父上の治療をしています。時期に父上も回復します」

「そうなのですか。本当に、本当に、本当によかった」


そう言って、第6妃は泣き崩れた。デュレックは慌てて母を支える。美しい金髪はくすんでおり、目には大きな隈がある。まるで、少女のように泣き崩れていた。

デュレックに続いて、ジュエルまで城を出て行ったため他の王妃達より心配していたに違いない。

そっと、何回か背を撫でてからデュレックは横にいた第4妃に第6妃を預けて先を見た。


そこでは、呆然と此方をみるバンドット卿とウィルの姿があった。

デュレックが振り向くと、バンドット卿は、ハッと我に返ったような顔をした。


「殿下!生きておられたのですか!」


そう言って、歩いてくるデュレックの元にバンドット卿は駆け寄ってきた。その姿は弱弱しく、顔は疲労が見えた。

側にきたバンドット卿は信じられないというようにデュレックの顔を覗き込んだ。そして、弱弱しくデュレックの腕に触れてきた。


「生きて、生きていらっしゃる・・・・・・。良かった・・・・・・。良かった」


バンドット卿は涙を流しながらその場に崩れ落ちた。その手はずっとデュレックの腕を掴んでいる。しかし、デュレックはすがり付いてくる老人を悲しそうな瞳で見つめた。そして、静かに口を開いた。


「バンドット卿。この契約書に見覚えがあるだろう?」


そう言って、デュレックは涙で濡れるバンドット卿の顔の前に手に持っていた契約書を見せた。バンドット卿は突然のことに何を言われているのか、分かっていない様子を見せた。きょとんと目の前の書類を見ている。


「な、何でしょうかこの書類は?」


とぼけた様子のバンドット卿にデュレックは苦しそうに眉を顰めて叫んだ。


「とぼける気か!先ほど、お前の政務室からみつけた。ガース」

「はい」


後ろにいたガースはデュレックから契約書を受け取ると声高に読み上げた。


「我、バンドット卿はバゼック王国の国王、アーゲリオン・フォン・リゲ・シュミッツ・バゼックと、デュレック・フォン・オーデュアス・バゼックの殺害を貴殿に依頼する。この契約書を以って、この依頼を事実とみとめ、契約を誓う」


ガースの言葉にバルコニー中から息を呑む音が聞こえてきた。大臣たちもざわざわと互いに話し始めた。言葉が届いた国民達も騒ぎ始めている。

バンドット卿は涙の残る瞳を驚愕に見開いた。ガースの手から契約書をひったくり契約書を見る。その目が見る見るうちに見開き、顔は真っ青になっていった。


「これでもまだ、言い逃れをするつもりか」

「私はこのような契約書など知りません。殿下を殺す計画などありえません!!殿下、私は無実です!」

「まだ言うか。父上に薬を盛り、私を始末して王位を奪うつもりだったのだろう。そんなにウィルを王につけさせたかったのか。そんなに権力がほしかったのか!!」

「違います!!私はそんな事考えた事ありません!!信じてください!!」


バンドット卿が外聞も気にせずデュレックにしがみつき、泣いて訴えた。デュレックは眉を顰めた。

昔は大きな存在だった叔父の姿を見ていられなくなる。デュレックの腕にしがみつき泣く姿が、とても小さかった。

デュレックはギリっと奥歯を噛んだ。


「まだ、嘘をいうか」

「本当です!殿下、……私は何も知りません。信じてください、信じてください」


バンドット卿は本気で周りを気にせず泣いていた。その姿を見るうちに、デュレックは違和感を覚えた。何故か、バンドットが嘘を言っているように見えなかったのだ。

デュレックの目が僅かに迷いでゆれた。


「嘘ではありませんよ。デュレック」


突然、今まで黙って成り行きを見ていた王妃達の中から、第6妃の母の声が聞こえた。


「母上?」


デュレックは母のほうに視線を向ける。第6妃は第4妃に肩を支えられながら言った。


「バンドット卿は貴方が死んだと聞かされた時、誰よりもそれを信じてはいなかったわ。独自に捜査しようとしていたし。それに、ウィルの王位継承の話が出た時に唯一反対したのです。それに、貴方が亡くなったのは自分のせいだと言い募ってた。彼は貴族の位を剥奪してくれとまで言ったのですよ。でも、ウィルが違う形で責任をと言ってと留めたのです。ねえ、皆さん」


そう言って、周りの王妃達に目線を向ける。皆、そういえばというように頷いていた。


「たしかに。今回の王位継承を一番反対していたのはバンドット卿です」


第1妃までも頷いている。デュレックは母達を見て、そして、ふたたび視線をバンドット卿に移す。バンドット卿はとうとう床に額をつけて泣いていた。

デュレックは恐る恐る言った。


「本当か?」

「はい・・・・・・。私は・・・・・・、何も知りません」


そう言って、バゼックは涙でぬれた顔をデュレックに見せ誠実に言った。デュレックは困惑した。


「では、彼が犯人でないとすると……」


デュレックはもう1人の存在に思い至った。だが、時はすでに遅かった。


「そこまでだ、デュレック」

「兄上!!」

「ジュエル様!」


ガースの声に、デュレックとバンドット卿は同時に後ろを振り向いた。


「ウィル……」


バルコニーの城の出入り口に、騎士に剣を向けられたジュエルとその横でいつの間にか移動した薄笑いのウィルが立っていた。と、同時にバルコニー内に多くの騎士達が入ってくる。

姫達から悲鳴が上がった。

数名の護衛騎士達は、突然乱入した来た騎士達と応戦した。が、何人かが血を流して倒れた。

大臣や王妃、姫は剣を向けられ、残りの騎士達も応戦をやめる。

ジュエルを助けようと飛び出したガースも周りを囲まれて、身動きがとれなくなった。

その様子を目で追い、デュレックはウィルに叫んだ。


「ウィル!やはりお前が!!」

「そうです。私ですよ」


ウィルは鼻で笑いデュレックを見た。デュレックは奥歯を噛んだ。デュレックの悔しそうな顔を見て、ウィルは薄気味悪く笑った。


「殿下。驚いてますね。そりゃ、そうでしょう。私がこんなことするなんて思ってもいなかったんでしょう」

「ウィル。どうしてこんな事を。ジュエルを放せ、それに騎士達も下がらせろ」

「それは、まだできない相談です」


そう言って、ウィルは騎士達に目配せをした。バルコニーにいる騎士達が一斉に剣を大臣や姫達に近づける。姫達の悲鳴が聞こえた。

その様子に、それまで泣き崩れていたバンドット卿は顔を蒼白にして立ち上がり、息子に向かって叫んだ。


「何をしているんだ、ウィル! ジュエル様を放しなさい!これは王室への反逆だぞ!」


しかし、叫んでいる父親をまるで蔑む様にウィルは見た。そして、何かを投げつけた。

次の瞬間、バンドット卿が床に崩れ落ちる。

バルコニーに悲鳴が上がった。


「叔父上!?」


デュレックは横で倒れたバンドット卿を抱き起こす。その腹部に深々と細長い、あのフードの少年が使っていた針が刺さっていた。バンドット卿の顔が真っ青になっていく。


「父上。なんと情けない姿ですか。本当に、恥ずかしいですよ」


突き放すようなその声に、デュレックは顔を上げた。ウィルのその冷たい双方は今までに見た事もない目であった。デュレックはバンドット卿を床にゆっくりと寝かせ、立ち上がってウィルを睨み付けた。


「ウィル。どうしてだ。一体どうして」

「それは。国を思ってですよ」

「これの何処が国を思ってだ!」

「それは、殿下の、いやデュレックあなたのせいでしょう」

「お、俺?」


デュレックは困惑した。

ウィルは憎らしげにデュレックを睨んだ。


「……同じ、前国王の孫でありながら、お前は国王の息子。私は二代限りの公爵家の息子だ。俺は王族の血を引いているのに、けして王族には入れない。

だが、初めは良かった。弟のように懐いてくるお前がかわいかった。だから、このまま国を支えて行こう。この殿下の支えとなれるように頑張ろうと。

だが、成長するにつれ、ある時ふと思ったんだ。なぜ、俺より劣るこいつが王位継承者なんだと。こいつがこのまま国王になったら国はつぶれる。なのに、父上もお前を支えろという。

同じ王族の血を引いているはずなのに、同じ前国王の孫であるのに。なぜ、俺ではだめんだ。こいつより優秀な俺がなぜ国王になれない。なんで、お前はなんでも手に入れ、俺は我慢しなければならない!全てを奪ってやりたかった!お前の全てを!」


最後のほうは絶叫じみたものであった。一旦、ウィルは言葉を切ると、皮肉げな笑顔をデュレックに向け、剣を構えて近づいてきた。


「殿下!」

「動くな!ガース!」


動こうとしたガースにデュレックは叫んだ。デュレックの目にはジュエルを捕まえている騎士の手が首にナイフを近づけていた。ジュエルは涙をこらえるよう、悲鳴を一生懸命飲み込んでいた。

ガースの動きが止まるのを見て、薄く微笑んだウィルは話を続けた。


「だから、いろいろとやりました。手始めに、あなたの大切な者を奪ってやった」

「俺の大切な者?」


デュレックは身に覚えがなかった。眉をひそめて見つめていると、ウィルはまだ薄笑いを浮かべた。ゆっくりとした動作で目の前に来たウィルはデュレックの胸に剣先を当てた。


「ま~、気付いていないならいいですよ。デュレック。ここで、王位を私に譲ると宣言しろ」


デュレックは唾を飲み込み、ウィルを見つめた。

ウィルの目は本気だ。視線を回りに走らせる。王妃、姉妹達、大臣達の周りにいる騎士達が剣を近づけいつでも動けるような体性だ。デュレックの返事一つで全てが変わる。

デュレックはもう一度唾を飲み込み、ウィルを見た。


「……もし、俺が王位を譲るといったら?」

「殿下!?」

「黙っていろガース」


ガースにデュレックはウィルから目を逸らさずに制した。それを見て、さも面白そうにウィルは薄く笑った。


「まあ、そうですね。国王はともかく。王妃様や姫様方は丁重に扱いますよ。私の目の届く範囲に。ただし、お前は別の場所に移動してもらう。一生そこで暮らしていただきます。まあ、命まではとらないでおきましょう。大人しくしていればね」


要するに、遠方にデュレックを幽閉し、反旗を翻さないように家族を人質に取るというわけだ。不穏な動きを感じればいつでも殺せるとう圧力。デュレックは目を見つめ返した。


「じゃあ、俺が譲らないと言ったら?」

「おや?そんな選択肢があるとでも?」


ウィルが喉元に剣先を当てた、ちくりと喉に痛みを感じるとツーと何かが垂れ肌を伝う。デュレックはちらりと床に寝ているバンドット卿に目を向けた。

バンドット卿の体は小さく痙攣を起こしている、唇も真っ青だった。これはヴィヴィが毒に倒れていた時と同じ症状だ。はやくしなければ死んでしまう。

デュレックはウィルに視線を戻しその目を見つめた。

ウィルの目には何の感情も見られなかった。

デュレックはゆっくりと口を開いた。


「断る」

「なんだと?」

「聞こえなかったか。断ると言ったんだ」


デュレックの揺ぎ無い言葉に、ウィルは眉を顰めて不愉快そうな目を向けた。


「一応、理由を聞いておきましょうか」

「簡単だ。親を平気で殺そうとする者が、国を、民を幸せにできるとは俺は思えなかった。いや、任せられない。だから、断る」


静かに、だが、真剣な目でデュレックはウィルに言い放った。

ウィルは暫く冷たい目で見ていた。やがて、静かに口を開いた。


「ならば、仕方ありませんね……」


余りにも自然にそう言った瞬間、デュレックの喉元にあった剣を一旦引く。その後は、やけにゆっくりとした動作さにデュレックには見えた。

ウィルの手にある剣がデュレックに向かってくる。

デュレックは反応が少し遅れた。


ガースが叫んだのが聞こえた。

ジュエルがデュレックの名を呼んでいる。

王妃達や姫達の悲鳴が聞こえた。

バルコニーの下で国民達の動揺したような声が聞こえる。


デュレックは剣を構えようと腕を動かすが間に合いそうにない。

無意識に目を閉じようとした。と、閉じる視界の中に目の前に何かが飛びこんできたのが見えた。


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