賽の目と北の国
「お、六六のゾロ目だね」
俺は駒を持ち上げ言った。
同時に俺は笑いを堪えられず、食いしばった歯の隙間から漏れ出る笑い声を、押さえるのに必死だった。
憮然とした表情で相手は賽を握り、筒にそれを大きめの音を立てて投げ入れた。
音が大きく室内に響いた。
縁側から外を見た。
外はその季節とは外れた様に、日差しがきつい。
これなら積もっている雪も、すぐ解けるだろう。
雪に陽の光が反射して、思いのほか室内は明るい。
「で、どうしますかね」
賽に目を落としながら、俺は言った。
出目が悪い。
同じ賽を見てそして相手の顔色を眺めると、不機嫌という顔はこんな顔だろうと想像するそのままの顔だ。
勝負事に顔色をそのまま出すのは、致命的だ。
「・・・・」
俺の問いに答えず、口を曲げ憮然とした表情のままだ。
俺は苦笑した。
勝負事以外でも、人生にしてもそうだ。
たとえ自分が今際の際であっても、平然としておかなければならない。
それをこんな雙六如きで顔色を変えるとは。
少し呆れていた、というより見下してしまっている俺がいた。
それに俺は手加減なしに勝ってしまい、相手の機嫌を損ねる方を気にしなければならなかった。
大事な相手だ。
「一旦休憩しましょう、お疲れでしたら本来のお力も出ませんでしょう」
俺は相手を落ち着かせる意味も込め、休憩を申し入れた。
相手は、その音が聞こえるほど歯ぎしりの音を響かせ、そのまま手を叩き腰元を呼び。
「一献付き合え」
とぶっきらぼうに言った。
どこまでも、子供だ。
俺はこの者が大体どのような考えの持ち主か、これで確信した。
酒が進み少し酔いが回る一歩手前で、雙六が再開された。
陽は傾き、季節に合った冷気が広がり出した頃。
「貴殿のお申し出は承った、内々に事を進める手はずを整えよう」
思いもかけない時に急に口を開いた。
「よろしいので」
俺は驚きを押し殺し答えた。
「貴殿はそのために来たのであろう」
手に持った賽をもてあそびながら、続けて言った。
「こうやって、勝負ごとに勝ち目がある相手にこそ、手を貸さずにはおれまい、勝負は勝ち馬に乗る、それがたとえ小さい勝負と言えど。だ」
俺は内心冷や冷やしていた。
もしこの話が上手くいかなかったら主に大変なお叱りを受けてしまう。
眼の前の雙六の相手、藤原泰衡は言った。
「頼朝様に重々お伝え下され、こちらは万事任されよ、匿うことになる義経を討取って見せましょう、なあに容易い事」
そして、ニヤリと相好を崩し続けて。
「それに勝負は勝ち馬に乗らなければ」
俺は奥州藤原氏の館を後にした。
我が主、頼朝様の命により奥州に落ち延びるはずの義経の寝首を掻く算段をしに、この地に来た。
匿う藤原氏のその人となりも合わせて見た。
あの様子ではきっと旨い話に乗って、全てこちらの思うままだろう。
早速に頼朝様にお知らせしなければと、まだ雪深い奥州路を足早に鎌倉へ急いだ。
※
「泰衡様、よろしいので?」
奥州平泉の館で家来が《《かしづいて》》聞いた。
「構わん、ああやってわしが思慮の無い奴という事を植え付ければ、義経様をこれより北のアイヌの住む蝦夷ヶ島に落ち延びさせても何ら疑いもせぬ」
《《かしづいた》》ままの家来に続けて言った。
「一旦逃がしてもあの頼朝の事だ、今度はわしを討取りに来るはず。義経殿と共に蝦夷で落ち合い、噂で聞くもっと北にある国で再起をかけようぞ」
家来に言い聞かせるように言った。
「賽の眼は出た目だけを見てはならんぞ、勝負は最後まで分からんからな」
家来にそう言うと、やがて来るであろう義経を待ちわびるように街道を見降ろした。
そして振り返り、まだ雪深い蝦夷の方を見た。
その目はまだ遠く、果てしない北の彼方の国を見ていた。 了
拙作に目を通していただき誠にありがとうございます。ご感想、星、評価など賜われば励みになります。




