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お焚き上げ  作者: trigger
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蔦の葉

 自分が高校生の時の話。

 勝手な偏見だが、高校生は青春してなんぼだと思う。みんなでバカなことをしてみたり、学校行事を全力で楽しんだり、衝動的な恋愛だったり。自分はあまり青春というものを高校の時にしていなかったが、その中の少しの青春の思い出と終わってしまった恋愛の記憶をここに記そうと思う。


 自分は中高一貫の学校に六年間通っていた。あまり横にも縦にも繋がりは広くなかったが、一つ下の後輩とは仲がいい人が多かった。その人たちともたくさん遊んだり、生活を共にした。後輩たちの中で自分はよく「もるせん」と呼ばれていた。理由はよく覚えていないが、何かの切っ掛けでモルモットみたいだと言われていた気がする。自分が高二の時、後輩のうちの一人の女子が足首に不調があるといって4月ごろから学校に来ていなかった。その後輩のから、夏休みが始まる直前にこんなメッセージが来た。

「好きな人いますー?」

驚いたがほかに答えようがないのでいない、と返答した。その時、まさかの付き合ってくれ、というのか?という今思っても自意識過剰な予感がした。そのあとに後輩から、こんな返信が来た。

「今何を言いたいかわかります?」

期待と困惑でどう送ろうか迷ってしまった。そのあとも返答を急かされるもんだから思ったことを言ってしまおうと、

「こくはく?」と返してしまった。

「そうだったらどうします?」

「断るよ」

そう返した。自分は付き合うことのできるような人格者じゃないと思っていたからだ。しかし、自分の卑屈な思いを変えるには十分すぎるような文章が飛んできた。

「じゃあ、相手が癌だったら?」

驚いた。もし、自分が思う筋書きに従うならこの後輩は4月ごろから癌でおそらく入院していることになる。そのメッセージに悩みに悩んで一言、返した。

「受けるかな......」

「受ける理由は?」

「大変そうだから隣にいてあげたいから」

「いい人ですね」

そう見せているだけである。ただ他人がいるからそうしているだけだ、と打ち込もうかと思ったがそれより早く新たなメッセージが飛んできた。

「他言無用でお願いしますが、それって私のことなんですよ。」

あまりにもあっさりとした答え合わせで驚いてしまった。本当にそうだとは思っておらず、受け入れられなかった。ドラマのような状況が本当にあり得るとは思っていなかった。

彼女曰く、癌で4月ごろから学校を休んでいたらしい。そのあともいろんな質問や思いの丈を送ってもらった。彼女は治療する見込みがあるらしく、冬ごろには退院できたようだった。今の彼女の状況や自分に対する感情を読んでいて彼女が元気に生きていてほしいという思いを込めて、告白をOKした。


 そこから毎日のやり取りが始まった。朝起きたら、自分が彼女にメッセージを送る。相手が返信する。それだけだったが、元気にしてくれるだけで本当にうれしかった。いちど、会いに行きたい、と送ったが保護者のみ面会が可能だ、と言われてそりゃそうだ、と思ったり、電話したい、と言えば患者がほかにもいるので駄目だ、と言われ入院生活の窮屈さを感じさせられたりした。

専ら話すことは彼女の体調とかその時の天気とかだった。日によって体調が変化するらしく、特に問題ないと言う日もあれば、腹痛や頭痛がすると言う日もあった。圧倒的に体調不良の日が多かった。当たり前だ。たまに入院生活の文句を言う時があった。プライバシーが皆無だ、隣の患者が騒がしい、やりたいことやれなくてつらい等いろいろ話してくれた。自分は生まれてから一度も入院したことがなかったので実感はできなかったが、話しているだけで楽しかった。

 夏休みになった。高校二年なので、そろそろ一年半後の大学入試に向けての勉強をしつつ志望校を探すためにオープンキャンパスに行った。自分は全然やる気がなかったので近くにある国公立の二つに行くことにした。自分は理系コースに進んでいたので当時興味のあった理学部に話を聞きに行くことにした。その中で癌、特に小児がんについての研究を行う教授の話を聞き、ふと彼女の病名は何なのだろうかと考え、調べてみることにした。すると、希少癌であることが分かりとても驚いた。その帰りがけにまた会ったときに渡そうと思い百貨店のアクセサリー売り場で蝶を模した飾りのヘアゴムを購入した。夏休みは成績がものすごく悪かったため何とかしようと自分は塾に通い詰めていた。その中で、彼女と話すことはとても楽しかった。状況が全く違う二人だったが、こんな形のコミュニケーションでも楽しみにしていたのだと思う。夏休みは甲子園の話をしたり、一時帰宅したときの話をしたり、お互いに趣味の話をした。

 自分の高校は高校二年生の時に修学旅行に行くことになっている。自分は台湾に三泊四日で旅行をした。同時期に台風が来たため、九份や野柳地質公園などは行くことは出来なかったが、同級生とともに行った修学旅行は楽しかった。その中の夕食で男子10人近くでテーブルを囲み色んな話をした。下世話な話や友達の意外な一面、付き合っているものがどこまで行ったのか等男子高校生なら必ずするような話をしていた。自分は何かないかと問われた時に余りにも思い浮かばなかったもんだから、今付き合っているんだ、と話してしまった。その後の追及は逃れたが、割と多くの人に知られてしまった。その卓の中に中学生のころから仲が良かった人が一人いて、その人にだけ他言無用と口酸っぱく言ったうえで全容を教えることにした。

「どんな感じなん」と友達から送られてきたのは2日目の日を跨いだ後だった。

「今は会えてない」と返した。

「?」「この学校の子なんやろ?」と送ってきた。

意を決して送ってやった。

「彼女、入院中。小児がんで」

数分後して帰ってきた答えはこれだけだった。

「がち?」「がち」

ただそれだけだった。後は彼女の容態を聞かれてすぐに終わった。その会話の終わり際にこう送ってきた。

「お前最後の一葉じゃないやろな」

こう返すしかなかった。

「そうでないことを願うわ」

その後も彼女への毎日の連絡を欠かすことはなかった。自分が最後の一葉であったとたら、落ちたくない一心で毎日毎日彼女にメッセージを送り、会話をした。

 終わりは突然だった。退院を控えた翌二月、彼女からこんなメッセージが来た。

「別れませんか。私もそろそろ退院するし、一方的に迷惑かけるのもなんか違う気がして。」

薄々そうなるのではないかなと思っていた。それがわかっていて、自分も引き際を決めていたからこそ、すぐにこう返した。

「わかった、いいよ。」

そうすれば、向こうからはこう帰ってきた。

「今までありがとうございました」

その夜、やっぱり自分は頭ではわかっていても少し悲しかった。別れたことが悲しかったのだ。

 その一か月後の三月の学期末、修学旅行の時に同じ卓に座っていた男子から尋ねられた。

「最近どうなん」

「もう、別れたよ」

「なんやねん」

そう言えば彼は顔をそらした。向こうからすれば彼女がいるといい次聞いた時には分かれているのだから唯々面白くないやつだったかもしれない。

 それからはあの人とは学校で出会った。でも、お互い何の話もしなかった。結局買ったヘアゴムも渡せなかったまま自分は卒業した。不思議と何もなかった。復縁しようとも絶縁しようとも何一つ来なかったし送らなかった。周りからすれば何も変わっていない二人だけのひと時の恋愛だった。

 いま、自分は地元にある公立大学に進みあの人はまだ高校三年生として生活している。おそらく二度と交わることもないだろう。もう、それでいい。自分よりもっといい人がいるのだからその人と付き合って、ゆくゆくは結婚して、幸せな生活をしてほしい。ただそれだけである。

 『最後の一葉』というオー・ヘンリー著の作品がある。ある入院患者が私はこの一葉が落ちたら死ぬ、と言いそれを阻止する話である。作中のこの一葉は蔦の葉であり、蔦の花言葉は「永遠の愛」や「誠実」である。花は咲かなかったが、落ちなかっただけましであると思いたい。

ご無沙汰しております。triggerです。今回は記憶の片隅にあるいろんな話をさせていただきました。ただ、それだけです。

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