いざ東京へ!
あの出来事から4ヶ月後、今日は孤児院を退所して東京に行く日だ。あの出来事の後、すぐに東京に行くつもりだったが、職員さんに止められてすぐに東京へ向かうことができなかった。
行くなら孤児院を退所してから。お世話になった職員さんに何度も言われその時を待ったのだ。
待つ時間は長く苦しかったが、その時間のおかげで頭を冷やし、これからのことを翔と何度も話し合うことができた。
大きな荷物を抱え、2人は東京行きの新幹線へ乗り込む。
胸の奥に決意を抱きしめながら。
座席に腰を下ろすと、ひかりは荷物をまとめながら翔に話しかけた。
「そういえば翔。はるちゃんのためとはいえ……進路、本当にそれでよかったの?」
ずっと胸の片隅に引っかかっていたことだった。
本来、翔は東京で一般就職をするはずだった。
だが遥香の死の真相に近づくため、彼女が所属していた事務所のアイドルオーディションを受ける道を選んだ。
整った顔立ちの翔は驚くほどあっさりと合格し、4月からはグループを組んでアイドル活動をする。
進路が大きく変わったことに、ひかりはどうしても不安が残っていた。
「んー、就職なんていつでもできるし。この顔を生かさないのはもったいないって、ひかりも遥香も言ってくれてたし」
翔がニヤッと端正な顔を崩して笑う。
ひかりは、その冗談めいた笑顔の奥に隠された本音に気づいたが、あえて触れないことにした。
翔も聞いておきたいことがあるようでペットボトルの水を一口飲み、ひかりの方へ向きなおる。
「それより、ひかりこそいいのか? 女優じゃなくて、遥香のグループのオーディション受けるっていってたけど」
ひかりもまた、女優という夢を置き、真実を突き止めるために進路を変えたのだった。
ひかりは真剣な表情の翔の不安を拭うかのようにニカっと笑顔で向き合った。
「私はね、女優も目指すよ。今はアイドルからの女優って流れは基本だしね。真実も夢も手に入れるんだから」
ひかりの笑顔と夢を持ち続けてる様子に、翔はホッと胸を撫で下ろす。
「はぁ……ひかりはブレないな。そう言うところほんと遥香に似てる」
翔はひかりに遥香を重ねて目を細めた。血の繋がりなんて彼女たちにはない。でも、2人は確かに似ているのだ。
長い道中、2人がとりとめもないことを話していると、翔のスマホに事務所から連絡が入る。翔はメールに目を通すとスマホから目を離してひかりに話しかけた。
「俺の住むとこ、明日から入れるって連絡きた」
「えっ、どんなとこ?」
「事務所が持ってる一軒家。メンバーが共同で住むやつだって。なんか、先輩の男の子らも数人いるらしい」
ひかりは興味津々で身を乗り出す。
「一軒家!? 事務所、太っ腹じゃん!」
「まあ、家賃タダなのは正直ありがたい。共同生活はなれてるし」
翔はそう言いながらも、どこか不安を隠すように笑った。
「ひかりは? 今日は俺とホテルとして、明日からどこ泊まるんだっけ?」
「明日のオーディションに受かったら寮だよ! 入寮日早めにして欲しいって言ってあるの」
まるで当たり前に受かり、アイドルになれると思い込んでいるひかりは、キラキラした声を出す。
翔はそんな夢みがちな妹にすかさずツッコんだ。
「いや、『受かったら』だから。わかってる?」
「受かるから大丈夫!」
「もう少し慎重にいったら」
翔は受からない未来なんてあるはずないと思い込んでいるひかりを見て、本気で呆れたように額を押さえる。
「落ちたらどうするかくらいは考えてる?」
「え? 落ちるわけないもん」
一秒も迷わず言い切るひかり。確かに、孤児院ではひかりと遥香はずば抜けて容姿が整っていた。
いや、小中学を通り越して高校でも誰しも振り返る容姿。違う高校に通っていた翔の耳にも入るくらいには噂になるレベルの外見だったが、芸能界で通用するかどうかは正直翔にもわからない。
しかしひかりは入寮する気満々で、その絶対的自信に、翔は思わず苦笑するしかなかった。
「はぁ……もう好きにしてください」
「その言い方なに?! 私はね、翔。大人気アイドルと育ってきたの。アイドルとしてのあり方は見てきたつもりだから」
ひかりは軽く肩をぶつけて笑い、翔は小さくため息をついた。
新幹線はそれでも変わらず東京へ進み続ける。
2人のこれからの生活も、同じように大きく動き始めようとしていた。




