いつも通りの朝は終わり
新しい年の朝。
孤児院には雑煮の匂いが広がり、いつもとは違う浮かれた雰囲気に、子どもたちのはしゃぐ声が響く。
ひかりと翔は、眠たげに廊下を歩いていた。
「おせちに黒豆あったら全部ひかりにあげる」
「私は枝豆派なんだけど」
そんな、いつもの日常。
──テレビの前にたどり着くまでは。
リビングの空気は、不自然なほど静かだった。
職員たちが立ちすくみ、子どもたちは泣きそうな顔でテレビを見ている。
その画面いっぱいに、遥香の笑顔。
そして、重く響くアナウンサーの声。
『人気アイドル・結崎遥香さん(20)、深夜の事故により──』
ひかりの体から力が抜けた。
『──帰らぬ人となりました』
翔の顔から、血の気がすっと消えた。
「……は?」
呟きは、小さく、壊れた音だった。
「昨日……生放送でテレビ出てたよね。はるちゃん、普通に笑ってたのに」
理解しようとしているのに、言葉が頭を流れていく。
カタカタと震えるひかりの手、翔は画面をまばたきもせず見つめ続けた。
「は? なに? どういう事だよ……」
低く、押し殺した翔の声。
ひかりは震える手でスマホを取り出し、着信履歴から遥香の番号を押す。
いつもと同じ呼び出し音がプルプルと鳴り響く。
しかし、どれだけ鳴らしても繋がらない。
「……はるちゃん……お願い……出て……」
泣きそうなひかりの声に、翔が反応した。
「ひかり…」
「はるちゃんが……出ない! でないよ、ぁぁあぁあぁ!」
「ひかり!!」
泣き崩れるひかり、そして、翔の声が部屋に響いた。
翔はいつもの冷静さは完全になく、息が荒い。感情を抑えきれず、言葉が震えていた。
「……事故? ふざけんなよ。なにがあったんだよ!」
翔の拳は震え、血がにじむほど握りしめている。
その時、淡々とテレビのテロップが切り替わった。
『自殺の可能性も視野に──』
翔が息を呑んだ。
そして、まるで何かが切れたように言葉がボロボロこぼれ落ちる。
「バカなこと言うなよ……遥香が……遥香が……そんなわけないだろ……!!」
拳を握りしめたまま、頭を下げ、肩を震わせていた。
床に涙は落ちない。
けれど、泣いているように見えるほど、背中が震えていた。
「私が! 昨日電話掛ければよかった。はるちゃん! はるちゃんごめん!」
ひかりはパニックで息がうまく吸えなくなる。職員さんが走ってきてパニックになっているひかりと翔に声をかけ続けたがどうすることもできない。
太陽を失った孤児院に悲痛な声が響き渡りつづけた。




