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光は、約束を残して消えた──人気アイドルの死の真相を追う幼なじみの話  作者: みかん


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とりあえず進む

 遥香はさくらのせいで死んだわけじゃない。

 その可能性が確かに浮かび上がっていた。


 ――だからといって。


 ひかりの胸の奥に巣食う何かが消えることはなかった。


 指先が冷たい。

 呼吸が、浅い。


 頭では理解しようとしているのに、心が追いつかない。


 もし、さくらが追い詰めた犯人じゃないとしたら。

 遥香を死に追いやった何かはまだどこかにいる。


 そして。


 ――光の真実は危険。


 その言葉が、脳裏で何度も反芻される。



 自分の真実だと仮定しても、なになのかがわからない。真実が指すその先が見当もつかない。でも、自分のせいで遥香が亡くなっていたとしたら。



 体がブルリと震える。




「……ひかり」




 翔の声に、肩がわずかに跳ねる。


 彼はひかりの横顔を見つめていた。壊れそうな何かを必死に支えようとしている顔だった。





「もう、聞き出せることはなさそうだし。今は、ここまでにしよう」





 低く、静かな声。


 さくらが顔を上げる。ひかりも、ゆっくりと翔を見る。






「犯人がいるかどうかは、まだ分からない。でも……」






 翔は、鍵と手紙に視線を落とした。





「少なくとも、遥香は何かを伝えようとしていた。それだけは、はっきりした。この女にも復讐はしたいけど、末っ子にバラすという弱みはまだ握っておきたい」

 


「息子に、話さないでくれるの……?」



「今はな」




 冷たい翔の声に沈黙が響く。


 さくらは唇を噛みしめ、何も言わなかった。


 ひかりは、拳を強く握る。逃げ場がなくなったのは、さくらだけじゃない。


 自分も、もう後戻りできない場所に立っている。


 遥香が残したのは真実への入り口。


 そのピースを手に入れた。その事実が大きかった。




帰り道、夜風がやけに冷たかった。


 ひかりは無言で歩き、翔もそれ以上何も言わなかった。



 さくらの言葉、手紙、鍵。

 すべてが整理されないまま、頭の中で絡まり合っている。


 ――遥香は、誰かに殺されたのか。本当に、事故でも自殺でもなく殺人だったのか。



 考えようとすればするほど、思考は濁っていった。


 そのときだった。


 翔のポケットで、スマホが震えた。


 ひかりもスマホを覗き込む。画面に表示された名前を見て、翔はわずかに眉をひそめた。


 黒田。


 こんな時間に、嫌な予感しかしない。


「……出る」


 ひかりに一言だけ告げ、翔は少し離れて通話ボタンを押した。






『翔! 今どこだ?! ひかりにもつながらないしお前らのスマホどーなってる?!』





 開口一番、やけに弾んだ声と文句が耳に飛び込んでくる。




「帰りです。何ですか? 」





『決まったぞ〜〜!』





 その一言で、翔は足を止めた。






「何が……」




『デビュー前の一発目ライブ! 事務所初のゲリラだよ!』






 心臓が、どくりと大きく鳴る。




『場所はー! 大阪やで!』




 短く、はっきりとした言葉。





『今週末。場所はまだ伏せるけどな。客は少数、けど業界は見る。逃げ場なし一発勝負になるぞ!』





 翔は思わず、夜空を見上げた。

 さっきまで頭を占めていた重苦しさとはまるで違う種類の緊張が胸に広がっていく。






「……ほんとに?」





『ほんまやで〜! ほんま! みんなでぶちかましてこい! ここ越えたら、一気に流れ変わるぞ。覚悟しとけやでー!』





 抑揚のおかしい関西弁で話す黒田は終始陽気だった。通話が切れたあとも、圧に当てられて翔はしばらく動けない。


 現実感が、遅れて押し寄せてくる。


 大阪。

 ゲリラライブ。

 デビュー前、最初の勝負。



 ゆっくりと振り返ると、ひかりが少し不安そうな顔で立っていた。





「……誰?」


「黒田さん」


「……なんか、嫌な顔してるよね?」





 翔は一瞬迷ってから、正直に言った。





「嫌じゃない。どっちかっていうと緊張」





 ひかりは主語のない話に首を傾げる。




「決まった」


「……何が?」





 翔は、息を整えてから告げた。





「大阪で、ゲリラライブ」





 一拍。


 ひかりの目が、はっきりと見開かれた。





「……大阪?」


「今週末」




 数秒の沈黙のあと、ひかりは小さく息を吐いた。





「……タイミング、最悪やね」


「せやな」


 いろいろ重なった状態で、どうすればいいかもわからず、つい口から出たヘタクソな関西弁。笑い合う余裕はない。



 でも、不思議と拒否の言葉も出てこなかった。


 頭はぐちゃぐちゃのままなのに。

 心のどこかが、前に引っ張られていく。





「……とりあえず、切り替えてやるしかないやな」


 ひかりが言う。


「まかしとけや」


 翔は即答だった。


 大阪の街。

 ゲリラライブ。

 真実も、過去も、まだ何ひとつ片付いていない。


 それでも――。


 立ち止まるわけにはいかなかった。


 ひかりは、胸元にそっと手を当てる。

 


(大丈夫、まだまだ心は生きてる。やれる。)




 心は壊れてはない。けれど、あの重みだけは確かに残っていた。


 今はまだ振り返らない。


 大阪で歌う。

 二人で、前に進く。


 真実は――

 追いついてくるものだと、信じるしかなかった。




霊感がある友達がなぜか我が家に遊びに来てくれない。

そんな悩みを抱えております。

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