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光は、約束を残して消えた──人気アイドルの死の真相を追う幼なじみの話  作者: みかん


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真実の真実

 さくらは、震える息を吐いた。



 頭の中が真っ白で、いつものように言葉が浮かばない。


 他人の弱みを握り、優位に立つことで生きてきた。


 その自分が、今、追い詰められている。その事実を、さくらはまだうまく理解できずにいた。





「……違うの。私じゃない」





 ようやく絞り出した声は、か細く、必死さだけが滲んでいる。





「遥香に会いに行ったのは、一回だけよ。それ以降は……定期的に振り込まれてたから。会う必要なんてなかった。私が、わざわざ用もないのに会いに行くと思う?」





 言い訳なのか、事実の羅列なのか。ひかりには判断がつかなかった。






「増額を頼んだこともない。脅したことも……」






 潤んだ目で見つめられ、ひかりは背筋に冷たいものを感じる。





「信じて」





 その一言が、決定的だった。


 ひかりは嫌悪感がはっきりと胸に広がった。




 翔は唇を噛みしめ、さくらを睨みつける。


 信じられるはずがない。

 これまでの言動すべてが、遥香を金づるとして扱っていた女のそれだった。


 拳を握りしめ、衝動を必死に抑える。


 そのとき。





「……ねえ」







 ひかりが静かに口を開いた。感情の温度が感じられない声。






「今までのあんたの態度見てて、信じられると思う?」





 ひかりは一歩、また一歩とさくらに近づく。

 冷たく逃げ場を与えない視線。翔はごくりと息を飲んだ。






「遥香が、あんた以外に死ぬ理由あった?」





 言葉がさくらに鋭く突き刺さる。






「私の大切な家族だったのに。罪を認めてくれたら、まだやりようはあった。でも、もう無理」






 空気が凍りつく。






「こんなの、仕返しのうちにも入らないけど」







 ひかりは淡々と言った。






「末っ子ちゃんに全部話すね。……あ、学校にも言おうか」





「……は?」






 さくらが素の声を漏らす。

 ひかりは気にも留めず、にこりと微笑んだ。






「あなたは、追い詰められて……遥香みたいになるかな?」


 




 怒鳴らない。責め立てもしない。ただ、事実を並べる。






「それとも」





 小さく首を傾げる。





「何も知らない、罪のない末っ子ちゃんが追い詰められるのかな」





 さくらの顔から血の気が引いた。






「お母さんが何をしてお金を作ってたか末っ子ちゃんは知ってる? 亡くなった姉がいたこと、そのお金で学費を払ってたことしってる? 本人だけじゃなくて友達や学校が知ったら、どうなるんだろうね」




「……やめて」





 かすれた声が漏れる。


 それでも、ひかりは止まらない。





「遥香もね、きっと同じだった」





 微笑む。その顔は翔の知るひかりとは違っていた。





「仕方ないよね」






 さくらは、完全に言葉を失った。





 その姿を見て翔は初めて理解した。

 ――ひかりが、ここまで自分を追い込んでいたということを。






 遥香のために。誰にも頼らず、誰にも弱音を吐かず、真実に辿り着くまでに心が限界を迎えていたひかり。翔にはひかりの心が叫んでいるように見える。


 あれほど思いやりに満ちていたひかりが、ここまで冷酷になれるほど、あの日の出来事は彼女の中で深く沈んでいた。






「ちがう……!」





 さくらが、崩れ落ちるようにしゃがみ込む。





「私じゃない……本当に……!」




 さくらは余裕も計算もすべて剥がれ落ちていた。よわよわしくひかりに縋り、泣きながら言葉を発する。





「信じて……お願い……!」





 その瞬間。





「……さっき」




 翔が口を開く。とっさに二人の視線が集まった。





「さっき、遥香が殺されたって言ったよな」





 さくらの目が見開かれた。





「遥香は……自殺じゃないのか?」





 張り詰めた空気。

 ひかりははっとする。さくらを追い詰めることに集中しすぎて、言葉の違和感を聞き逃していた。





「……っ」





 さくらは慌ててバッグを開ける。

 震える手で取り出したのは、封筒と小さな鍵。


 番号付きのストラップがついた旅館の部屋鍵だった。





「遥香から……預かったの」





 さくらは封筒を翔の手に押し付ける。





「もし、私に何かあって、翔が現れたら渡してほしいって……」





 翔は息を呑んだ。封筒には、見慣れた字で自分の名前が書かれている。




「自殺する人が、こんなもの残す? 遺書なら直接送るでしょう?」





 さくらの話に初めて理屈が宿る。





「私に渡したってことは、身近な人に危険が及ぶ可能性を考えたからかなっておもったのよ。だから、犯人がいると思った」




 ひかりは唇を噛む。言いのがれにも聞こえる話に苛立ちが増す。




「その手紙に、あなたのせいだって書いてあるかもしれないよね」



「違う!」






 さくらは首を振った。





「中身は見たわ。見られるって、遥香は分かってたみたい。内容は大した事なかったの。でも……」





 さくらは、翔に読むように促した。ひかりもその紙を覗き込む。






しょうへ



光はすぐ近くにあるよ

のんびりやさんの翔は

真の力がまだ身を結んでないだけ

実がなるのはもうすぐ

危ないことはしないように

険悪にならないようにね





 意味が分かるようでよくわからない手紙。翔もよくわからないようで首を傾げた。






「な、なにこれ?」






 ひかりがそういうと、さくらは手紙の端を指でなぞる。





「縦読みよ」







 (光の真実は危険)




 ひかりは背筋がぞくりと震える。光の真実、それはひかりの真実、自分の真実と捉えることができたからだ。


 いきなり自分が現れて動揺が隠せないひかり。



 震える手で文字の羅列を何度も読む。読めば読むほど自分ではないかと頭が混乱した。




「犯人が、翔やあなたに接触して欲しくないから、近しい人に危害が及んだら嫌だからほぼ赤の他人の私にこれを預けた。そう思ったのよ。犯人がいると思ったから殺人だと口にしたの」





 その場が、静まり返る。





「私は……最低な母親よ」





 さくらは俯いた。





「でも……遥香を殺してはいない。死ぬほど追い詰めたりしていないわ!」







 沈黙の中で、ひかりの手がわずかに震えた。


 怒りか。

 混乱か。

 それとも、初めて触れる別の真実か。


 遥香は、さくらのせいで死んだわけじゃない。


 その可能性が確かにここに浮かび上がっていた。

更新が滞ってしまい申し訳ありません。

旅行で食べた牡蠣にあたり悶え苦しんでおりました。

やっと回復しましたのでご安心くだされ。

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