陰謀
さくらがひかりのテーブルに着く15分前。さくらが裏でボーイに指示を出していると最近、よく顔を見る客が入店した。
仕事の匂いがする男と、その隣にいつもいる若い女。2人は仕事で店を使っているようで様々な顧客をつれてきている。
店にプラスの効果をもたらしている最近の常連。金の使い方も、店での振る舞いも、慣れていてさくらは気に入っていた。
(……上客ね)
だから、挨拶に行った。最初はそれだけのことだった。
「初めまして。いつもご贔屓にしていただきありがとうございます。この店のママを務めさせていただいております、さくらと申します。よろしくお願いします」
軽く頭を下げると、男は番組のプロデューサー、隣のもう一人は芸能事務所のマネージャーだと名乗った。
なるほどとさくらは納得する。芸能界の男性は何故か女好きが多い。プロデューサーの一言で物事が決まることも多いので女性をあてがい楽しませて交渉するのだろう。
さくらが見るに男たちは若い女の子に囲まれて上機嫌。その中で、マネージャーの女、ひかり、だったかは、少し酔っているように見えた。
頬が赤く、言葉も軽い。
「お仕事、大変そうですね」
何気なく振った話題に、少し頬が上気してるひかりはすぐに反応した。
「もうすぐデビューなんです。うちの子たち」
楽しそうに笑う。隠す気もない、素直な声。
さくらは関心のなさは綺麗に隠し、にこやかに微笑む。
「LUCENTっていうグループで。ほんと、みんな頑張ってて」
ああ、なるほど。仕事に打ち込むのが楽しい時期なのか。新卒だなと決めつけるさくら。
キラキラ眩しく話すひかりに嫌悪感が溢れるがそこは顔に出さず、さくらは黙って相槌を打つ。聞き役に回るのは、長年の癖だった。
「中でも翔がすごくて。孤児院出身なんですけど、努力家で」
「孤児院?」
さくらは思わず、声が漏れる。翔、孤児院。そのワードが引っかかった。
ひかりは気にした様子もなく、うんうんと頷く。
「親も知らないみたいで。でも、それでも前向きで。私、マネージャーとして支えたいんです」
孤児院出身。親を知らない。翔。自分の記憶と重なる部分にさくらは少し動揺する。
顔には出さないが。
「……どこの孤児院かしら?」
問いかけは、あくまで自然に、酒の席の雑談の一つとして軽く放った。
ひかりは少し考えてから、あっさり答えた。
「地方なんですけど、あそこです。結構古いところで」
場所を聞いて間違いないと確信した。さくらは記憶の中の風景と、ぴたりと重なる。
「写真、ありますよ」
ひかりはそう言って、迷いなくスマホを取り出した。
無防備なほど、素直に。
画面に映った少年の顔を見た瞬間、さくらの喉が、ひくりと鳴った。
(……あの子)
目元。
輪郭。
一度しか会ったことはないけれど、成長しただけで確かにあの日の面影がある。
自分が産んだ子だと、はっきりわかった。
「ファンも多くて。デビューしたら、今年いちばんのアイドルになるかもって言われてて」
ひかりは嬉しそうに話す。純粋に本当に、誇らしげに話す姿がさくらには滑稽に映った。
「今度、中高一貫校の近くの緑地公園で撮影もあるんですよ」
さくらは、微笑んだ。
完璧な、店のママの笑顔で。
「……それは、楽しみですね」
胸の奥で、ゆっくりと感情が形を持つ。
探す必要なんてなかった。この店を支えてくれるわたしのもう1人の子供。まさか、また大金を生み出してくれそうだなんて。
さくらは、誰にも気づかれないように、ほんの少しだけ口角を上げた。
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作者泣いて喜びます。




