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光は、約束を残して消えた──人気アイドルの死の真相を追う幼なじみの話  作者: みかん


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14/23

総司とお出かけ

 総司と舞台の約束をした一週間後。ちょうどオフだった翔と総司は予定を合わせて舞台を観に行くことになった。



 ひかりには総司と二人で出かけると伝えてある。



 ひかりが一緒に行こうかな、なんて言い出して翔は焦ったが、ゆっくり休んだ方がいいとなだめて家にいるように促した。




 会場について2人は席についた。席は関係者席、二階の端の方。


 距離はあるが、舞台全体を見渡せる。演技や舞台構成に興味がある人は後ろの方がいいんだと総司は教えてくれた。



 舞台が始まると音楽が流れ、物語が始まる。演技はみんな上手く、役者たちの気迫が伝わってくる。




(興味なかったけど…すごいな)





 美空を探りにきただけだったが、舞台の演出、演技、音楽、全てに魅せられる翔。翔が席に座りながら見入っていると、舞台は暗転する。



 そして1人の女性にスポットライトが当たった。


 


 光の中で際立つその姿は、昨日テレビ局で見た女性と同一人物だと瞬時にわかる。




『わたしは…囚われの人形で終わるつもりはない』




 戦国という時代に振り回される姫の役。言葉、動き、視線、全てが美しく目が離せない。





 そんな中、ドン! と前の人がペットボトルを落とした。



 翔はハッと我に帰る。頭を横に振ると夢から覚めたような気持ちになった。



(やばっ。引き込まれてた)



 翔は我に帰る。総司は舞台に夢中で、端席の翔の様子に気づくことなく目を輝かせている。



 舞台は2部制。休憩時間になり、翔が口を開いた。





「総司、あの姫役の子、昨日のチラシに載ってた人だよな?」



「お、気づいたか。九条美空、若手の実力派だ」




 総司は舞台の感動が続いているようで、語り合いたいと身を乗り出した。


 舞台の雰囲気、演出、照明、演技の細かい工夫まで翔に語りかけるその姿はいきいきとしていて、この空間自体を好きな気持ちが溢れている。


 翔は半分耳を傾け、半分は美空のことを考えていた。




ーーー

ーー



 舞台終了後、総司は特別に楽屋に翔を案内してくれた。



 楽屋を開けるとそこには今日出演していた俳優たちが休憩をしていた。



 俳優たちは総司の姿を見つけると集まり、挨拶を交わす。あらかた挨拶が終わった後、長身でサッパリとした顔立ちの美男子が、総司の肩に手を回して嬉しそうに微笑んだ。



「そうちゃん久しぶり! 俺の演技見てくれた?



「楓ー! 一年前の舞台以来だな! 殺陣がうまくて震えたわ」




 総司はメンバーにも見せたことのないような表情で和やかに話す。


 少し会話をした後、楓が翔に目をやると総司がそうだったと口を開いた。



「翔、こいつは筒井楓。俺の親友でな! 楓、翔は一緒にデビューするメンバーだ」


「筒井さんこんにちは。田原本翔です。演技すごくよかったです」




 翔はぺこりと頭を下げる。楓はニコリと微笑んでありがとうと返事をした。



 その姿は演技をしている時の気迫は全くなく、人の良さだけが滲み出していた。



 その後、三人で今日の舞台の講評を話し合っていると、楽屋のドアがノックもなく開いた。




「お疲れさまです」



 控えめだが芯のある声。

 翔は反射的にそちらを見た。



 九条美空だった。



 舞台衣装から私服に着替えた姿でも、空気が変わるのがわかる。派手ではないのに、自然と視線を引き寄せる存在感。だが、翔と目が合った瞬間、美空はわずかに目を見開き、すぐに視線を逸らした。




(……やっぱり)




 その反応を、翔は見逃さなかった。




「美空ちゃん! さっきの芝居、鳥肌立ったよ!」




 楓が気さくに声をかけると、美空は少しだけ笑って会釈する。



「ありがとうございます。楓さんの殺陣も、本当に迫力があって……」




 そこで翔は自然に話に入る。反応を見るためだ。



「九条さん、姫の役とてもすごかったです」




「……あ、ありがとうございます」



 名前を呼ばれた瞬間、美空の声が一拍遅れたのを、翔は感じ取る。


 ここに思惑はあれど、和やかな空気の中会話は弾む。そして、楓が総司の肩を軽く叩いた。


「そうちゃんさ、やっぱ舞台戻ってこいよ。正直、今すぐでも通用するしさ」


「はは……」


 総司は少し照れたように笑い、そして顔を曇らせた。


「今はアイドルをちゃんとやりたいんだ。中途半端に戻るのは嫌だしな」


「相変わらず真面目だな」


「そのうち、な。そのうち」


 そう言って笑う総司の目は、本気だった。

 舞台を捨てたわけじゃない。ただ、今は選んだ場所が違うだけ。


 そのやり取りを、美空は少し距離を取って聞いていた。視線は翔を避けるように、床や壁を漂っている。


 やがて、美空が小さく息を吐いた。


「……すみません、少しトイレに」


 そう言って、楽屋を出ていく。


 翔の心臓が強く打った。


(今だ)



「俺も、ちょっと外の空気吸ってきます」




 そう言って、翔は自然を装い席を立つ。

 総司は楓との話に夢中で、翔の行動に気づかなかった。



 廊下に出ると、少し先を歩く美空の背中が見えた。



 早足になると警戒される。翔は距離を保ったまま、歩調を合わせる。


 トイレの前で、美空が立ち止まった。


 翔は意を決して声をかける。


「九条さん」


 びくり、と肩が揺れる。


 美空はゆっくり振り返り、困ったように眉を下げた。


「……やっぱり、追ってきましたね」


「昨日、テレビ局で俺を見て遥香って言いましたよね」


 翔は単刀直入だった。


 美空は一瞬、何かを言いかけて口を閉じる。そして視線を逸らし、唇を噛んだ。


「……人違いです」


「嘘だ」


 翔の声は低く、静かだった。


「俺を見て、驚いた。あの時も、今も」


 美空は何も言わない。ただ、その沈黙が答えだった。


「……ここでは話せません」


 そう言って、美空は一歩下がる。


「今は、あなたも私も目立つ立場だから」


 翔は一瞬迷い、そして頷いた。


「じゃあ聞かせてください。遥香を知ってるのか。俺にも関係があることなのか」


 美空の表情が、ほんの一瞬だけ歪んだ。


「……それは」


 遠くから誰かの声が聞こえる。

 時間がない。


「また連絡します」


 美空はそれだけ言うと、足早にその場を離れた。


 廊下に一人残された翔は、拳を握りしめる。


(やっぱりだ……)


 遥香。

 そして、自分。


(この件は、ひかりにはまだ話せない)


 翔は胸の奥に沈む不安を押し込み、楽屋へ戻るため踵を返した。

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