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ダンスレッスンの合間。
ひかりは黒田に呼ばれ、スタジオを出ていた。
鏡張りのスタジオにはデビュー曲が流れ、メンバーはそれぞれ水を飲んだり、ストレッチをしたりしている。
翔は、端に置かれたバッグの上に乗っている一枚のチラシに目を留めた。
舞台のポスター。
昨夜、総司が「興味あるなら」と言って、メンバーにも配っていたものだ。
そこに並ぶ出演者の写真と、昨日テレビ局で見た顔がやはり重なる。
(やっぱり、あの女だ)
確かめたい。その思いに駆られ、翔は自然を装い総司の隣に立って声をかけた。
「なあ、総司」
「ん?」
総司はタオルで首元を拭きながら、軽く振り向く。
まっすぐで、芯の強さが滲む表情はいつも通りだった。
「その舞台のチラシ」
「あー、これか?」
総司はチラシを手に取り、ひょいと翔の前にかざす。
「翔も興味あるのか?」
ペットボトルで水を飲みながら、チラシを翔に渡す。
「これから上を目指すなら、舞台も見た方がいいのかなって」
翔は、思っていないことでも本当のことのように言うのが得意だった。
その言葉に騙された総司の目がぱっと輝く。
「翔! 俺もその気持ち、めっちゃわかる! この舞台、若手でも実力あるやつ多いし、かなりおすすめなんだ」
思った以上の食いつきに、翔は内心わずかに驚く。
「そうなんだ。キャストに知り合いはいる?」
声のトーンを変えず、翔は総司に話を振る。
「男はだいたい顔見知りだな。俺、昔は舞台中心で活動してたから」
総司は肩をすくめて笑った。
「女優で知り合いはいない?」
「女優は……正直、あんまり得意じゃなくてさ。名前だけ聞いたことあるのが、この子かな」
総司は一瞬チラシに目を落とし、写真を指差す。
「九条美空」
その名前を聞いた瞬間、翔の胸がわずかにざわついた。指の先にいるのは、昨日立ち去ったあの女性だ。
「若手の実力派って噂だ。役に入り込みすぎるタイプらしいけど」
まぁ、役者はだいたいそうだけど、なんて言いながら、冗談めかして総司は続ける。
「実力は、正直テレビに出てる女優より数倍上だと思う。勉強にはなるな」
そこから総司は、舞台女優とテレビ女優の違いを熱く語り出した。
翔は相槌を打ちながら聞いていたが、頭の中は別のことでいっぱいだった。
(実力派女優、か……)
真剣に聞いているように見せている翔に気づかず、総司はさらに饒舌になる。
舞台装置、演出、空気感、話は止まらない。
圧に押されていた翔は、話題を変えるために口を開いた。
「その舞台に出てる人って、話せたりするのかな。いろいろ質問したい」
あわよくば会えるよう、繋いでくれたら。
そんな打算を隠して、翔は総司を見る。
「会ってみたいのか?」
「……ちょっとだけどな」
「ふーん」
総司は少し考えるように首を傾げ、それからあっさり言った。
「じゃあさ、一緒に観に行く? 会って話せるかはわからないけど」
「え?」
「チケット二枚あるんだよ。翔、暇だろ?」
総司はバッグを漁り、招待チケットを取り出す。
「……いいのか?」
「いいよいいよ。一枚余ってたし」
そう言って笑う総司は、好きなものを共有できるのが純粋に嬉しそうだった。
目尻が下がり、子どもみたいな顔になる。
翔は小さく頷く。
「行く」
「決まりだな!」
満足そうにチラシをバッグへ戻す総司。その様子に、翔はほんの少し胸が痛んだ。
(利用してるな、俺)
それでも、早くあの女に辿り着けそうなことに、安堵している自分もいる。
昨日、あの女性は。
ひかりじゃない。
翔を見て、遥香と言った。
その理由が、もしあのことに繋がっているなら。
(今回は、俺一人で動く)
翔はそう、心の中で静かに決めていた。




