翔の秘密
夜。
家の灯りがひとつずつ消えていく中、翔は自分の部屋で一人、ベッドに腰掛けていた。
さっきまで、ひかりと話していた。
笠縫秀喜のこと。
スタジオですれ違った、cabbageのメンバー。
そして廊下で出会ったあの、女のこと。
ひかりは感情のままに言葉を並べていたが、最後には少し落ち着いて話し合うことができた。
「今は動かない。仕事で必要とされて、時が来たらちゃんと探ろう」
そう言うと、ひかりは不満そうにしながらも頷いた。
それでいい。前に出るのは、ひかりじゃなくていい。
翔は、目をつぶりゆっくり息を吐く。
(……いや)
正確には、ひかりを前に出させない。ひかりに行動を移させない。翔はその気持ちでいっぱいだった。
廊下での一瞬。あの女性が口にした名前。
――遥香。
思わず漏れたような声だった。口に出すつもりもなかったような声。だが、翔が感じた違和感はそこじゃなかった。
視線だ。
あの時、女は確かにひかりではなく、翔を見ていた。
(見間違いじゃない)
名前を呼びかける直前、確かに目が合った。怯えたようでも、驚いたようでもない。思わず口にしたようなあの様子。
(もし、あれがあのことに関係しているなら……)
翔は思考を、途中で止める。それ以上考えると、ひかりに知られるような気がした。
今はまだ、必要ない。いや、これからも伝えることはない。
翔は気持ちを切り替えるために立ち上がり、部屋の片隅に置かれた資料に目を向けた。
総司が今日、持ち帰ってきた舞台のチラシ。
無造作に重ねられた紙の一枚を、なんとなく手に取る。
照明、演出、キャスト一覧。
流し読みするつもりだった視線が、そこで止まった。
「……」
胸の奥が、ひくりと揺れる。
そこに写っていたのは、今日、廊下で見た横顔。
はっきりとは写っていない。だが、間違えようがなかった。
(……舞台、か)
cabbageのメンバーでもない。テレビで見た覚えもない。
それでも、芸能の世界にいる人間。
翔はチラシを机に置き、静かに拳を握った。
(俺が動く)
ひかりには、気づかせない。
読まれない場所で、確かめる。
もし、あの女が知ってはいけないことを知っているなら。
翔は1人で動く覚悟を決める。
部屋の明かりを落とし、翔は目を閉じた。
その決意は、誰にも告げないまま。




