静寂の館、父母の思い
セレスティが貴族院に入学し、レオも上級生として学業に励む。そして、アリアもまた、特別研究科生として貴族院で学びを深めるため、リンドバーグ家を離れ、王都の貴族院の宿舎で生活するようになった。長らく子供たちの賑やかな声が響いていたリンドバーグ家は、突然、静寂に包まれた。
屋敷の広間も、庭も、そして子供たちの部屋も、どこか物寂しげに見える。午後四時の「家内放送」は、アリアが王都へ行く前に、録音したものをライナー先生が流すことで継続されていたが、それでも、アリアの生の声が直接響かないことに、使用人たちは少しばかり物足りなさを感じていた。
アレクサンダーとエリザベスは、そんな静かになった屋敷の中で、時折、子供たちのことを思い出す。特にエリザベスは、娘たちがいない食卓に、どこか寂しさを感じていた。
「この屋敷も、すっかり静かになりましたわね」
エリザベスが、小さくため息をつくと、アレクサンダーは静かに頷いた。
「うむ。賑やかだった頃が、遠い昔のようだ」
しかし、二人の表情には、寂しさだけでなく、子供たちの成長に対する、深い喜びと誇らしさが滲んでいた。
アレクサンダーは、書斎で仕事をする合間に、王都から届く手紙に目を通していた。セレスティからは、貴族院での学びの様子や、友人たちとの交流について綴られた手紙が届く。レオからは、剣術や魔法の訓練の成果、そして、アリアが貴族院で巻き起こしている「妖精たちのさえずり」の騒動について、驚きと共に報告する内容が届いていた。
そして、ライナー先生からの定期的な報告書も、アレクサンダーの元に届けられる。そこには、アリアの「声聞魔法」の研究の進捗、階層構造魔力回路のさらなる改良、そして貴族院の教授陣や王室からのアリアへの期待の高さが、詳細に綴られていた。
「アリアが……まさか、王族の方々から、ここまで期待される存在になるとはな」
アレクサンダーは、ライナー先生の報告書を読み終え、感慨深げに呟いた。かつて「落ちこぼれ」と決めつけていた娘が、王宮の危機を救い、王女の友となり、貴族院の特別研究科生として、この国の未来を担う存在となっている。その事実に、アレクサンダーは、深い反省と、そして何よりも、親としての誇りを感じていた。
エリザベスも、アリアからの手紙を大切に読んでいた。フローラ王女との文通が続いていること、王女がアリアから贈られた虹色の響鳴石を大切にしていること、そして、アリアが貴族院での学びを心から楽しんでいること。娘の満ち足りた様子は、エリザベスの心を温かくした。
「アリアも、すっかり貴族院の生活に馴染んだようですわね。あの黒板も、貴族院でも使っているのかしら」
エリザベスは、アリアの部屋の壁にずらりと並んだ黒板を思い出し、小さく微笑んだ。あの「黒板ブーム」が、王都の貴族社会にまで広がり、多くの子供たちの学びを助けていることに、彼女は今や何の戸惑いもなく、純粋な喜びを感じていた。
リンドバーグ家は静かになった。しかし、その静寂は、子供たちの成長と、彼らが王都という新たな舞台で活躍していることの証でもあった。アレクサンダーとエリザベスは、それぞれが持つ子供たちへの思いを胸に、遠く離れた王都で、それぞれの道を歩み始めた子供たちの未来に、温かい眼差しを向けていた。




