貴族院の英断
ライナー・グレンジャーとその同僚たちが提出したアリア・リンドバーグに関する詳細なレポートは、貴族院の上層部、すなわち学院長と魔法学部の学部長、そして数名の評議員たちの間で、連日熱い議論を巻き起こしていた。
「まさか、リンドバーグ家のご令嬢に、これほどの才能が秘められていたとは……」
学院長は、分厚いレポートを手に、深くため息をついた。彼の前には、アリアの階層構造魔力回路の設計図や、動物たちから得た情報が視覚化された黒板の写真などが広げられている。
「ライナー先生の報告によれば、彼女は既に、貴族院の最先端の魔法理論、特に響鳴石の共鳴現象や魔力の質に関する考察において、我々の予想をはるかに超える洞察力と発想力を見せています」
魔法学部の学部長が、慎重に言葉を選びながら説明した。彼は、アリアが11歳という若さで、これほどの研究成果を上げているという事実に、深い衝撃を受けていた。
評議員たちの間でも、意見が分かれた。
「しかし、彼女はまだ11歳。来年貴族院に入学するとしても、一年生のカリキュラムから始めるのが筋ではないか」
「だが、ライナー先生の報告を見る限り、一年生の基礎課程で教えるような内容は、彼女にとっては既に既知の知識である。それでは、彼女の才能を停滞させてしまう」
議論の焦点は、アリアの貴族院での「待遇」をどうすべきか、という点に絞られた。通常の貴族院では、年齢に応じて決められた学年から学ぶのが常識であり、飛び級は極めて稀なケースで、それも並外れた実力と学力が伴う場合にのみ認められることだった。しかし、アリアのケースは、その「実力」が、これまでの常識では測れない異質なものだった。
「今回の王宮での魔物騒動における功績も無視できません。王家の方々も、彼女の能力を高く評価されています。下手に扱えば、王家の御心に背くことにもなりかねない」
ある評議員が、王宮からの圧力も考慮すべきだと指摘した。
最終的に、学院長が、重々しい声で結論を下した。
「アリア・リンドバーグ殿の才能は、貴族院の通常の教育課程に収まるものではない。来年、彼女が一年生として入学するとしても、その枠に留めておくには、あまりにも惜しい」
学院長は、そう言うと、魔法学部の学部長に視線を向けた。
「貴族院としては、アリア殿の才能を最大限に伸ばすための、特別な措置を講じるべきだと考える。まずは、この見解を王宮へと報告し、国王陛下の御裁定を仰ぐべきだろう」
貴族院の上層部は、アリアの才能が王国にとってどれほど重要であるかを理解し、彼女の教育に対して、通常の枠組みを超えた特別な配慮が必要だと判断したのだ。彼らは、アリアが将来、王国の魔法界を牽引する存在になることを確信していた。
その日のうちに、貴族院は、アリア・リンドバーグの資質に関する詳細な報告書と、彼女の貴族院での待遇に関する見解をまとめた文書を、王宮へと提出した。報告書には、アリアが既に貴族院の最上級生レベルの知識と洞察力を持っていること、そして彼女の「声聞魔法」が持つ学術的・実用的価値の高さが、改めて強調されていた。
貴族院からの報告は、王宮にも大きな波紋を広げた。国王、女王、そして先代の王は、その報告内容に目を通し、アリアの才能が、彼らの想像をはるかに超えるものであることを改めて認識した。




