姉の驚愕、妹の「要塞」
貴族院での生活も順調に進み、セレスティ・リンドバーグは学業に励む日々を送っていた。しかし、学内では、相変わらず「黒板ブーム」の話題で持ちきりだった。食堂や談話室では、多くの生徒たちが、自宅に黒板を導入した話で盛り上がっていた。
「ねえ、セレスティ様。我が家でも、弟のために黒板を買ったのよ!フローラ王女殿下と同じものだわ!」
エレノア・クロフォードが、目を輝かせながら話した。
「ええ、我が家の妹も、黒板で勉強するのが楽しいと言っていますわ。フローラ王女とアリア様の学習法は、本当に画期的ですわね」
ベアトリス・ハートフィールドも頷いた。
「私のところでも、小さな弟が、黒板に絵を描いたりして、とても喜んでいますわ。まさか、あのリンドバーグ家のお嬢様が、こんな流行の火付け役になるとは……」
キャサリン・ウッドブリッジも、感嘆の声を漏らした。
ルシア・ヴァーノンもまた、セレスティに話しかけてきた。
「セレスティ殿。我が家の工房にも、黒板の注文が殺到しているそうです。貴族院の生徒たちの実家でも、弟妹のために買い求めている者が、相当数いると聞きます」
友人たちの言葉は、アリアの「行動」が、貴族社会にどれほどの影響を与えているかを物語っていた。セレスティは、妹の才能が多くの子供たちの学びの助けになっていることを知り、誇らしく感じた。
(アリア、貴女の黒板が、こんなにも多くの人々に喜ばれているのね……)
セレスティは、そんな妹の活躍を遠くから見守りながら、胸を温かくしていた。アリアが持つ黒板の数は、実家にある大型のものが二枚だと認識していたセレスティは、妹がその二枚をフル活用して情報を整理しているのだろうと考えていた。
数日後、実家からエリザベスからの手紙が届いた。セレスティは、母からの便りを丁寧に読み進めていた。そこには、アリアがフローラ王女からの手紙を喜び、黒板を使った王宮周辺の地図作成に励んでいること、そして、グリフィン工房から感謝の品としてキャスター付きの黒板が贈られてきたことなどが綴られていた。
そして、手紙の終わりに、エリザベスがこう付け加えていた。
「……フローラ王女殿下も、黒板を大変喜んでいらっしゃるとのこと。アリアも、新しいキャスター付きの黒板が手に入り、王宮周辺の地図作成に励んでおります。これで、アリアの部屋には、大型の黒板が三枚、それにキャスター付きの中型黒板が一つ、合計で四枚の黒板が並ぶことになりました。本当に、この子は……」
セレスティは、その一文を読んだ瞬間、思わず手紙を取り落としそうになった。
「え……四枚……ですって!?」
セレスティは、驚愕に目を見開いた。彼女が認識していたアリアの黒板の数は、大型二枚。それが、いつの間にか、大型三枚、そしてキャスター付きの中型一枚、合計四枚にまで増えていたとは。
(アリアの部屋には、いつの間に三枚目の大型黒板が……!しかも、キャスター付きまで!)
セレスティの脳裏には、実家に戻った際に見た、アリアの部屋の光景が蘇った。壁の三方に、それぞれ大きな黒板が設置されている。もはや、それは「部屋」というよりは、完全に「情報収集と研究のための要塞」と化しているではないか。
セレスティは、自分が知っていた妹の姿と、母からの手紙で知らされた妹の現在の姿とのあまりの乖離に、言葉を失った。アリアが、自分の「声聞魔法」を活かし、情報収集と研究にこれほどまでに没頭しているとは、想像以上だったのだ。
「アリア……貴女の部屋は、もう小さな情報収集基地になっているのね……」
セレスティは、呆然と呟いた。その声には、驚愕と共に、妹の才能と、その飽くなき探求心への、深い感嘆の念が込められていた。




