女王の御心、届く安堵の返事
アレクサンダーは、書斎でペンを執り、女王陛下宛に、慎重に言葉を選びながら手紙を書き始めた。
「畏れ多くも女王陛下。この度、王女殿下が、不肖の娘アリアの影響により、黒板を所望されたとの由、心よりお詫び申し上げます。娘アリアは、王女殿下との御交誼を賜り、大層喜んでおり、王女殿下から教えられた王宮周辺の情報などを整理するために、自身も黒板を使用しておりました。王女殿下の純粋な好奇心を刺激してしまったことは、恐縮の極みにございます。何卒、娘アリアの無邪気な心と、その無礼をお許しいただきたく存じます。リンドバーグ家当主アレクサンダーより」
アレクサンダーは、手紙を書き終えると、深い溜息をついた。
アレクサンダーが女王陛下宛に謝罪の手紙を送って数日後、王宮からの返事がリンドバーグ家に届けられた。厳重な封蝋が施されたその手紙は、アレクサンダーの手元に届けられ、夫婦は緊張した面持ちで、その封書を開いた。
手紙の差出人は、現女王陛下。その筆跡は、力強くも優雅で、威厳と気品が漂っていた。
「リンドバーグ家当主アレクサンダー殿、並びにエリザベス夫人へ
貴殿らからの丁重なる書状、拝受いたしました。
フローラが黒板を所望した件について、貴殿らが恐縮されていること、承知いたしました。しかしながら、貴殿らがご心配なさる必要はございません。フローラの心が、アリア殿の純粋な心と才能に惹かれ、新たな学びの喜びに目覚めたことは、むしろ我々王家にとって、喜ばしいことでございます。
フローラは、アリア殿との交流を通じて、森の生き物たちの知識や、貴族院では学ぶことのできぬ、より深い自然の理について、関心を抱き始めております。アリア殿の持つ『声聞魔法』が、単なる情報伝達の手段に留まらず、フローラの創造性、そして知的好奇心を豊かに刺激していることは、疑いようのない事実でございます。フローラは、アリア殿から贈られた虹色の響鳴石と共に、新しい黒板に、王宮の庭園で見かける鳥たちの絵や、古の物語を書き記すことに、大変な喜びを感じております。
アリア殿の魔法は、先日も王宮の危機を救いし、その価値は既に王国に証明されております。この国には、アリア殿のような、既成概念に囚われぬ、柔軟な発想と真の才能を持つ者が、今こそ必要とされていると、我々は考えております。
貴殿らにおかれましては、今後もアリア殿の才能を存分に伸ばし、貴女方のお子ら、すなわち王国の未来を担うべき若き才能を、温かく見守っていただきたいと存じます。そして、アリア殿とフローラが育む友情は、王家とリンドバーグ家、ひいては王国全体の未来を繋ぐ、かけがえのない絆となるでしょう。
この書状をもって、貴殿らの懸念が払拭されることを願います。
ラングフォード王国女王より
手紙を読み終えたアレクサンダーとエリザベスは、顔を見合わせ、安堵の息をついた。女王の言葉は、彼らの不安を完全に解消し、アリアの才能への理解と、その未来への期待に満ち溢れていた。
「お父様……女王陛下は、アリアの魔法を、ここまで深く理解してくださっていたのですね……」
エリザベスは、感動のあまり、目に涙を浮かべた。娘が王族に迷惑をかけてしまったのではないかという不安は、完全に消え去っていた。
アレクサンダーもまた、女王の寛大な心と、アリアの才能への深い洞察に感銘を受けていた。彼が最も恐れていた「異端視」されることはなく、むしろ王家から積極的にその才能を奨励されるとは、夢にも思わなかったのだ。
「うむ……女王陛下は、アリアの才能の本質を見抜いておられる。魔力量の多寡ではなく、その『質』こそが、この国に必要だと……」
アレクサンダーは、改めてアリアの「声聞魔法」が持つ、計り知れない価値を認識した。王宮の危機を救った功績だけでなく、フローラ王女の心を豊かにし、知的好奇心を刺激する力。それは、単なる武力や政治力だけでは測れない、王国にとって新たな光となり得るものだった。
その日の午後、アリアは、何も知らないまま、ライナー先生と新たな「放送」のコンテンツについて話し合っていた。アレクサンダーとエリザベスは、そんな娘の姿を温かい眼差しで見守った。女王の返事は、リンドバーグ家、特にアリアの未来に、確かな希望の光を灯した。アリアの「声」は、もはやリンドバーグ家という小さな枠に留まらず、王家の庇護のもと、王国全体へとその波紋を広げていくことになるだろう。




