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母の期待、娘の黒板

フローラ王女との文通が始まり、アリアの日常は、ますます活気に満ちていた。ライナー先生との学び、「家内放送」の継続、そして王女からの便り。王宮との繋がりが生まれたことで、アリアの表情は以前にも増して明るくなり、その行動範囲も広がっていた。


特に、エリザベスは、娘の変化を嬉しく見守っていた。王女との文通は、アリアの心を大きく成長させているように見えた。手紙を読み書きする姿は、まさに貴族の令嬢らしく、その言葉遣いも以前より洗練されてきたように感じられた。


(フローラ王女殿下との交流が、アリアに良い影響を与えているわ。このまま、もっと女性らしい趣味に目覚めてくれると嬉しいのだけど……)


エリザベスは、内心でそんな期待を抱いていた。アリアが、王女との文通を通じて、最新のドレスや流行の髪飾り、あるいは刺繍の道具などを欲しがるようになるのではないかと、ひそかに想像していたのだ。これまでのアリアは、絵本や魔術書、そして「黒板」以外に、ほとんど物欲を見せなかったから、母としては、一度くらい娘らしいお願いを聞いてあげたいと思っていたのだ。


そんなある日、アリアが、少し遠慮がちにエリザベスの部屋を訪れた。


「お母様……あの、少し、お願いがあるのですが」


アリアが切り出すと、エリザベスの心は、期待に胸を躍らせた。


(あら、ついに来たわね!今度こそ、可愛らしいアクセサリーかしら?それとも、王宮のお茶会で着るような、新しいドレスかしら?)


エリザベスは、優雅に紅茶カップを置き、満面の笑顔でアリアに視線を向けた。


「あら、アリア。何かしら?言ってごらんなさい。貴女が頼むことなら、何でも叶えてあげたいわ」


エリザベスの優しい言葉に、アリアは少し頬を染めながら、ゆっくりと話し始めた。


「ありがとうございます、お母様。あの……私、もう一つ、大きめの黒板のセットが欲しいのです」


エリザベスの顔から、期待に満ちた笑顔が、一瞬にして消え失せた。


「……黒板、ですって?」


エリザベスの声は、思わず裏返った。娘から出てきた言葉が、あまりにも予想外で、そして、あまりにも「アリアらしい」ものだったからだ。


「はい!王女殿下との文通で、王宮の周りの森の様子や、王都で流行している珍しい花の情報などを教えていただいたので、それを黒板に書き込んで、王宮周辺の地図も作って、もっと情報を整理したいんです!それに、ライナー先生も、新しい魔力回路の図を描くのに、もっと大きなスペースがあった方がいいって仰っていて……」


アリアは、目を輝かせながら、新たな黒板が必要な理由を、熱心に説明した。彼女の頭の中は、王女との文通で得た新しい情報と、ライナー先生との研究テーマでいっぱいだったのだ。


エリザベスは、思わずため息をつきそうになったが、なんとか堪えた。


(この子は……本当に、変わらないわね)


娘が、他の貴族の令嬢たちのように、華やかなものに興味を示してくれる日は、永遠に来ないのかもしれない。そんな諦めのような気持ちと、しかし、自分の好きなことに真っ直ぐなアリアへの、変わらぬ愛情が、エリザベスの心の中で複雑に交錯していた。


「そ、そう……黒板が、もう一つ、必要なのね。ええ、分かりましたわ。手配しましょう」


エリザベスは、なんとか笑顔を取り繕ったが、その声には、わずかながら疲労の色が滲んでいた。


「ありがとうございます、お母様!」


アリアは、満面の笑顔でエリザベスに抱きついた。その純粋な喜びの表情は、エリザベスの心を少しだけ和ませた。


アリアは、新たな黒板が手に入ることに期待を膨らませて、自室へと戻っていった。エリザベスは、残された紅茶を一口飲み、再び深くため息をついた。


(いつか、アリアが、私にドレスをねだる日は来るのかしら……)


そう思いながらも、エリザベスの心の中には、娘の、あまりにも「アリアらしい」成長への、変わらぬ温かい眼差しがあった。

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