王家の感謝、一夜の滞在
王宮の危機が回避されたとはいえ、裏の森からの瘴気はまだ完全に消え去っておらず、魔物の再出現の可能性も否定できない状況だった。女王は、アリアの安全を考慮し、その夜は王宮に宿泊するよう命じた。
「アリア・リンドバーグ。まだ完全に安全とは言えない。今夜は王宮に滞在しなさい。貴女の能力は、王国にとってかけがえのないものだ。我々が、貴女の安全を保証しよう」
女王の言葉に、アリアは恐縮しながらも、その厚意を受け入れた。ライナー先生も、王宮に滞在することになった。フローラ王女は、アリアが王宮に留まることを知り、嬉しそうに手を取り合った。
その日の夜、王宮の最も奥まった、厳重な警備が敷かれた一室に、アリアとライナー先生は案内された。そして、夕食後、アリアは国王陛下と面会することになった。国王は、この国の最高位の存在であり、アリアは生まれて初めてその威厳ある姿を目の当たりにした。
執務室に通されると、そこには、王国の最高権力者である現国王、その妃である女王、そして先代の王が、厳かな雰囲気の中で座っていた。アリアは、その圧倒的な威圧感に、思わず身を縮ませた。
「アリア・リンドバーグ。面を上げなさい」
国王の声は、力強く、しかし温かみのある響きを持っていた。アリアは、ゆっくりと顔を上げた。
「貴女の報告により、王宮は未曽有の危機を免れた。その功績、王国を代表して深く感謝する」
国王は、そう言って、アリアに深々と頭を下げた。王国の最高権力者が、一介の貴族の娘に頭を下げる。その光景は、アリアにとって、信じられない出来事だった。
「いえ、そんな……恐縮にございます」
アリアは、戸惑いながらも、必死に言葉を絞り出した。
女王も、アリアに温かい眼差しを向けた。
「貴女の『声聞魔法』は、単なる珍しい魔法ではない。王国の安全を守るための、かけがえのない力です。フローラも、貴女との出会いに、大きな喜びを感じている。貴女の友情に、感謝いたします」
女王の言葉は、アリアの魔法の価値を、王家が公式に認めたことを意味していた。
そして、先代の王も、穏やかな笑みを浮かべ、アリアに語りかけた。
「アリア殿。わしも、貴女の才能が、この国の未来を明るく照らす光となることを確信している。恐れることなく、その道を究めなさい」
先代の王の言葉には、アリアへの深い信頼と、未来への希望が込められていた。アリアは、三人の王族からの直接の感謝と激励の言葉に、胸がいっぱいになった。自分の「落ちこぼれ」というコンプレックスは、もうどこにもなかった。ただ、自分の魔法が、王家にも、そして王国全体にも認められたという、深い喜びと、そして王国を守るための使命感が、アリアの心を満たしていた。
ライナー先生は、別の部屋で、今回の出来事について深く考察していた。アリアの「声聞魔法」は、もはやリンドバーグ家内部の秘密ではありえない。王家の公的な情報源として、その存在が認められたのだ。これは、アリアの才能が、より大きな舞台で輝くための、決定的な転機となるだろう。そして、ライナー先生自身の研究も、新たな段階へと進むことになる。




