精霊の警告、女王の決断
女王の言葉に、アリアは安堵のため息をついた。自分の魔法が、異端として扱われることなく、女王に理解を示されたことに、心からの喜びを感じた。フローラ王女は、アリアの手を握り、嬉しそうに微笑んだ。
「アリア様!女王様も、貴女様の魔法の素晴らしさを認めてくださいましたわ!ね、お母様!」
フローラ王女の言葉に、女王は穏やかに頷いた。
「ええ、フローラ。アリア殿の魔法は、確かに純粋な力を持つようです」
女王は、アリアの真っ赤な瞳をじっと見つめ、静かに提案した。
「アリア・リンドバーグ。もし差し支えなければ、ここで貴女の魔法を見せていただけますか?貴女が小鳥たちを集めるという、その光景を、この目で見てみたい」
女王の言葉に、アリアは少し緊張したが、王女が喜んでくれることを思い、力強く頷いた。ライナー先生も、女王のこの提案が、アリアの能力を王族に深く理解してもらう好機だと判断し、静かに見守っていた。
アリアは、客間の大きな窓辺へと移動した。窓の外には、王宮の美しい庭園が広がっている。アリアは、ポルンを肩に乗せ、ゆっくりと目を閉じ、心を落ち着かせた。そして、森の小鳥たちとの触れ合いを思い出しながら、優しい歌を口ずさみ始めた。
アリアの歌声は、窓ガラスを越え、王宮の庭園へと広がっていく。込められた微量の「声聞魔法」は、自然界の生命に呼びかけ、小鳥たちの心に共鳴していく。
数秒の後、庭の木々から、一羽、また一羽と、小さな影が舞い上がった。最初は遠くを飛んでいた小鳥たちが、アリアの歌声に導かれるように、客間の窓へと集まってくる。そして、窓辺の飾り棚や、窓枠、さらには室内の花瓶の縁にまで、色とりどりの小鳥たちが、恐れることなく止まり始めた。その数は、あっという間に数十羽に達し、客間は、小鳥たちの賑やかなさえずりと、アリアの歌声で満たされた。
フローラ王女は、その光景に目を輝かせ、拍手を送った。女王もまた、その神秘的な光景に、感嘆の表情を浮かべた。
「これは……見事ですね。まさに、森の精霊のようです」
女王の言葉に、アリアは嬉しそうに微笑んだ。
その時、アリアは、集まった小鳥たちの中から、一羽の黒いカラスが、窓の外で激しく羽ばたき、警戒するように鳴いていることに気づいた。そして、そのカラスの心の声が、アリアの脳裏に、緊急の情報として飛び込んできた。
(カア!カア!危険だ!この近くに、邪悪な瘴気が満ちている!魔物が出るぞ!王宮の裏の森が、おかしい!カア!)
カラスの心の声は、アリアの心に、強い警告として響き渡った。アリアの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
「……女王陛下!」
アリアは、歌をぴたりとやめ、震える声で女王に訴えかけた。小鳥たちのさえずりも止まり、客間は静寂に包まれる。
「アリア・リンドバーグ、どうしました?」
女王が、アリアの異変に気づき、静かに尋ねた。
「女王陛下!このカラスが……王宮の裏の森から、邪悪な瘴気が満ちていると!魔物が出ると、警告しています!」
アリアは、カラスが指し示す方向を指さしながら、必死に訴えかけた。その声には、恐怖と、そして王宮への危機を知らせようとする、強い使命感が込められていた。
女王は、アリアの言葉に、驚きに目を見開いた。彼女の表情は、一瞬にして厳しくなる。王宮の裏の森は、王宮の結界によって守られているはずだった。そこに、瘴気が満ち、魔物が出現するとは、尋常ではない事態だ。
ライナー先生も、アリアの言葉に衝撃を受け、すぐに窓の外へと視線を向けた。確かに、王宮の裏の森の方角から、微かだが、淀んだ魔力の気配が感じられるような気がした。
女王は、すぐに判断を下した。
「ライナー・グレンジャー。アリア殿の言葉は信じるに足る。直ちに護衛騎士団長を呼び、王宮の裏の森の結界を確認させ、調査に向かわせなさい!私も、すぐに現場へ向かう!」
女王の言葉には、迷いはなかった。アリアの「声聞魔法」がもたらした緊急の情報は、王宮の平穏を揺るがす、重大な警告となった。アリアは、自分の魔法が、王宮の危機を救うために役立つかもしれないという事実に、震えながらも、強い決意を抱いた。




