王宮の茶会、女王の眼差し
王宮からの招待を受け、アリアはライナー先生を伴って王都の王宮へと足を踏み入れた。王宮の壮麗な建築、豪華な装飾、そして厳重な警備は、リンドバーグ家とは比べ物にならない威厳に満ちていた。アリアは、その圧倒的な雰囲気に、普段以上の緊張を感じていた。
ライナー先生は、アリアの緊張を和らげるように、王宮の歴史や、各部屋の役割について、小声で説明してくれた。彼の博識ぶりは、このような場所でもアリアの心強い支えとなっていた。
そして、王宮の奥深くにある、陽光差し込む豪華な一室へと案内された。そこには、既にフローラ王女が待っており、その隣には、気品と威厳に満ちた、現国王の妃、つまり女王の姿があった。女王は、王宮で最も強力な魔力を持つと言われる、この国の魔法使いの頂点に立つ存在だ。
「フローラ王女殿下、女王陛下。アリア・リンドバーグと申します。本日、このような栄誉を賜り、誠に恐縮にございます」
アリアは、ライナー先生から教えられた通り、深々と頭を下げた。ポルンも、アリアの肩で、大人しく頭を下げている。
「アリア様、ようこそ王宮へ。貴女と再会できて嬉しいですわ!」
フローラ王女は、にこやかにアリアを迎え入れた。その笑顔は、リンドバーグ家の庭で会った時と変わらない、親しみやすいものだった。
しかし、女王の視線は、フローラ王女とは異なり、アリアの全身を静かに見定めようとする、鋭いものだった。彼女の瞳の奥には、王国の未来を預かる者としての、深謀遠慮が感じられた。
「貴女が、森の精霊に愛された少女、アリア・リンドバーグですね。フローラから、貴女のことについて、詳しく聞いております」
女王の声は、穏やかでありながらも、有無を言わせぬ威厳を帯びていた。アリアは、背筋を伸ばし、その言葉に耳を傾けた。
お茶会が始まった。フローラ王女は、アリアとの庭での出来事を、女王に嬉しそうに報告した。小鳥たちがアリアの歌声に惹きつけられて集まり、自分の肩にも止まってくれたこと、そしてアリアの純粋な心に感動したこと。
「お母様。アリア様は、本当に特別な方ですわ。まるで、森の精霊そのもののようですもの」
フローラ王女は、瞳を輝かせながら、アリアの才能を称賛した。
女王は、フローラ王女の話を聞きながら、時折アリアに視線を向け、何かを測るように見つめていた。そして、紅茶カップを置くと、静かにアリアに問いかけた。
「アリア・リンドバーグ。貴女は、その小鳥たちを集める力を、どのようにして身につけたのですか?それは、古くから伝わる精霊魔法の一種なのでしょうか?」
女王の質問は、単なる好奇心ではなく、アリアの能力の本質を探るものだった。アリアは、緊張しながらも、ライナー先生から教わった言葉を思い出し、自分の「声聞魔法」について説明した。
「女王陛下。私の魔法は、『声聞魔法』と申します。ごく微量の魔力を声や音の振動に乗せて、遠くの相手に届けることができます。小鳥たちが集まってくれるのは、私の歌声に込められた魔力が、彼らの生命に共鳴しているからだと、ライナー先生は仰っています」
アリアは、ポルンをそっと撫でながら、自分の理解の及ぶ範囲で、真摯に説明した。
女王は、アリアの言葉を注意深く聞き、隣に座っていたライナー先生に視線を向けた。ライナー先生は、女王の視線を受け、事前に準備していたアリアの「声聞魔法」に関する学術的な考察を、簡潔に説明した。階層構造魔力回路の原理、響鳴石の特性、そして魔力の『質』が持つ可能性について。
女王は、二人の説明を聞き終えると、静かに目を閉じた。王宮の客間には、緊張した沈黙が流れる。アリアは、女王の言葉を、固唾を飲んで待っていた。自分の魔法が、王宮でどのように評価されるのか。恐れと、そして小さな希望が、アリアの胸に渦巻いていた。
やがて、女王はゆっくりと目を開き、その視線をアリアへと向けた。彼女の表情は、先ほどまでの厳しさとは異なり、どこか深い思慮と、そして微かな感嘆の情が滲んでいた。
「アリア・リンドバーグ。貴女の魔法は、確かに前例のない、興味深いものです。そして、フローラがこれほどまでに貴女に心を許していることからも、その魔法が持つ『純粋な力』は、疑いようがないでしょう」
女王の言葉は、アリアの「声聞魔法」を、異端として排斥するものではなかった。むしろ、その本質的な価値を認めようとする、理解の言葉だった。フローラ王女は、女王の言葉に、嬉しそうにアリアの手を握った。
このお茶会は、アリアの「声聞魔法」が、王宮という最高権威の場で、その存在を認められる第一歩となった。




