王女の好奇心、祖父の静かなる葛藤
先代の王とフローラ王女は、バルドリックとセレーネの邸宅で、しばしの時を過ごすことになった。王族との予期せぬ交流は、邸宅に普段とは異なる厳かな雰囲気を漂わせていたが、先代の王の穏やかな人柄と、フローラ王女の天真爛爛な好奇心は、その緊張を和らげていた。
午後のティータイム。バルドリックとセレーネは、先代の王とフローラ王女を客間でもてなしていた。王族との会話は、当然ながら厳格な礼儀作法が求められるが、先代の王は、孫娘の近況や貴族院での出来事を尋ねるなど、親密な雰囲気を心がけていた。
「バルドリック殿の孫娘たちも、貴族院で素晴らしい活躍をしていると聞く。特にセレスティ殿の首席という快挙は、学園内外で話題になっているようだ。リンドバーグ家も安泰だな」
先代の王は、満足げに微笑んだ。バルドリックは、孫たちの活躍を褒められ、内心で誇らしく感じながらも、恭しく頭を下げた。
「もったいないお言葉にございます。陛下のご期待に沿えるよう、これからも精進させてまいります」
セレーネも、セレスティの成長を語り、その才能が多くの人々の役に立つことを願っていると話した。
すると、フローラ王女が、澄んだ青い瞳を輝かせながら、バルドリックに視線を向けた。
「バルドリック様。わたくし、リンドバーグ家には、もう一人、とても珍しいお嬢様がいらっしゃると伺っておりますの」
フローラ王女の言葉に、バルドリックは僅かに眉をひそめた。彼女が何を指しているのか、すぐに理解したからだ。
「フローラ王女殿下。それは、アリアのことでございましょうか?」
セレーネが優しく問い返すと、フローラ王女は、にこやかに頷いた。
「はい!なんでも、リンドバーグ家のお嬢様は、庭にいる小鳥たちを全て集めてしまう、不思議な力をお持ちなのだとか。まるで、森の精霊に愛された少女のようだと、王都では噂になっておりますの」
フローラ王女は、無邪気な好奇心に満ちた声で語った。その噂が、王族の耳にまで届いていることに、バルドリックは改めて驚きを隠せない。アリアの「森の精霊説」が、王都の社交界でどれほど広まっているかを、痛感させられた瞬間だった。
「その噂は、確かにございます」
バルドリックは、慎重に言葉を選びながら答えた。
「アリアは、幼い頃から自然を愛し、小動物たちに好かれる性分でございました。その純粋な心に、小鳥たちも惹かれているのかもしれません」
バルドリックは、アリアの「声聞魔法」については、まだ王族に明かすべきではないと判断していた。未知の、そして理解されにくい能力が、王族の関心を引くことは、アリアにとって危険なことにもなりかねない。
しかし、フローラ王女は、さらに質問を続けた。
「まあ、そうなのですね!わたくしも、その光景をぜひ一度拝見してみたいですわ。アリア様は、今、ご実家でいらっしゃるのかしら?」
フローラ王女の言葉は、アリアへの強い興味と、実際に彼女に会ってみたいという純粋な願望を示していた。王女の望みを、むやみに断ることはできない。しかし、アリアの魔法が、王族の目に触れることで、どのような波紋を広げるのか、バルドリックには予測できなかった。
バルドリックは、静かに紅茶カップを置いた。彼の心中には、孫娘アリアの才能への誇りと、彼女を危険から守りたいという祖父としての愛情、そして王族の好奇心との間で、静かな葛藤が渦巻いていた。アリアの「森の精霊説」が、王都に広がる噂話から、王族の関心事へと変化し始めたこの瞬間が、アリアの「放送」が、やがて王国の運命を動かすことになる、その始まりを告げていたのだった。




