空っぽの部屋、満ちる探求心
貴族院への出発の日。リンドバーグ家の玄関には、アレクサンダーとエリザベス、そしてアリアがセレスティを見送るために集まっていた。眩しい朝の光が降り注ぐ中、セレスティは真新しい貴族院の制服に身を包み、希望と覚悟に満ちた表情で立っていた。
「お父様、お母様、アリア。行ってまいります」
セレスティが深々と頭を下げると、エリザベスは娘を抱きしめ、目に涙を浮かべた。アレクサンダーは、誇らしげな、しかしどこか寂しげな表情で娘の肩を叩いた。
「セレスティ。期待しているぞ」
アリアは、セレスティの前に進み出た。
「お姉様……」
アリアの目にも、うっすらと涙が浮かんでいた。いつも傍にいて、励まし、支えてくれた姉が、遠く離れた王都へ行ってしまう。レオ兄様が去った時とはまた違う、心細さが胸に広がる。
セレスティは、そんなアリアの頭を優しく撫でた。
「アリア、寂しくないわ。貴女にはポルンがいるし、ライナー先生もいる。それに、私が王都で学んだことを、きっと貴女の『放送』に役立てられると思うから」
セレスティはそう言って、アリアの小さな手を握り、優しく微笑んだ。その言葉に、アリアは少しだけ元気づけられた。
「はい、お姉様。私も、頑張ります。お姉様に負けないくらい、もっとたくさん、学んで、色々なことを『放送』で届けられるように」
二人の間に、姉妹ならではの固い絆が確かに結ばれていることを感じさせた。
やがて、セレスティを乗せた馬車は、静かにリンドバーグ家の門をくぐり、王都へと向かっていった。アリアは、馬車が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。門が閉ざされ、セレスティの姿が完全に視界から消えると、屋敷には、ぽっかりと穴が空いたような静けさが訪れた。
セレスティの部屋は、がらんとして、彼女の気配が薄れていくのを感じた。アリアは、その寂しさを振り払うかのように、自室へと戻った。
ライナー先生は、そんなアリアの心情を察しつつも、彼女の知的好奇心を刺激することに力を入れた。セレスティが去ったことで、アリアはライナー先生との午後の授業に、これまで以上に深く集中するようになった。
「アリア様。セレスティ様も王都で勉学に励んでいらっしゃいます。貴女も、彼女に負けず劣らず、自身の才能を磨き上げることに集中しましょう」
ライナー先生は、アリアの「声聞魔法」の原理を解明するために、様々な実験や考察を提案した。黒板には、アリアが動物たちから得た最新の情報がびっしりと書き込まれ、さらに複雑な魔力回路の図や、響鳴石の共鳴特性に関する数式が加わっていった。
「小鳥たちの群れの行動パターン、フクロウたちの警戒心の変化。これらは全て、自然界の魔力の微細な揺らぎと関連している可能性があります。貴女の魔法は、その揺らぎを『声』として捉えているのかもしれません」
ライナー先生は、アリアの言葉を注意深く聞き取り、彼女の直感的な感覚を、学術的な理論へと昇華させていった。アリアもまた、自分の魔法が、単なる「不思議な力」ではなく、この世界の根源的な法則に関わるものだと理解するにつれて、その探求にのめり込んでいった。
森への散策も、ただの気晴らしではなくなった。アリアは、ポルンやフクロウたちと共に、ライナー先生から与えられた課題に取り組んだ。特定の植物に近づいた時の魔力の感覚、特定の動物が発する音波の波長、響鳴石が最も強く共鳴する場所……。アリアの「声聞魔法」は、ライナー先生の指導のもと、より精密に、そして広範囲に、その力を発揮し始めていた。
セレスティが去ったことで生まれた寂しさは、アリアの心の中で、より深く、より広範な知識への渇望へと変わっていった。彼女は、自分の魔法が、姉が学ぶ王都の世界とも、そしてその先の未知の世界とも繋がっていることを、強く信じていた。ライナー先生と共に、アリアの「声聞魔法」の真髄を探る学びの日々は、こうして加速していったのである。




