姉妹の共鳴、成功の「声」
アリアが新たに発明した「階層構造魔力回路」を組み込んだ予備の送信機が完成した翌日、ライナー先生の提案で、さっそく実験が行われることになった。実験の場所は、アリアの部屋。壁には黒板が並び、研究室のような様相を呈していた。
「セレスティ様。この実験は、アリア様の『声聞魔法』が、彼女個人の天賦の才だけでなく、その原理を理解し、適切な魔導具を用いれば、他の魔法使いにも応用可能であるか否かを確かめる、極めて重要なものです」
ライナー先生は、セレスティに実験の意義を説明した。セレスティも、妹の才能が秘める可能性を信じており、真剣な表情で頷いた。
「アリアの魔法が、もっと多くの人々の役に立つかもしれないのですね。私にできることなら、喜んで協力させていただきます」
セレスティは、予備の送信機と、アリアが使っている受信機を手に取った。アリアは、セレスティが快く協力してくれることに感謝し、少し緊張しながらも、期待に胸を膨らませていた。
最初の実験が始まった。
「セレスティ様。まずは、貴女の魔力をこの送信機に流し込み、ご自身の声を響鳴石に乗せてみてください」
ライナー先生の指示に従い、セレスティは深呼吸をした後、送信機に手を置いた。彼女の繊細で豊かな魔力が、送信機へと流れ込んでいく。セレスティは、自分の心に最も近い、優しい歌を口ずさんでみた。
しかし、アリアの部屋に置かれた受信機からは、「ザー……」というノイズが聞こえるばかりで、セレスティの歌声は、途切れ途切れにしか届かない。やがて、そのノイズも完全に途絶えてしまった。
「あれ……?うまくいかないわ」
セレスティは困惑した表情を浮かべた。アリアも、がっかりしたように俯いた。ライナー先生は、冷静に受信機の状態や、送信機から放出される魔力の波長を測定した。
「やはり、一筋縄ではいきませんね。セレスティ様の魔力は、アリア様のそれとは『質』が異なります。アリア様の魔力が持つ『情報伝達』への特化性とは違い、セレスティ様は『癒し』の特性が強い。それが、響鳴石との共鳴を阻害している可能性があります」
ライナー先生は、黒板に今回の失敗の原因を書き出し、改善策を考察し始めた。
「魔力回路の階層構造は有効ですが、各層の魔力調整、特に響鳴石への魔力投入量と、声の振動との『同調率』が、セレスティ様の魔力に合わせて最適化されていない」
アリアも、自身の「声聞魔法」を初めて使った時の感覚を思い出しながら、ライナー先生と共に考察を重ねた。
「お姉様の魔力は、もっと優しくて、穏やかな感じがします。だから、響鳴石に、もっとゆっくりと、優しく伝えるような回路にしたらどうかな……?」
アリアの直感的な言葉に、ライナー先生はハッと顔を上げた。
「なるほど!その通りです!セレスティ様の魔力は、まさに『癒し』。その特性を活かすには、より緩やかで、持続的な魔力の流れが必要なのかもしれない!」
アリアとライナー先生は、早速、送信機を開き、魔力回路の微調整に取りかかった。響鳴石の共鳴周波数を、セレスティの魔力に合うよう、より繊細に調整し、魔力伝達経路の一部に、魔力の流れを緩やかにする微細な結晶を組み込んだ。
「これならどうでしょう、セレスティ様。もう一度、試していただけますか?」
ライナー先生の言葉に、セレスティは再び送信機を手に取った。アリアは、固唾を飲んで受信機を見つめている。
セレスティは、今度は、もっと意識を集中し、自分の魔力が、歌声と共に、優しく送信機へと流れ込むイメージを抱いた。そして、再び、同じ優しい歌を口ずさむ。
すると、アリアの部屋の受信機から、今度はクリアで、澄み切ったセレスティの歌声が響き渡った。それは、アリアの歌声とは異なる、優しく、包み込むような、心地よい音色だった。
「聞こえる……!お姉様の声が、はっきりと聞こえる!」
アリアは、感動のあまり、受信機を抱きしめた。
「成功だ……!見事です、セレスティ様!アリア様の発明した『階層構造魔力回路』が、貴女の異なる魔力特性でも『放送』を可能にした!」
ライナー先生は、興奮のあまり、眼鏡をずり上げ、顔を紅潮させていた。彼の学術的な探求心が、ついに一つの成果を収めたのだ。
セレスティもまた、自分の歌声が、遠く離れた場所で、こんなにもクリアに響き渡っていることに、深い感動を覚えていた。
「アリア……私たちの声が、繋がったわ!」
セレスティは、アリアと顔を見合わせ、喜びの笑顔を分かち合った。この日、アリアの「声聞魔法」は、彼女個人の特別な能力という枠を超え、適切な魔導具と方法があれば、他の魔法使いにも応用可能であることを証明した。




